前回の体臭に関してのコラムは、とても多くの反響がありました。やはりみなさん興味がおありのテーマのようで。体臭はそのものが、個人のアイデンティティと見なされがちなので、それが摩擦を引き起こし、人を引き寄せもしますからね。
息子も8歳になったあたりから急に「腋」の匂いが微かにするようになりました。日本人とオランダ人のハーフなのですが、いわゆる「白人臭」を受け継いでいるようです。そして最近、息子のクラス(オランダ)に体臭がものすごく強い子がいて、いじめの原因になっているとか。これらのケースを見ても、体臭が社会的に問題になるのは8歳といえます。8歳ですよ! 早いですよね。日本の事例を知らないのですが、似たような年齢だと考えられます。
いじめられている子からすれば、「なんで?」と思うだろうし(自分の体臭はわからないもの)、じぶんの力ではどうにもできない問題でしょう。可哀想です。専門家のヘルプが必要です。この場合はクラスの担任が本人の両親に斡旋するのがベストですので、そのように先生に申告しようと思っています。
そもそも日本は蒸し暑く、汗をかきやすい気候です。DNAがその環境に適応しようとしてきたのか、世界的に見れば日本人は「ワキガのニオイ」がわりと少ない人種です。着物の構造ひとつとってもおもしろく、子どもと女物の着物には「身八つ口」というのがあります。腋の部分がぽかーんと開いている、あれです。つまり、わざわざ腋からニオイが漏れやすい構造になっているのです・・・!
むかしは手軽な腋パッドのようなものは存在しませんでしたから、汗はかくし、腋は臭くなるし・・・。でも、開いていることを隠すようにする動作が女らしいと考えられたのだとか。今夏浴衣を着る女性のみなさん、ビラーンと見せてしまってはみっともないので、電車でつり革を持つときは、もう片方の手で隠すように持ちましょうね・・・。
伝統的には、日常的にお歯黒に使われていた「五倍子粉(ふしのこ)」というものが、腋の消臭剤として使われていたようです。現在では草木染めなどに使われる材料で、タンニン成分が豊富。そのものは決して良い匂いとは言えませんけどね。南仏では、アルム(明礬)の石けんのような固まりを腋に塗るのが伝統のようです。
日本では特に遊女たちが、体臭と香りを掛け合わせ、それをツールとして駆使してきました。主に使われたのは「沈香」です。現在は香道でのみ使われる香木ですが、昔は遊郭でふんだんに焚かれていたので、「沈香」イコール「遊郭の香り」だったようです。確かに、沈むようなリラックス効果がある、官能的な香りです。いろいろな使い方がありますが、ひとつの例としては遊女がお客様のもとに向かう前に、香炉の上に立つ(アソコに香りづけする)といった使い方があります。同じようなシーンが「カーマ・スートラ」の映画にもありましたので、アジア共通の行為なのかもしれません。ベッドの中でも使えるようなローリング型の香炉や、枕そのものが香炉になっているものも使われたりしました。
この辺りの技や道具を書くと、とても長くなりますので、また次の機会にでも・・・。ご興味ある方は、私の作品でも関連事項をとりあげていますので、そちらを参考にしてください。江戸時代、長崎出島における、遊女とオランダ人商人の「匂い物語」です。
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