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2011/09/21

地球の舳先から vol.208
台湾編 vol.4

台湾には、見所がたくさんある。
それは、日本に北海道があり、東京があり、金沢、京都、長崎、沖縄、小笠原があるように。
顔の違う、それぞれに濃い多くの見所がある。これも、ひとつの国をリピート訪問しないわたしが毎年台湾へは行きたい、と思った理由のひとつだ。
そして、小さな島国の移動は思いのほからくちんで、
到着日に台北に宿泊して備えた後に翌日どこかで1泊すれば
2泊3日でも2都市を大いに楽しめるコンパクトさも魅力。

1回目の台湾は欲張りすぎて、台北のさらに北にある「千と千尋の神隠し」の舞台である九分から、最南端の町・墾丁までとくとくと下っていったものだが、今回は目標を1箇所に定めていた。

日月譚(にちげつたん)。

語感からして美しいレイクリゾートは、
太陽と三日月がふたつ横に並んだような湖の形から名付けられた。
早朝には朝もやがかかり、幻想的な光景になるという。
そして、この湖を利用して、アジア最大規模の水力発電をしていることも
“311以降”のわたしの心をとらえた。

台北からわずか1時間弱の新幹線に乗り、送迎の車で山道をぬってさらに1時間。
それでもたったの2時間足らずで、全く違う顔を見せてくれる台湾は、やはり稀有なところ。
湖畔を臨むように切り取られた一角に、それはあった。
日月譚、最大級のリゾートホテル、「ザ・ラルー」。

宿泊先としてのそれは、筆舌に尽くしがたい魅力があるので
次回、写真とともにレポートしたいと思う。
まずは日月譚をのぞむラルーの施設としての紀行から。

 

天気は、曇り。
入り口に文鳥の籠があったのは、この国では幸せの象徴だからなのだという。
わたしは、旅に出ると、こと自然現象との相性が悪く、
出没率97%以上のオーロラも見れなかったことを筆頭に、全敗を更新していた。
オーストラリアでドルフィンウォッチングで本当にイルカが現れたときには
まさにこの目を疑ったほど。
「もやにけむる湖畔の美しい…」という触れ込みの日月譚は…
…やはり、雨が降った。

  

しとしと雨のなか、大きな傘を広げられて、うずくまっていると、睡蓮の花が開いた。
水嵩を増して、鯉が跳ねるように泳ぐ。
そしていよいよ雨足が強くなった頃が、冒頭の写真の光景である。
わたしはただ、見とれるしかなかった。
水面を打つ雨滴がこんなにも美しいと、思ったことは無かった。

ここは、水のリゾートなのだ。
雨にぬれてなお一層美しい光景に、視界のすべてを支配され、わたしは言葉を失った。

 

雨の音を聞きながら、湖畔に面したティールームで、遅めの昼食を取る。
湖が一望できる絶景は、宿泊客に限られたホットスポット。
たっぷりの飲茶はどれもびっくりするくらい美味しくて、
台北でも相当評判のお店に行ったが、比ではなかった。
海老入り、蟹、薩摩揚げに似たもの、など、30個近く食べた気がする…。

台湾らしく、ホスピタリティは非常に控えめかつ細かく、こちらが気を遣うほど。
お茶の作法は台北と同じく、缶入りの茶葉を買ってなくなるまでいくらでもお湯を足してくれる方式。余った茶葉はラルーの刻印の箱に入って、お持ち帰り。

雨が止んだころ、ちょうど部屋の用意が出来上がったようだった。
このリゾートでは終始、日本語の出来るスタッフが対応してくれた。
もちろん24時間つきっきりなわけではないのだが、そう錯覚するほどに
外出や食事のタイミングを読み、フロントを通過するときには必ずいてくれた。
ほっぽり出されても筆談とジェスチャーで旅の行程を生き延びる程度の些細な自信はあったが、好意に甘えて終始、彼に日本語で助けを求めまくった。

なかでも一番印象に残っているのは、陽が落ちたあと、リゾート入り口の文鳥の籠があった場所が淡い照明に取り替えられているのを見て
わたしが「トリは?」と聞いたときのことである。
(こうして字面だけを見ると随分高慢に感じられるが、「文鳥はどこへ行きましたか」では通じない気がしたのである)

彼は、「夜ですから」、と言った。
もちろん個人差はあろうが、このときにわたしは、この国の人達とわたしは、同じ範囲の価値観のなかで生きている、と思ったのだ。
優しい言葉だったし、それで会話が成立したことを、わたしはとても嬉しく思った。

つづく

2011/09/21 02:08 | yuu | No Comments