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2014/08/16

強い風は思いも寄らぬところから…

自分が起こした行動の、
そのたったひとつの些細なことが
思いもよらないものと結び付くことがあって.

何かをやることによって
初めて繋がっていく、今までは縁の無い世界の
魅力的な住人たちとの出会い.

今から書くことは、その例のひとつ.

colum_08_01

colum_08_02

これは最近のではなくて、けっこう前のもの.

ドイツの演出家、ペーター・ゲスナー氏が
主宰、旗揚した地元北九州の劇団「うずめ劇場」.
今は東京にその拠点を移して活動されている.

そのうずめ劇場が、2003年9月に北九州演劇祭で演じた
「ペンテジレーア」のポスターを、思いもよらぬところから
ペーター・ゲスナー氏直々のお声がけをいただき
担当することになった.

2003年と言えば昨年写真展をしたギャラリー、
WALD ART STUDIOが、未だモダンアートバンクWALDと
名称されていた頃で、そこで「Apartment」という
ギャラリー内に「アパート」を模した建築物を創って
各室に住人として作家それぞれが部屋に入居する…
という現代アートの企画展に参加していた頃.

apartm_02

apartm_01

これがそのときの模様.ちょうど2001年の個展
「自己嫌悪病棟 case1:夜来るもの」の流れで
その作品をベースにして、いっそそのまま空間を創ってしまえと
「病で白くなった部屋」を創ったわけだけれど、当時もオーナーに
言われたことだけど、まあチカラ入り過ぎてる..そんな感じ.

他の現代アートの世界の作家さんたちと
一夜限りのクラブでのアートイベント的なものでなく
きちんとしたギャラリーで初めてコラボレート
させてもらったのはこれが初めて.

今まではそうしたことを企画して集めるサイドにいたところから
参加作家として呼んでもらえたのも、これが初めてだった.

その頃からそうしたカタチで、しっかりと企画されたものや
招待いただいた場所の、アウェイな感じに
なかなか溶け込めないのは今も変わらないとこだけど…

でも、そういう感度の高い企画に呼んでもらえて
今まで繋がり無かった写真の世界の外側、
自分とは全く違う場所とそしてそこで創り続けている
作家たちと繋がれるのは自分がちゃんと最前線にいることが
出来ているようにも思えてすごくドキドキする.

写真で何かをやれたからこそ出来た繋がり
それも単に「写真」という括りに留まること無く
全く別の世界の「表現」たちと出会えること.
そのことの僕は大きな意味があると思っている.

それはどことなくこの「junkstage」にも通じているようにも思う.

ちょっと話が逸れたけれど「異なる世界へ繋がること」
それは僕がこの「Apartment」で自分の世界の外側と
繋がれたからこそ、そこからまた別の、異なる世界と繋がる
発端が産まれることになっていった.

それが冒頭に書いた演出家、ペーター・ゲスナー氏との邂逅だった.
このポスターで使用する写真を選ぶにあたって、
氏からは特別な指示はまったくなかった.

ポスター用として、演目ハインリヒ・フォン・クライストの
描いた悲劇「ペンテジレーア」を意識することなく
一通りこの戯曲の筋やリハーサルを何度か観ただけ..という状態で
何しろ演劇の世界、そこそのものが僕にとっては初めての世界だった.

だから、あえて演じられるものに合わせて写真を提出する
ということからは外れて、その時自分が撮影していて
リアルタイムで進行していたものの中から
幾枚かのカットを劇団員の方、ペーター氏に観ていただいて
使用する写真が決まっていった.

ポスターに使用されたものの原板はこちら…

m39

モノクロフィルムの増感処理で撮ったもので
これをそのままではなくてデザイナーさんの手を経て
鏡面反転とカラー化と画像調整が加えてある.

colum_08_03

演劇など観たこともなく、知識もないような
自分が撮ったこの一枚に、その世界では一線にいる方々に
何かがちゃんと伝わった..と感じたことを今でもよく覚えていて.

たったひとつの展示、たった一枚の写真
それがまったく予想外の世界と結び付いて
強い風が吹き、別の何かを残すことが実際にあって.

今自分がいる場所とは異なる世界でそこに棲み、
自分と同じように、またより以上に
何かを伝えようとしている住人たち.

そんな世界を知ってしまうと、
なかなか止めるのも難しくなって.

「Apartment」とはよく言ったもので
薄壁一つ隔てた向こう側、すぐそこにそれは存在していて
その隙間が見えるか、入れるか..でその後の展開も
また自分自身が創るものにも影響していく..
きっと、全ては関係性の中で響き合っているのだとも思う.

きっとまた何処からか、風は吹いて来る.

さあ、今こそわたしは
わたしの胸の中へ降りて行く、
竪穴へ降りて行くやうに、
そしてそこから鑛のやうに冷たい、
一切を絶滅させるやうな
感情を掘り出すのだ

『ペンテジレーア』

2014/08/16 09:13 | hideki | No Comments