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皆さん、おはようございます。
ネットにある情報を見てびっくりしました。
いまだにこんな誤解が出回ってるのかと・・・。
いえね、10年近く前に、あるテレビ番組で、
私の知り合いの声楽家が、
ドイツ唱法とベルカント唱法は真逆だ、
という発言をしていたことがあるんです。
その前に一緒に仕事したこともあり、
結構仲良くしていただいてたんですけども、
その番組見た時だけは、
「この人、何アホなこと流しとんねん!」と
思い切り突っ込んだものです。
曰く、ドイツ唱法は横隔膜を下げたまま、
吸った息を保つように力を入れて歌い、
ベルカント唱法は横隔膜が自然に上がるに任せ、
吐く息に載せて、力を入れずに歌う。
ベルカントについての誤解もすさまじいですが、
ドイツ唱法に至っては偏見も甚だしい!
誤解を通り越して、言いがかりの域に達しています。
ま、確かに昔の日本にあった「ドイツ唱法」とやらは、
どこの三流教師に学んだのか知りませんが、
やたら力んだ、面白味のない歌だったことは事実です。
ほとんどそのアンチテーゼのように、
イタリアに留学する歌手が増え、
イタリアのベルカントと称する歌唱法を持ち込んだこともまた事実。
しかし、上手い奴が横隔膜をほったらかしにして歌っているのを
私は一度として聴いたことはありません。
吸った息を保とうとして力んで歌うのはもちろん論外です。
しかし、横隔膜をほったらかすのは自殺行為です。
吸った息を吐き出すことが歌の奥義ですが、
素早い息を効率的に吐くためには、
横隔膜を下げておくことは必要です。
そして、息をきちんと吐ききるためにも・・・。
近年では、特に関西でそういうことがあるんですが、
「何もするな」という先生もいるようです。
ま、あれこれ訓練して迷っている生徒がここにいれば、
私はそのセリフをもしかすると言うかもしれません。
しかし、声楽初心者を目の前に、
そんなセリフは殺人行為といって過言ではありません。
何もするな、と初心者に言えば、
その生徒は吸うことも吐くこともしなくなります。
本当は、まず吐くことを覚えさせねばならないのです。
そのためには、まず力を使ってでも吐ききらせねばなりません。
吐ききることが出来れば、吸わなくても息は入ってきます。
時々息の無駄遣いをしないため、と称して、
息を保とうとする人がいますが、これは逆効果。
私なりの感覚を申し上げると、
保とうとすると、保つことにエネルギーと酸素を消費して、
かえって保てなくなる、という現象が起こります。
さて、ネットで出回っている「ベルカント唱法」、
特に、「ドイツ唱法」とやらを目の敵にしている記述を見ると、
限りなく「何もするな唱法」に近いです。
そうなると、よほど素質のある、歌いやすそうな体型でもなければ、
いつまでたっても歌は上手くならないでしょう。
ちなみに、テレビの中でその知り合いは自ら、
「ドイツ唱法」なるものと「ベルカント唱法」なるものとを
歌い分けてサンプルを提供していました。
後者はともかくとして、前者はどうだったかというと、
力が入ったのはお腹というよりは喉。
単に喉が力んだだけです。
何のことはない、この人は「ドイツ唱法」を
捉えそこなっているだけです。
じゃあ、この両者は何が違うのか、というと、
原理としては何も違いません。
単に扱う言葉が違うだけ。
言葉が違う分、フレージングなどが多少違うだけ。
フィッシャー=ディースカウを御覧なさい、
別に「ドイツ唱法」とやらではありません。
しかしながらドイツリートの大家です。
たった一つの番組だったんですが、
その説が蔓延していることにギョッとしました。
ことのついでに申し上げれば、
声楽家の大半が思い込んでいる「ベルカント唱法」ですが、
私に言わせればそんなものは「ベルカント」じゃありません。
なぜなら、18世紀以前にはなかった発声法ですから。
ベルカントの終焉は、「全滅」はロッシーニオペラ。
そして「絶滅」はヴェルディです。
そもそもベルカントとは、カストラートの発声が基本です。
つまり、大半の声楽家が「ベルカント唱法」で歌おうとしている
作品のほとんどは、ベルカントが絶滅した後の産物です。
古き良きベルカント黄金時代とやら、
つまりレコードに残っているような年代のそれを
理想とするような概念というのは、
私に言わせれば「第二次ベルカント」というやつ。
バロック時代の0次ベルカントこそ源流であり、
そのオマージュとしてロッシーニ、ドニゼッティ、
そしてベッリーニあたりにあったのが1次ベルカント。
正直、第二次ベルカントというのは、
私に言わせれば「唱法」ではなく、
「ベルカント商法」にしか見えません。
さて、ドイツ唱法の花形であると思われる
シューベルトのリートですが、
唱法は「0次ベルカント」にすべきです。
実際その頃はそういう時代だったのですから。
許せても1次ベルカントまで。
そう、今回のメインテーマは
「ドイツ唱法」の誤りを正すこと。
テーマに言うところの「ドイツ唱法」とは、
みんなが誤解している「ドイツ唱法」のことです。
つまり、誤解を解かねば、という話ですな。