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2010/12/08

『サラの鍵』

今年度の観客賞と最優秀監督賞はフランス映画『サラの鍵』だった。
監督のジル・パケ・ブレネールは三年半ほど前に
ミリオンセラーになったタチアナ・ド・ロネの小説に出会い、
惹きつける力を持ったプロットに感嘆したという。
家族の中にホロコーストの犠牲者がいるという監督は
ヒットの前だったから権利が買えたと感慨深げに回想する。

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ジル・パケ=ブレネール監督

映画は二人の女性の視点が交互に切り替わる形で進んでいく。
現代のパリでフランス人の夫の間に一人娘をもち、
ジャーナリストとして働くアメリカ人ジュリアの視点。
もうひとつは、第二次大戦中のドイツ占領下パリ、
両親と幼い弟と暮らすユダヤ系フランス人少女サラの視点。

ジュリアは1942年にフランスのヴェルディヴで起こった
フランス警察によるユダヤ人の一斉検挙を調べていくうちに
60年前に自分のアパルトマンで起こったユダヤ人一家の悲劇を知る。
当時10歳だった一家の長女サラは、警察から隠すために
幼い弟をクローゼットに入れて鍵をかけてしまう。
サラは鍵を持ったまま両親と屋内競技場へ連行されていく。

ジュリアとサラ。
二つの視点が交互に切り替わり、
サラの人生を追跡するうちにジュリアの人生も影響を受けて
大きくかわっていく。

サラの視点で強く印象に残ったのが、
収容所で連行されたユダヤ人の親と子が隔離されるシーン。
高さといいアングルといい、まさに少女サラの視線そのものだ。
手持ちワイドレンズのカメラで撮影することで
あたかも自分が警察と逃げ惑う親と子の阿鼻叫喚地獄の中心にいるような
錯覚を引き起こす。
攪拌機の中に放りこまれたようにぐるぐる走り逃げ惑う人々。
夏の日差しの下でたちこめる土ぼこり。
彼らの熱気と臭気と絶望が眼の前にある。

ブレネール監督は映画の撮影に当たって、
そこに投げ込まれたような臨場感をもう一度作り直すことを心がけたというが、
この五感を刺激するカメラワークはその意向に十分こたえていた。

2010/12/08 11:30 | higashide | No Comments