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2011/05/31


広告人・佐藤尚之氏の場合

Scene;4 ソーシャルメディアという希望。

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2010年は、ソーシャルメディア元年と言われた。
twitter、次いでFacebookも話題を呼んだ。
世界の距離は短くなり、皆が発信し、ポジティブに関わっているソーシャルメディアの世界。
会社、家族、組織、国といったヒエラルキーが崩壊し、ソーシャルグラフで再編成されてフラットに変わっていくという予感。それは、佐藤さんがWebに対して感じた可能性としてぼんやり見えていた“理想形”だったという。
「…もうさあ、待ち焦がれてたんだよ。」

「インターネットって、なんだかおかしな方向に行きかけていたじゃない。
 Googleが情報を全部フラットに扱っちゃって、冷たい世界になっちゃった。
 2ちゃんねるで犯罪がどうのこうのっていう話になって、企業も炎上が怖くて使えないとか。
 そんなはずはない、世界をもし我々が変えられるとしたらそのきっかけはインターネットしかない。
  ソーシャルメディアがやってきて、“これだ”と思った。理想の姿。感動したよ。」

ソーシャルメディアの普及はバブルとも言われ、
広告やマーケティングの業界では今なお今後が注視されているが
佐藤さんは、ソーシャルメディアを客観的に論じる人を見ると、腹が立つのだそうだ。
「おれたちの手でおもしろくして、この千載一遇 のチャンスをつかむんだ」
自ら動くべき時がきた、と感じていた。

同時に感じたのは、自らが長らく関わってきた「広告」というものに対する考えの変化だった。
「ネガティブなものをポジティブに変えて世の中を楽しくしちゃう、っていう
  昔の広告のアバウトな感じは、いい加減、許されない時代になってるのかも。」
トップダウンで一方的に語りかけていた「広告」は、かならず変わっていく。
これまで、どこにいるのか見えないことが前提だった生活者が、
ソーシャルメディアの登場により、勝手につながってくれた。
もう、“Attention”を取りに行く広告はコミュニケーションではないのだ。

「“広告”っていう概念が、もう古い。 
“人に伝わるテクノロジーを使ったコミュニケーション”を模索していきたい。」
「モダンコミュニケーション」を自らの残りの時間に課し、ひとつの大きな決断をした。

四半世紀―実に25年間勤めた、電通の退社。

理由をひとつに絞るのは難しい。
残された時間を、大きな組織のマネジメントで終えたくないとも思った。
偉くなることで、自分で動く事を忘れた人間もたくさん見てきた。
「もちろん、世代間のつなぎをきちんとやりたいとは思っている。
 今年、50歳でしょう。世代間がよく見えるんだよね。
 旧来文脈の人たちは戸惑っていて、もう逃げきろうとしている。
 新しい人たちはそれを追い払って新しいことをしようとしている。
 でも、世の中そんなに単純じゃないからね。両方の力を使って、世の中をよくしないと」
その言葉には、佐藤さんが社会人生活を通じて常に、何かを批判し駆逐するのではなく、
橋を架けることで建設的な方向を追求してきた生き方が現れている。

それでも、今までの居場所を捨てなければ成し得なかったこととは、何なのだろう。
ソーシャルメディアを「透明な世界」と表現する佐藤さんは、“一貫性”を例に挙げた。
「やりたいことができない不自由さ、というよりも、個に戻らないと無理だと思った。
 個を手に入れて自由にやらないと、信用されないし、共感もされない。
 たとえば、僕がどの会社の広告を手掛けたのか、ということがオープンになる時代でしょう。
 そして、たとえば僕はタバコを吸わないということも、オープンになっている。
 そんななかで、タバコを吸わない僕がタバコの広告をやるのって、
 なんだか、不誠実だし、信用もされない。たとえばそういうこと。」

人を集め、そしてつなぐ。
意志さえあれば、“ひとりの個人”でもそれが可能になる―
ソーシャルメディアが変えたインターネットの世界だった。
「何十年、何百年に1回のチャンスが、もうそこにあるんだ。
  つながりで再編成される世界を良くして、社会を生きやすくするのは、
  僕たちこの時代を生きている人たちの使命。」

貴重なたった1回の人生、「個」に戻ることを選んだ佐藤さんは
非常に晴れやかな表情で、最後にこう言ってくれた。

「それをやってから死にたいなあ。
 何もできないかもしれないけど、なにかしら、じたばたしてから。」

佐藤尚之(さとうなおゆき)
1961年東京生まれ。電通にて、CMプランナー、ウェブ・プランナーなどを経て、クリエイティブ・ディレクターを勤める。社内に「サトナオ・オープンラボ」として、コミュニケーション・デザインを追究するチームも結成。JIAAグランプリなど受賞多数。
広告人としての著書に『明日の広告』(アスキー新書)。
1995年より個人サイト「www・さとなお・COM」 を運営。「さとなお」名義で、『人生ピロピロ』(角川書店)、『沖縄上手な旅ごはん』(文藝春秋)、『うまひゃひゃさぬきうどん』(光文社)、『ジバラン』(日経BP社)など著書多数。

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Special Thanks to Naoyuki Sato

2011/05/31 08:00 | yuusudo | No Comments