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2011/06/11

今日のテーマは、「ヨーロッパと日本の、アートの意味の違い」について。とくにアートやデザインを目指す、若い方達に読んでいただければと思いながら書いています。

先日たまたまなのですが、テレビ番組で、「コミュニティ・デザイナー」山崎亮さんの活動を知りました。

過疎化の問題を「人と人の問題である」と捉え、人の関係を再構築することで解決へと結びつけようとする彼の試み。それを彼は「コミュニティ・デザイン」と呼んでいます。

人の関係をデザインする? なんじゃそりゃ?! そんなふうに思う方も多いのではないでしょうか。

デザインというと、素敵な器をデザインしたり、ウェブサイトをデザインしたり、公共空間的なものでは標識などをデザインしたり、というイメージが一般的なところかと思います。デザイン学校で習う「デザイン」もおおむねそういう類いのデザインです。

しかしこういった既存の「デザイン」では捉えきれない彼の活動は、おそらく、日本の若いアーティストやデザイナー、そして建築家たちに広く影響を与え、もっともっと受け入れられて行くでしょう。

それはなぜか。彼の活動自体が素晴らしいのはもちろんです。地方の問題は経済発展の落とし子であり、こうしたクリエーティブなアプローチが必要とされています。でも他の要因として言えるのは、日本にはヨーロッパでいうところのアートもデザインも存在していないから、こういった新しい種が受け入れられ易いという背景です。日本に存在しているアートもデザインも、ほとんどがヨーロッパからの「移植」であり、自生しているわけではないので、新種の花を排除するほど強くはないのです。

ヨーロッパのアートは(デザインも含め)歴史的に、市民がじぶんたちで革命を起こして、血まみれになって手に入れてきた「表現の自由」です。「アートは、金持ち(ブルジョワ)だけのものじゃないんだ!」と、それこそじぶんたちで土を耕し種を植えて、咲かせた花です。言い換えれば、「自由の証」であり、「生の証」でもある。いまパリの美術館にいけばモナリザを拝め、広場の中央には英雄の彫刻があるのは、その恩恵なのです。市民が、芸術を、みずからの手で獲得したのです。

フランスではその歴史的経緯から、政治がそれを保護し、市民に保証しています。ドイツでの保護者はギャラリー・ビジネス。オランダではというと、半分くらいは市民、残り半分は王室。現ベアトリクス女王様ご自身がアーティストなので、もし女王様が引退したら、オランダのアート・シーンは厳しくなるだろうという見方もあります。

ヨーロッパのアートシーンには、「アートこそが生き方そものもの」みたいな、そんな人たちがいっぱいいます。「これが俺の生き方である。俺のこの生き方、何が悪い」みたいな。何を作ってるか、そしてその質などは、二の次なんです。これほど傲慢というか、自信満々になれるのはやはり、保護してくれる人がいるからなのでしょう。

ヨーロッパにおいては、こういった土着の花々が強すぎて、新種の花は根を張るのが大変です。そもそも「新種の花、要りません」といった風潮がある。それほど、ヨーロッパのアートシーンは、良くも悪くも保守的です。メディア・アートといえば、日本の美大ではすでに完全に受け入れられている領域ですが、ヨーロッパではまだまだアナーキーな響きがあります。

私は学生時代、パブリックアート(公共空間におけるアート)に取り組んでいました。しかし、卒業してヨーロッパに渡って、「パブリック・アート」といっても、通じないことに気づきました。ヨーロッパにおいては、アートはそもそも、既にパブリックなものなのです。なぜわざわざそれを強調する必要があるの?ってなかんじです。そこで初めて市民革命のことに気づきました。(それでパブリック・アートから全く違う方向へ転換し、「匂いのアート」なんて始めてしまうことに。)

近代の日本には、明治の開国、そして戦後という、2回の海外からの影響の波がありました。アートもデザインもそのときに、海外から波に乗って辿りついたものです。必要があったから発展したわけではない。日本に必要なものとして古来より発展して来たのは工芸でした。そこには保護者もいましたが、新たにやってきたアートやデザインには、いまだ保護者がついていません。

話をコミュニティ・デザインに戻すと、これは日本の土壌の上に撒かれた立派な種と言えそうです。日本には日本に合う花があります。山崎亮さんを学科長として呼んだ京都造形大学は、それをよくわかっている数少ない美大で、私も折々お手伝いをさせていただきながら、その土壌を感じています。ぜひ若い方達に、その新しい風をどんどん感じて欲しいですし、私も今後の行方を見守っていきたいと思っています。

(冒頭写真は、オランダ・ロッテルダムのなにげない地下駐車場です。歩道や横歩道のデザインがカッコいいなと思って撮りました。)

2011/06/11 11:17 | maki | No Comments