« | Home | »

2016/01/25

m308

ずっと、「オンナノコ」が嫌いだった。
同性のくせに、同性だからこそ、嫌いだった。過剰にかわいらしさをアピールするような淡い色のスカートやブラウス、媚びたような声のトーン、赤ちゃんを真似したような目を強調したアイメイク。甘ったるい香水の匂いも集団でつるまなければ何も出来ないようなところも、本当に嫌で嫌で仕方なかった。
でも、一番嫌だったのは、結局はそういう女が得をすることだ。

「おめでとう。お産は地元に戻るんでしょ? ゆっくり静養してきてね」
「すいません、忙しい時期に。育休開けたら、すぐに戻りますので」

ぺこりと頭を下げて、彼女は足早にデスクのほうに戻っていった。笑顔でその背を見送って、完全に視界から外れたのを確認し、盛大にため息をつく。部署の仕事をもう一度洗いなおして、振り分けの量を考えなければ。うち程度の会社では増員は見込めない。かわいそうだが、残りの人数でなんとか仕事を回すしかなかった。

残業を終えてから向かった焼き鳥屋で友人と愚痴をこぼし合いながらビールを飲んだ。

「そりゃご愁傷さま。でもさ、そういう子って結局復帰しなかったりしない?」
「だったら最初からそう言ってほしいよ。戻るっていうから補充も申請できないし」

彼女もまだ独身で、勤め先では同程度の地位にある。はじめて部下を持った時の喜びや言いたいことがうまく伝わらない不安、休みが取れない厳しさや責任の重さなど、本当にいろんなことを話してきた。女の癖に、とか、女の子なんだから、とか、揶揄される言葉も一緒に浴びてきた。

「あーもう! ほんとオンナノコってずるいよね」
「私たちもオンナノコのはずなんだけどねえ」

温んできたビールを飲み干して、追加を頼む。性別上同じはずの相手を揶揄していると、自分は違うんだって気分になる。オンナノコではない、きちんと自立して誰にも頼らず生きているような気になれる。女性であることの恩恵を受け損ね、かわいらしさを模倣するかわりに肩肘張って仕事をしてきた自分たちに報いてくれるのは、結局会社だけだった。だけど、いくらここで出世したって、結局社長にはなれない――そのことを、私たちもうすうす気づきながら無視している。

私たちはオンナノコではない。でも、男でもない。女としての幸せと呼ばれる結婚もしていなければ子供もいない。そんなもの、と思いながらかすかに憧れてもいることを、私は認めざるを得ない。

「一度でいいから、オンナノコ扱いされたいな」

帰り際の友人のセリフを思い出す。ほんとだよね、と思いながら、半分は嘘だって思う。
だって私は、自分でそれを拒否したんだから。
かわいい服も、甘い声を出すことも嫌だった。一人でなんでも出来るようになりたかった。だから、今の私があるのだから。オンナノコとして得をしなかった分、私が得たものも絶対にあるのだから。
一月の冷たい風を切って、私は歩く。明日も仕事だ。私が自分で築き上げてきたからこそ、自信と誇りを持っている。

================================================
*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2016/01/25 03:23 | momou | No Comments