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地球の舳先から vol.228
マダガスカル編 vol.5(全8回)
ベルベル族(日本人)に別れを告げ、わたしは一路帰途へ。
最後に立ち寄ったのが首都のアンタナナリヴ、通称“タナ”。
同じ国とは思えないくらい涼しい夜風に当たるが、気分は開放的にはならない。
「女性ひとりで歩くのはちょっと…」というくらい治安が悪い、とも聞いていた。
最低限の事に気をつけていればなんともないのだが、初日はそれも分からない。
久しぶりにぴりっと気を張って、わたしは空港から出た。
車をつけたホテルの前の幼い物乞いの少女に、景色が変わったことを実感する。
ホテルは、隣接する美味しいイタリアンレストランが有名なのだが、元日でクローズ。
フロントスタッフが何軒か電話をかけて空いているレストランを探してくれ、裏に人を呼びに行く。
まだ少年とも呼べるような子が付き添いとして、連れて行ってくれた。
お互いカタコトの英語でほのぼのと散歩をしたのも束の間。
タナきっての高級ホテルのレストランには何組か、間違いなく買春とみえるカップル。
子どものようなあどけない顔にぴっちりした露出の多い服とアクセサリーの少女を前にした
大柄な白人男性は、もはや人間というよりただの獣同然の空気を発している。
どうりで、空港やらホテルやらに、やたらと性犯罪防止のポスターやカードが沢山あったわけだ。
食事もそこそこにレストランを出ると、目と鼻の先に帰るホテルが見えた。
小さな外套、うす暗く細い階段を20段ほど下りて、すこし歩けばホテル―おそらく数分だろう。
しかし、大事をとって止めておこう、と思って、おんぼろのタクシーをつかまえた。
クリーム色の車体は、博物館に展示されていてもおかしくないようなクラシックカー。
よく見ればクルマ好きにはたまらない、年代物のルノー4である。
無事にホテルの部屋へ帰り着き、バスタブに張ったお湯は限りなく透明色に近い。
この旅で初の、蚊帳の無いベッドで、久々に虫の心配をせずに眠った。
翌朝、半日をめいっぱい使い、まずは自分の足で街をめぐる。
まだ正月休みの余韻で閉まっている店は多いものの、
鉄道駅で、ゴミのアルミで精巧につくられたシトロエンの模型を買ってご満悦のわたし。
警官に止められ、何を言っているのかわからず立ち往生するものの
どうやらスリに気をつけるよう注意をされていたことに気付く。
細い階段がたくさんある小道を、丘を上がり下がりして店を探し、
マーケットであやしげなお菓子を買い、バオバブのイラスト入りのハンコを彫ってもらう。
およそ人へのお土産にはなり得ないような、がらくた探しをするのも楽しいものなのだ。
郵便局が開いていたので、飛行機の遅延を待っている間書いたハガキを空便で友人に出す。
いや、正確には「わたしは空便分の切手代を払った」というところまでしか言えない。
友人たちにハガキが着いたのは、1カ月以上後のことだった。
バザールできょろきょろしていると、軽装の外国人(白人)に話しかけられる。
いかにもあやしいのだが、わたしが道に迷っていると思ったらしい。
目指す高台の女王宮は「距離的には近いけど坂が多いから大変」といわれ、
今度はクラシックなシトロエンのタクシーをつかまえて、高台までのぼってもらう。
大きな池を囲むように、やわらかな赤色調の街並みが眼下にひろがる。
かわいらしい街。日本の地を踏むまで、あと数十時間に迫っていた。
初めてのアフリカ地方。闇もたくさん垣間見た。
貧困も開発も犯罪も一筋縄ではいかず、様々な問題が絡まり合ってより複雑化する。
どんなに「豊かだ」といわれていても、問題のない国などないのだろう。
バオバブとキツネザルの孤島すら、「孤島」ではいられないのだ。
それでも、地球は美しい。そして、回り続ける。
なぜ自分がこの地に来たのか、わたしはようやく解り始めていた。
つづく