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2011/04/16

『雨あがる』

 どうも自分の好みか、鑑賞後に引きずる映画を選んでしまうが、
今回は久しぶりにさわやかな気分になれる作品。
黒澤明の脚本を小泉堯史監督が完成させた『雨あがる』。
一言でいうと、
剣術の達人なのに心根の優しさ故にチャンスをいかせない浪人と
やさしく見守る妻の物語。

ストーリー
三沢伊兵衛と妻のたよは、連日の豪雨で川が氾濫して渡れず、
近くの安宿に泊まっている。
そこには同じように足止めを食らっている貧しい人たちがたくさんいた。
彼らの中でいざこざが起こり、みんなの気分を和らげるために
伊兵衛は賭け試合で金を稼いでご馳走をみなに振舞う。
雨上がりに出かけた森の中で伊兵衛は若侍たちの果し合いに出くわして、
力ずくでそれをとめる。
その様子を目撃していた藩主、永井和泉守に気に入られ、
剣術指南番を要請される。
しかし家老たちの意見で御前試合を行ってから正式に決定することになる。
伊兵衛は内心自信たっぷりでたよに決まったも同然だと報告するのだが……
全員のキャラははっきりしているが、ステレオタイプにくくれないのが、
宮崎美子が演じるたよという女房だった。
穏やかな外見のなかに隠れた信念。
寡黙で殊勝な物腰の中から放たれる毒舌は、
そのギャップも手伝って彼女の信念をより強く聞く者の頭に刷り込む。
出しゃばらないのにここ一番で打ち込む楔の破壊力。
夫の人生はおろか、雲上人の人生観さえも動かすほどの影響を与える
たよの人間力が、饒舌が空虚さを生む今の時代に新鮮だった。

2011/04/16 12:09 | higashide | No Comments