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2011/05/02

先日、日本画で広く一般的に使用されてきた、牛から生成する三千本膠(にかわ)をつくる最後の業者さんが、廃業されました。

日本画や、書道家、日本人形の世界などでは、ずいぶん話題になり、買占めが起こったり一騒動であったのですが、実際、ほとんど添加物を加えずに、とてもシンプルに作られてきていた材料ですので、なくなってしまうことは、大変残念です。

日本画の画材は、日本独自のもの、というよりは、世界中でもともと使われてきていた、とてもシンプルな彩色画の画材です。

ものを燃やした煤に膠(牛などのコラーゲン質)を混ぜて線を描き(墨)、採取した色石や泥を砕いて、膠を混ぜて、色をつくり、草花や虫の汁で、画面を染め上げ、繊維質の草を栽培しトロロアオイなどを混ぜて、紙をすき…

そういう自然の材料で、繊細な心の色やかたちを、同じ自然の産物である、人間の手で描き起こしていくからこそ、鑑賞する人間の心に、感動の波長を与えることができるのだ、というふうに感じています。

そう信じているからこそ、わたしは、どれだけ入手に苦労しても、どれだけ扱いにくい画材と格闘しても、日本画の、天然の、最もいい状態の素材を探し、描き続けていけるのだと思います。

誠実に、美しいものを描きたい、という気持ちが、最近ますます大きくなってきています。

2011/05/02 03:30 | ikegami | No Comments