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2009/09/05

僕の人生の中でJとSとの出会いは何事にも代えがたいものだ。僕の青春の時間の第3部の始まりだ。1部は僕がやりたいことができずにいつも空ばかり見ていた、イライラしていた中学の頃。2部はシドニーでの孤独の日々。そしてそれがようやく彼らとの出会いで変わってゆく。

入学式の日。クラスに初めて案内され席に着く。今でも鮮明に覚えている。教室に入った僕はこれから一緒に勉強していく仲間を見渡した。そして最善列の席、しかも教壇の目の前の真ん中の席にドカリと腰を据えた。鮮やかな紫色の髪の毛をした奇妙な東洋人がオーストラリア人にはどのように映ったのかと思うと今でもおかしくなる。
あの当時まで僕は常に中指を立てて生きていたパンクで生意気な青年だったんだろうと思う。僕はすでに10カ月以上のシドニー生活で、移民や外国人留学生に対するが社会的位置、どのような扱いを受けるのか、などをなんとなく理解し始めていた。その決定的に嫌だった部分は移民や留学生が移民らしく、留学生らしく、ふるまっていることだった。僕は一対一の人間関係がもてないやつはどんな人種だろうが「ろくでなし」だと思っていた。
クラスルームに入ってまず気がついたのが東洋系の生徒が数人いたこと。しかし彼ら全員が一番後ろの列の席に座っていたことだった。こういう偶然とは思えないことが当たり前のようにあることがしばしばだ。「考えすぎ」といえばそれまでの話なのだが、僕は敏感にそういうことに反応した。まして一番授業料を払っているはずの留学生が一番後ろの席で満足しているその姿勢というかこだわりのなさというか、そういったものにも幻滅していた。もしかすると僕の中に人類は平等と思っている反面、東洋人に対する仲間意識を持っていた面があったのかもしれない。

少し遅れて僕らの担任のGが教室に入った。彼は自己紹介を簡単なこれからの流れを説明した。そして名簿をみながら一人一人の名前を呼んでいった。みな顔を覚えてもらうために名前を呼ばれると立ち上がった。僕の番が来た。僕は返事をして立ち上がった。「よろしく」といえばいいものを、僕はGにむかって「外国人扱いをしたらあんたを絶対許さない」といった。一瞬クラスが鎮まる。いまだにこのことを思い出すと恥ずかしくなる。しかしあの当時僕は率直に意見を述べた。新しい世界を目の前にしてのあせりだったに違いない。
あとで知った話だがGは学校でもかなりのクセモノ教師だったらしく、他の学生に敬遠されていた。「あいつはめんどくさいよ」とか「学生に非協力的だぜ」といった具合。しかしあの日の出会い以来僕とGの間にはなにやら不思議な尊敬の意識がめばえた。

僕の暴言のあとクラスを出て帰る時、男によび止められた。「やあ、はじめまして、名前をもう一度教えてくれないか?」。 彼がJだった。

2009/09/05 11:26 | 未分類 | No Comments