地球の舳先から vol.321
パリ2014編 vol.5
わたしは、パリの北のほうにあるモンマルトルの丘が好きで、ケーブルカーへ乗って
サクレ・クール寺院まで行くとパリが一望できるので、よくこの景色を見に行く。
もともとは独立したひとつのコミューンで、葡萄畑と風車、そして修道院があった
その地は皮肉にも、修道女たちがワインを作っていたことから
19世紀末から歓楽街となり、かの有名なムーラン・ルージュもできた。
アーティストの町でもあり、ピカソやモリディアーニらが住んでいた
洗濯船とよばれる安アパートは集合アトリエのようになっていたこともあり
今でも芸術家が集う場所ということになっているのだが、
いかんせん観光客相手の似顔絵描きが多いのが玉に瑕なところ。
ムーランルージュの真横の小路を上がっていくと
バレエスタジオもあり、日本人の先生も教えている。
この一風変わった場所にも一度滞在してみたくて、
今回は1泊だけ宿を取っていた。
夜になれば安っぽい赤いネオンサインが光り、
それなりな気品を保つムーランルージュの風車のわきは
パリとは思えないデザイン性の風俗店やサウナ(何の?)、
ビデオショップやアダルトショップが立ち並ぶ。
映画の『アメリ』で主人公が働いていたおしゃれなカフェもあるが
小洒落たビストロよりも、アメリカふうのビアホールが目立つ。
翌朝、SUBWAY(電車じゃなく、サンドイッチチェーンのほう)の
となりのコーヒーショップで往来を見ながら朝食をとっていた。
すると、ごみ置き場の隣の可動式公衆トイレから、ドレッドヘアーで
胸元を大きく露出した、体の大きい女性が出てきた。
しかし着ているものがやたらと安っぽい。
その扉の向こうに動くものが見えた気がしたので、ん?と二度見すると
そのあと、しばらくして、おなじところから男性が出てきた。
…なるほど。
ふたりは話をするわけでもなく、男性はどこかへ消えていき、
裏で待っていた女性はふたたび公衆トイレの中へ。
しばらくするとまた別の男性がそこへ入っていく。
で、また、女性のほうが出てくる。ほんの5分、10分の話。
…儲かってんなあ。
その効率に驚く。それに、時は日曜日の、まだ朝もあけたばかりの8時前。
なんて働き者なのか、もしくはそこになにかの必然があるのか。
事情も、しくみがどうなっているのかもわからなかったが
モンマルトルのおひざ元で、そんな光景を見ながらサンドイッチを食べた。
わたしは、ひとより感受性がないのか、もしくは想像力がないのか、
血みどろの暴力映画とか、猥雑なもの(めったに見る機会はないのだけれども)
とかを見ながらでもまったく問題なく食事ができる。
サンドイッチは、チェーン店らしく安定の美味しさだった。
注文を間違えて食べ過ぎ気味の胃にさらにアップルパイを押し込み、
出かける。バレエスタジオに。
不思議なパリ。
「光と闇」なんて、くだらない表現はしたくない。
朝が来て、そのうち夜が来て、そこにいろんな人が生きていて
いろんな人が生きていける社会があるというだけなのだ。