« 南日高の聖なる森 | Home | 平行線の議論(ある対談・41) »
ノンバーバルパフォーマンス「GEAR」を見てきました。
GEARのサイト
GEARというのは、京都のアートコンプレックス1928という劇場でロングラン公演されているステージ。
2012年の4月から公演が開始されているそうで、内容を少しずつバージョンアップしているとはいえ、
一つのテーマでこれほど長いロングラン公演をしているショーというものは、日本ではなかなかないのではないでしょうか。
開演以来パフォーマー仲間、パフォーマンス観覧仲間が
「とてもよかった」「もっと早く知っていればよかった」「また行きたい」と言っていて、
近くに来る機会があったら是非とも見てみようと思っていたのですが、
Patio Liveにて大阪に来て、その帰りがけに寄ってみたのでした。
いやいやいやいや、実にすばらしい舞台だった。
これをたったの4200円でみられるとは。
ストーリーなどはネタばれになってしまうので極力触れませんが、
壊れかけたおもちゃ工場で一心不乱(いや、正確にはプログラミングされた通りに、といったところか)に働く「ロボロイド」たちと、
突如彼らの前に現れ、自由奔放に振る舞う「ドール」のお話と言ったところ。
4人(体?)の「ロボロイド」は、
あることがきっかけになって、それぞれ、ブレイクダンス、パントマイム、マジック、ジャグリングという才能を開花し、
彼らのソロパフォーマンスがあるのですが、
その才能が開花した時の「何を見せてくれるんだろう!」というワクワクな感じがまず素晴らしかったし、
ひとつひとつのパフォーマンスもとてもかっこいい。
そして、そのソロパフォーマンスを彩るストーリーのパートもとてもよくて、5人が、舞台上を走り回る姿が本当に楽しげで、
見ている側までハッピーになれる、そんな舞台だったと思います。
今パフォーマンスシーンで最もホットなツールである「プロジェクションマッピング」というやつがありまして、
ケータイのコマーシャルなんかで、さまざまな歴史的建造物に色々鮮やかな光を投影して色々なシーンを作り上げるアレなのですが、
GEARでも演出の一部として取り扱われていました。
プロジェクトマッピングは、今ならもれなくそのアイテムを使うだけでイベントができてしまう、「主役」になれるツールだと思うのですが
(僕は、あれは「現代版花火大会」だと思っています)
そのプロジェクトマッピングもあくまで5人の主人公たちを彩る存在として使っていた、というのも感銘を受けたポイントです。
他にも賞賛を送ることができるところはいくらでもあって、
例えば、パフォーマンスが開始する前の「ケータイはお切りください」のアナウンスから既に世界観に入っているところとか、
途中で紙吹雪が舞ってくるのですが、その紙吹雪の一枚一枚にさえ、ここがおもちゃ工場であるという設定が反映されているところとか、
セットの素晴らしさとか、ちょっとした小ネタの面白さとか、5人のキャラクター付けとか、
あと、「バージョン3.70」という言葉があらわすように、反省から進化をし続けているであろうこと(勝手な予想ですが)であるとか、
もう、書ききれない。
今、その演技を振り返ると、
「シルク・ド・ソレイユ」のような、大がかりなセットを組んで、1000人以上の観客を入れ、
ダイナミックなパフォーマンスを楽しむようなそんな舞台での演技とは
全く異なるアプローチがある、ということについて、強く考えさせられます。
アートコンプレックス1928という劇場……というか、GEARのために貸し出されているこの舞台は、
京都という大都市に建てられたビルの一角を劇場にしたようなところであり、
客席も100前後といったところなのではないでしょうか。
ただ、それだけに、パフォーマーと客席の距離感がものすごく短く、
僕などは運よく(?)一番前の席だったのですが、ほとんどまばたきをしない「ドール」と目があって照れてしまうくらい。
(当然「客いじり」の餌食になりました)
それゆえに、「パントマイム」も「ブレイクダンス」も「マジック」も「ジャグリング」もダイナミックに見える。
紙吹雪は大量の紙が顔に当たるくらい舞ってきたし、ショーの途中で火花が散った後、焼けた鉄のような匂いも漂ってくる。
まさに「五感がフルに刺激される」という形容がぴたりと合うステージであったと思います。
「パントマイム」「ブレイクダンス」「マジック」「ジャグリング」。
4つの演目は、どれも聞いて名前を知らない人というのはいないのではないかというくらいメジャーなパフォーマンスのジャンルです。
しかし、個人的な考えでは、これらのパフォーマンスは、何かしらの工夫をしない限り、シルク・ド・ソレイユのような数千人のオーダーの大舞台には
なかなか上がれないパフォーマンスだと思っています。
1000人規模の大舞台でメインで行われるパフォーマンスは、空中からつるされたロープや布を利用したエアリアルであり、
