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地球の舳先から vol.242
イラン編 vol.2
そもそもみんなそわそわしている、GW突入前日の会社を早く出た。
成田エクスプレスに乗って、空港へ。
ちえさんと合流し、禁酒国家に向けて空き時間で懸命にお酒を飲む。
機中、さすがにビデオプログラムが豊富なエミレーツで『ALWAYS 三丁目の夕日’64』
を見たら、シャレにならないくらい号泣して大変なことになった。
ドバイに着く頃は早朝で、あと何時間起きていなければならないのかと思いながら、
とかく体を朝の光に馴らす。
ドバイというのは、嫌いではないけれどわたしのなかで世界一くだらない場所で
ギラギラの超巨大噴水やランボルギーニの宝クジならぬ車クジなどを見ながら、
「なんだこの装飾は!この無駄な水は!あのニセモノの巨木は、ワカメか!」
と毒づいていたら、隣のちえさんに「ゆう、本当にドバイ嫌いなんだね…」と冷静に言われた。
「いや、石油王となら友達になりたい。」
しかし、そんなちえさんも「ドバイはくだらない」というところには同意してくれた。
そこからたった2時間で、テヘランへ着く。
バンコクにしてもソウルにしても、わたしはハブ空港というもののもつ空気が居心地悪い。
あらゆる別世界にまるで無機質に機体を飛ばす、そんな節操の無さが嫌なのかもしれない。
その恩恵にあずかって旅をしているくせに、勝手な話ではある。
世界はところどころ地続きで、空はひとつで、
飛行機に乗ると、当たり前だけれども国境というものがよくわからなくなる。
テヘラン便の、思ったよりも大きな機体に乗り込むと、すこしだけ緊張した。
膝の上には、着陸時にはばっちり装着を終えていなければならない大型のスカーフ。
約1週間前にテヘランへ入った友人からは、日本人だけ入国時に別室に通され、
指紋をとられたという情報もあった。
心配なのは自分のパスポートの汚れっぷりではあるが、わたしのパスポートに押されたスタンプの国々を「悪の枢軸」とみなすのは、アメリカの価値観である。
つまりイランにとってはきっと「枢軸同盟」なハズだ、と、我ながら意味不明な理論武装をした。
テヘランのイマーム・ホメイニ空港へ到着し、瞬殺で入国審査を終えたちえさんが
心配そうにわたしの動向を見守っている。
ちゃんとトイレに寄ってスカーフもかぶりなおしたし、くつしたも履き替えたし、
風紀的にはなんの問題もないはずである。
いざとなったら「わたしの友達はテヘランで外交官をしている」のカードを切ろうと思っていたが
1ページ目からしみじみとわたしのパスポートに並んだスタンプを確かめる若い入国審査官は、口が開いている。
…好奇心かよ。
かくして永遠にも感じられる数分の後にわたしのパスポートは無事 手元に帰ってきて、
エスカレーターの下では、外交特権でゲート内まで迎えに来てくれたM氏が待っていた。
もう大丈夫だな、と思った途端に、緊張の糸も緩み、湿度の高い空気に気付く。
そうだ、わたしは中東の国に来たんだ。
「イラン」というとどこか冷たく張り詰めた氷のようなイメージを持っていたのだが、
ふと現実味をもって「生身の外国に来たぞ」という実感をあの湿度で感じたのをよく覚えている。
「空港に向かっているとき、お二人の乗った飛行機が着陸するのを見ましたよ!」
そう流暢な日本語を話すドライバーのアミールさんの車で、
我々は無事に、テヘラン市街地へと高級車で運搬されたのだった。
つづく