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昨晩は王子にある北とぴあ・さくらホールという会場で演奏会本番でした。
演奏はシエナ・ウインドオーケストラ、指揮は世界的なサックス奏者須川展也さん。須川さんといえば吹奏楽界では東京佼成ウインドオーケストラのコンサートマスターを長年務められ、サックス界では超有名人。昔、とあるタバコメーカーのCMに出演していた事でも知られています。
今回は吹奏楽でも有名な演目が中心でしたが、前半の最後に「シナモン・コンチェルト」という、須川さんの為に書かれたサックス協奏曲がありました。今回、その曲を須川さんの吹き振り、つまり指揮者無しでやったのですが、これがなかなか大変でした。
通常「協奏曲」というのはソリストの様子を見ながら指揮者がテンポやタイミングを合わせていくもの。クラシックのように、派手にテンポが揺れ動かないジャンルなら、オーケストラがある程度ソロを知っていれば指揮者無しでもそれほど合わせるのは難しいことではないのですが、今回の曲は思い切りジャズ仕様。特に第2楽章はかなりソロが自由に歌いまわすので、神経を研ぎ澄まし耳でいろいろな情報収集をしながら演奏する必要がありました。
もともとクラシックにどっぷり浸かっている僕は、こうしたジャズテイストの曲を演奏する際、1週間くらい前からジャズばかり聴くようにして身体のビート感を変えるよう準備していきます。とはいえ、この1週間は東京交響楽団でルトスワフスキの曲などを演奏していましたから、脳はかなり混乱していたと思われますが。もちろん、この曲が収録されたCDを購入して聞くこともしましたが、ソロパートの楽譜が無いので、音符はある程度想像しながら予習する訳です。
そして迎えたリハーサルは2日間。
まず須川さんから「指揮者がいなくてテンポの維持が難しいかもしれないので、今回ベースアンプを通してほしい。君が指揮者のつもりでテンポを作ってほしい」との要望がありました。こちらとしてもアンプを通すことで指の皮がボロボロにならずに済むので、この提案は歓迎でした。但し、テンポを作る重責については多少プレッシャーとなりましたが。
初日はとりあえずソロ無し、まずは曲の雰囲気を掴もうと須川さんが全編指揮をして通しました。この時は何の問題もなく、じゃあソロを入れてやろうと2度目に通したら、さあ大変。拍の勘定が出来なくなり、混乱する場面が続出したのです。ただ、何となくこうなるのは分かっていたので、いろいろありながらも楽譜にメモを記し、この日は帰宅して音源を聞きながら頭を整理しました。
リハーサル2日目はほとんど通して終わり。演奏する場所が打楽器と離れていた関係からか少し打楽器にテンポを引っ張られるような感覚があり、僕は確固たる自信まで至っていませんでしたが、「もう問題無いでしょう」という須川さんの言葉と、バランスや時差はゲネプロ(本番前の会場練習)でいいという考えもあったので、特に「もう一度お願いします」とは言わず練習を終えました。リハーサル終了後、何人かのプレイヤーに意見を聞くと「ちょっと後ノリに感じる」という意見が多かったので、本番は多少突っ込むくらいのつもりでやろうと決心。
本番当日、ゲネプロで通してみると、金管楽器セクションから「ベースとパーカッションに時差があり、どちらに付けて良いか迷って吹きにくい」との指摘。コンサートマスターと相談した結果、僕がひな壇に上がり、打楽器群の真ん中に位置することになりました。試しに数か所演奏してみたところ、処々の問題が解決されたので「これでいこう」と結論が出たのでした。ゲネプロ終了後は客席で録音したICレコーダーで演奏を確認、ベースの音が後から膨らんで聴こえるので、思ったより早めに音を出す必要性を感じ、さらにまだ自分が後ノリな印象だったので、本番はかなり突っ込んでも良いと判断したのでした。
そしていよいよ本番。
曲が始まった瞬間に気付いた事は、「距離が離れ、目の前にトランペットやトロンボーンが並んだことで音の壁が生まれ、ソロがほとんど聞こえなくなった」こと、そして同じく距離により時差が生まれ、「木管楽器が異常に遅れて聴こえる」ということ。瞬時に「迷ったら全体が崩れる、俺の音を聞いて合わせて貰えると信じて、自分のテンポを貫こう」と決意したのでした。リハーサルで自信がなく、どんなに不安を抱えていても、本番ではある程度の開き直りと「俺についてこい」と思い込む「演技力」が必要だと思っていますが、まさにその心境でした。経験上、だいたい本番は開き直ったほうが良い結果に繋がります。
実は1楽章が始まってすぐ、アンプがミュート状態になっているのに気付き、指の力で無理やり音量を上げるというハプニングはあったのですが、これは休みの間に修復。その後、本番中は、正面に見える須川さんのソロの音を何とか拾うよう耳を傾け時差を計算して少し早目に音を出すよう意識しつつ、同時に楽譜を見ながらも、常に右にクラリネット、左にサックスという普段コンサートマスターを務める2人の身体の動きを視野に入れ、さらには真横の打楽器セクション、目の前のトランペットの呼吸を聞いてタイミングを計り、さらに少し前に居る鍵盤楽器の音を聞くことで「彼らがこのタイミングでこのテンポで演奏しているという事は、今あの位置には自分のテンポがこう聞こえている」と判断しながら微調整、さらに後ノリにならないよう自分が思っているよりコンマ数秒早めに刻む事を意識しながらの演奏となりました。
こうして文字に起こしてみると、エライ数の情報を瞬時に集め、判断しているんだな、と我ながら感心したくなりますね 笑 おそらく本番は集中力も一層増すので、リハーサル時に聴こえなかった音まで拾うこともよくあります。良い演奏家は全ての音をリハーサル時に聞いているのかもしれませんが、その意味で僕はまだ未熟なんでしょう。
演奏がどうだったのか、それは自分が客席で聞くことが出来ない以上一生分かりませんが、少なくともシエナの皆さんには「ブラボー」と声をかけて頂きましたし、普段コンサートマスターを務めてらっしゃるクラリネットの方にも「完璧!!」と言って頂いたので、多少は力になれたのかな。ともかく、昨晩は久しぶりにグッスリ眠りました。
ただ何となく演奏しているように見えて、実はいろいろな事を考え、計算し、判断しているんですよ、というお話でした。