特大のセットを組んで行ったり、大勢の人数で行うアクロバットであり、
細かな動きよりはダイナミックさを売りとしたパフォーマンスです。
ジャグリングも演目としてはありますが、シガーボックスのような手元でやるパフォーマンスは、まず大舞台に出てこないですし、
クラブやリングのような「華」のある道具を使って、多人数でパスしあうなどのことをして
ようやくアクロバットに対抗できるもの、であると思います。
マジックも(知識がないのであまり大それたことを言えないですが)
大舞台で目にするのは、人が消えたり虎が出てきたりするイリュージョンマジックがメインなのではないでしょうか。
そんなに多くシルク・ド・ソレイユ作品を見ているわけではありませんが、
ダンスも、パントマイムも「ソロ」として出てくることは稀有で、たいていは「クラウン」がネタとしてやったり集団の演技の一部であったりします。
しかし、GEARでの主役は、客席に近いマジックであり、「一人」が主役のブレイクダンスであり、表情までしっかりと見えるパントマイムでした。
我々が見た回のGEARはジャグラーはディアボロメインで、勿論存分に個人の能力を発揮できていたと思います。
ようは、「パフォーマーと観客席が近くて」「それほど広くない」、ということを、十二分に活かしたパフォーマンスであり、
素晴らしいエンターテイメントだと思うわけです。
これは、まったくシルク・ド・ソレイユとは異なるもので、「こういう見せ方もあるのか」と、目からうろこが落ちるような内容でした。
同じショーをするパフォーマーから見て、
出演者であるジャグラーたちを羨ましく思うという感想もあります。
「ジャグラー」としてGEARに出演しているのは、全部で4人。この4人が日替わりで出演しているようです。
(ほかのジャンルのパフォーマーも同様、数人でローテーションしている模様。)
4人とも僕はよく知っていまして、間違いなく日本のジャグラーの中でも「一流」で「本物」のジャグリングができる方々。
先輩である渡辺あきらさんをこう呼んでしまうのは失礼にあたるかもしれませんが、
僕にとっては、4人とも、全員同じ時期に切磋琢磨をした「戦友」です。
その4人が、勿論もともとから実力のあった4人なわけですが、
この舞台に立つことによっていい影響を受けないわけがない。
演出も、お客様との絡みも、精神的にも、もちろん純粋なジャグリングの技術でも、
ガンガンに鍛えられているであろうことは想像に難くありません。
勿論僕も、Junk Stageの舞台や、昨年9月に浅草演芸ホールで行われた「浅草ジャグリングカーニバル」など、
似たような大きさの、「観客席と距離の近い」ステージでのパフォーマンスを行ったことはありますし、
それぞれがとてもためになったとは思います。
しかし、それらの舞台は、その日一日のために作られたチームであり、
それに向けて入念に準備をすることはできても、基本的には「それっきり」の舞台であり、
同じパフォーマンスを振り返って、悪かった点を直し、良かった点を生かして、さらに良いものにする、ということは残念ながらできません。
それはそれで舞台のあり方の一つとして当然良いと思うわけですが、
GEARはロングラン公演ですから、お客さんの反応を見ながら演出を変えていくこともできるし、
舞台も、脚本も、演出も5人を活かすために作られたもので、
その中で思う存分自分の役割を演じることができることの、なんと幸せなことか。
さらに、先ほども書いたとおり、
シルク・ド・ソレイユの舞台では、クラウンがネタに使わない限りシガーボックスという手元で操られる道具にスポットライトが当たることは
まずないと思っています。
しかし、GEARで(シガーボックスがメインとなるジャグラーはおそらく出演者の4人の中にはいないですが)
仮にシガーボックスが演じられたとするならば、おそらくは観客を魅了することもできるであろうと想像でき、
シガーボックスの将来性にやや悲観的な考えを持っていた僕に、十分な希望の光を見せてくれたような気がします。
無論、シルク・ド・ソレイユが行っているサーカスエンターテイメントを否定する気はさらさらないですし、(今度OVOとかも見に行きますし、)
シルク・ド・ソレイユに10000円を払って見に行く価値は十分にあると思っていますが、
こんな極上のエンターテイメントが身近にあるというのは……京都に住む人が何ともうらやましい。
近くにお住まいの方には是非ともおすすめしたいですし、
観光なんかで京都に行く人もいるでしょうから、GEAR観覧をそのツアーの中に入れるというのも良いのではないでしょうか!?
また、先に書いたとおり、パフォーマーはローテーションで変わっていくようですから、
次に行ったときには別の内容で楽しめる!!
そういう意味で、是非とも「また行きたい」と思えるステージでした。