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2014/05/26

m270

――やっぱり。

携帯の電源を切り、ベッドにごろんと横になる。うつぶせになった枕からは、変わり映えのしない夜空が見えた。涼しい方が勉強がはかどるからと言い訳をして開けっぱなしにしている窓からは、夏の草っぽい匂いが漂ってくる。夜景なんか見えない、なのに星も見えない。外はただの中途半端なド田舎だ。

グループから外されていたことにはなんとなく気づいていた。仲良しの友達で作ったグループチャットのページにアクセスできなくなっていたのだ。アップデートをしていなかったせいかと昨日は考えようとしたけれど、今日のクラスの雰囲気でそうじゃなかったんだと知った。

ちいせえな、と小声で毒付く。ちいせえよ。あいつらもあたしもこの街も小さくて小さくて、窮屈なものだと思った。中学生なんて鳥かごの鳥みたいなもんで、世界は見えるところまでしかなくて、それが分かっていながら傷ついてしまうあたしはホントにバカみたいだと思う。

うちの学校はいじめらしきいじめはない。暴力もない。あるのは陰湿な視線のやり取りと、たわいもない無関心だけだ。寂しさにさえ耐えられれば、害はない。判っている。みんなそうやって乗り越えるかやり過ごすかして、この小さな街を出て行くのだ。高校はどうせバラけてしまう。急行電車に乗れば一時間で都心の高校に通える。その距離は、何もない街に生まれた皆にとっての救いでもある。

でも寂しさに耐えることは、そんなに簡単なことじゃない。だって、今この瞬間あたしは寂しい。寂しいと感じる自分があいつらより小さい存在に感じられて、そう感じる自分が情けなくてうざったくて仕方ない。

あーあ。

ため息をついて向きを変え、オフしたばかりの携帯の電源を入れ直す。じれったくなるほどゆっくりと起動したスマートフォンのブラウザを立ち上げて、あたしはネットの海を回遊する。インターネットの世界はとても広くて、あたしの知らない国で知らない人と結婚した人のブログだの有名人のモデルの意味不明な日本語でごった返していて、それらを漫然と読み飛ばしながらいつも読んでいるあの人のページにアクセスする。シンプルだけどエッジの効いたデザイン、モノトーンだけど効果的に淡いブルーが入っていて、あたしはトップページを見ただけでどこかほっとしていることを自覚する。

その人は個人でアクセサリーデザインをやっているらしく、記事の大半はそれらの製作日記やお店の情報なのだけれど、ときどき個人的なことも書いている。子供が熱を出したとか、旦那さんと喧嘩したとか、ホントに些細なことなのだけど、なぜか妙に引き付けられてもう1年以上も読み続けていた。温かい文章、というんだろうか。美人じゃないけど性格がよさそうで、多分笑顔の綺麗な人なんだろう、と勝手に想像させる文章だった。

コメント欄を開くと、前回残したコメントにレスが付いていた。こまごました感想の終わりに、また来てくださいね、と書いてあった。社交辞令だと思うけど、なぜか癒されていた。

世界は小さい。でも、あたしは広げられるし、友達はクラスメイトだけじゃない。
自分にそう言い聞かせながら、発光するディスプレイを閉じて、眠りに着く。
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*今回の画像は「Photolibrary」さまからお借りしました。

2014/05/26 10:39 | momou | No Comments