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2015/03/05

過日、サッカーのブータン代表チームが、
ワールドカップ予選に参加するために出発、というニュースを見て、
「あれ、ブータンってワールドカップ予選出たことあったっけ?」
という疑問がはたと湧いてきた。

さて、以前も本コラムでお伝えしたことがあるが、
サッカーのブータン代表は、現在、FIFAランキング(注1)最下位に沈んでいる。
その大きな要因は、そもそも対外試合をほとんど戦っていない、ことにある。

注1)直近4年間の「国際Aマッチ(注2)」の結果から計算される。
注2)年齢制限のない代表チーム(=Aナショナルチーム)同士の国際試合。

FIFAの公式サイトには、各国の代表チームの戦歴が載ったページがあるのだが、
ブータンのページを見て、衝撃の事実が明らかになった。
なんと、2003年以来、実に12年間も「公式戦」を行っていないのだ!


(引用:http://www.fifa.com/associations/association=bhu/index.html

ちなみに、その、最後に行われた試合は、2003年10月17日、
相手はイエメン代表で、0-4で敗戦している。


俄然、興味が湧いてきたので、さらに調べを進めていくと、
「公式戦」と、いわゆる「親善試合」との意外な関係が見えてきた。

日本代表を見ている感覚では、親善試合とはその名の通り、
特にタイトルの懸かっていないテストマッチ的なものをイメージする。
互いに利害が一致した相手との調整を兼ねた試合、という位置付けだろう。
ところが、中には国際大会であっても親善試合扱いをされているものがある、
ということがわかってきた。

その前に、まず、説明しておかなければならないのは、
ブータン代表を組織しているブータンサッカー連盟は、
言わずと知れた、「FIFA(国際サッカー連盟)」、
日本も所属する、「AFC(アジアサッカー連盟)」、
そして、その下部連盟にあたる「SAFF(南アジアサッカー連盟)」、
以上の3つの連盟に所属している、ということ。

まず、FIFA主催試合で最も代表的なものは、
ご存知、4年に一度開かれるサッカーの祭典、FIFAワールドカップである。
ブータンは、2000年にFIFAに加盟したのだが、
これまで、ワールドカップには、予選にすら参加がかなわなかった。
つまり、今度行われる2018年大会の予選参加が、ブータンにとって、
初めてのワールドカップ予選への参戦、という歴史的な瞬間となる。

次に、AFC主催試合と言えば、先日日本代表がベスト8で敗退した、
AFCアジアカップが真っ先にあげられるだろう。
ブータンはというと、2000年、2004年と地区予選敗退、
その後は、ワールドカップ同様、予選にすら参加できてない。

ちなみに、前述の、12年前に最後に行われた公式戦は、
この、2004年アジアカップの地区最終予選であった。
残念ながらこのとき、ブータン代表は、6戦全敗、得点0、失点26で、
ダントツの最下位に沈んでいる。

そして、おそらく日本人の大半がその存在すら知らない大会で、
AFCチャレンジカップ、というAFC主催の大会がある。
簡単に言うと、アジアカップの下位ランクの大会。
AFC加盟国のうち、FIFAランキングで下から数えて16ヵ国が出場できる。

要するに、どんなにがんばってもFIFAワールドカップはおろか、
アジアカップ本大会に出ることすら夢のまた夢、という国を集めて、
下位層の底上げを目的として創設された大会、らしい。
(なお、2014年大会を最後に、その役目を終えたとして終了が決まった)

この大会は、実は、予選の試合は全て「親善試合」扱いとなる。
ブータンは残念ながら、2008年、2010年、2012年と、予選で敗退。
したがって、FIFAサイト上では、全て親善試合扱いとなっている。

最後に、SAFF主催試合で、南アジアサッカー選手権という大会がある。
ブータンは、この大会に積極的に参加しており、
2003年から、6大会連続(ほぼ2年おきに開催)で出場している。
が、この大会もまた、国際大会ではあるものの、全て親善試合扱い。

まあ、SAFF加盟国の中で圧倒的な強さを誇るインドですら、
FIFAランキング171位(2015年2月現在)という時点で、
大会自体のレベルも推して知るべし、といったところではあるのだが…


とここまで調べてきたところで、はたと立ち止まる。
「あれ、親善試合しかやってないにも関わらず、
 ブータンのFIFAランキングがここ数年上下しているのはいったい…?」


(引用:http://www.fifa.com/fifa-world-ranking/associations/association=bhu/men/index.html

と、ここまできてようやく、一つの誤解に気づく。
そう、筆者はこれまで、親善試合はあくまでも非公式試合であって、
FIFAランキングには影響しない、と考えていたのだが、
どうやらそうではない、ということ。

「親善試合」も、きちんと国際Aマッチとして、
ランキングポイントに加算されている、ということがわかった。
これ、意外と知らなかった人も多いのではないだろうか?

タイトルでわざと誤解を招くような書き方をしてみたが、
あくまでも、FIFAのサイト上で「国際大会公式戦」と表記するか、
あるいは、「親善試合」と書くか、という、
形式上の取り扱いに過ぎない、ということのようだ。

つまり、ブータンが、この空白の12年間で行った「親善試合」は、
名実ともに、れっきとした「公式戦」だった、ということが判明した。
という、なんとも締まりの無いオチである。

まあ、何れにせよ、FIFAが認める国際大会の予選会に出るのは、
実に12年ぶり、という点だけは確かである。


ここまで、ブータンのサッカー事情を追いかけてきたわけだが、
こんなくだらないことを真面目に調べているのは、たぶん自分くらいだろう。

ところで、最近、ブータンのサッカー界隈ではこんな話題も。

伊藤壇、ブータンのチームと契約!国と地域18番目│スポーツ報知
http://www.hochi.co.jp/soccer/world/20150227-OHT1T50203.html

アジア18カ国目のブータンリーグに挑戦。海外転戦の先駆者・伊藤壇の生き様│J SPORTS
http://www.jsports.co.jp/press/article/N2015030211210302.html

当然、ブータン国内のサッカーリーグはプロではないので、
契約、と言っても具体的にはどういう待遇なのか、
そもそも、どうやって生計を立てていくつもりなのか、
興味は尽きない。

今度、ブータンを訪れた際に、それとなく探りを入れてみようか。


2015/3/12追記

本日行われたワールドカップ一次予選第1戦で、
ブータン代表はスリランカを相手にアウェイで1-0の勝利!
歴史上初めて、ワールドカップ予選での勝ち星を得た。

次戦、3月17日、ホームでの戦いで引き分け以上であれば、
勝ち抜け、二次予選への進出が決まる。
ちなみに、ホームスタジアムがある首都ティンプーは、
標高2,000mを超える高地にあり、対戦相手に不利と言われる。

もし、二次予選に進めば、ドロー次第では日本と対戦の可能性も…
そうなれば、少なくとも日本での試合は見に行きたいものだ。

ところで、改めてFIFA公式サイトを見ると、
なんと、代表チームの戦歴が更新されている!

先日見たときは、2003年10月17日のアジアカップ地区最終予選、
対イエメン戦が最終戦歴で、その後の試合は親善試合扱いになっていたが、
2013年9月6日、南アジアサッカー選手権グループリーグ、
相手は奇しくもスリランカ、が最終戦歴になっていた。

まさかの、後付けで親善試合が「公式戦」扱いになっていた、
という、さらに締まりのない展開。
それだけ、ブータン代表が国際試合を行うことが珍しいことの証明、
ということだろうか。

2015/03/05 12:00 | fujiwara | No Comments