こんにちは。上田麻希です。
さっそくですが、
そもそもなぜ「アーティストという生き方」なんて、大それたタイトルのブログにしてしまったのかを、今日はお話ししましょう。
「アーティスト」というと、なんとなく胡散臭くて怪しい、そしてロックで特別な人種といったイメージを持たれる方は多いかと思います。・・・たぶん、そのイメージは現実からはそうかけ離れていないかと。(^^)
もちろんアートの聖地であるここヨーロッパでは、そのイメージは日本よりは多少マシですが、基本のラインはそう変わりません。子どもの学校などで、「あなたの職業は」と聞かれて、「芸術家です」と答えると、「あら、まあ! そう。へー。」と目を丸くされます。
みなさんの周りに、いますか? 職業「アーティスト」なんていう人。そうそういないでしょう。
けど、だからこそ、「アーティスト」という響きが「カッコいい」とイメージする方がいらっしゃるのも事実です。特に若い方。実際、アーティストという職種は、名が出るまでの生活に苦労しますから、そのリスクを負ってでも自分の表現を追う生き方には、潔いものを感じますよね。
では、どうやったら「アーティスト」になれるのでしょうか。
カンタンです。「あなたは何をやってる人?」と聞かれて、堂々と「アーティストです」と答えられれば、あなたは立派なアーティストなのです。
もしAさんが、日々絵を描いて暮らしているけど、それで生計は立てられないから、実は昼間は会社勤めしているとしましょう。それでも、「あなたのご職業は?」と聞かれ、「アーティストです」と言えるのであれば、Aさんは立派なアーティストです。社会の中で自分を「アーティスト」と位置づけるのは、それだけ勇気が要る事なのです。Aさんには、「会社員です」という社会的に安全な選択肢だってあるのですから。
(余談ですが、「会社員」というのは、国際的には職業とは見られません。英語に訳すのに困る言葉のひとつです。日本にオリジナルな職業カテゴリです。)
ではなぜ、自分がアーティストであると答えるのに、勇気が要るのでしょう。前述した「あまり良くない社会的なイメージ」の他にも、要因があるのです。
「アーティスト? でも、あなた、会社勤めしているでしょ」
「はい、それはまあ、絵描きではなかなか生計たてられないから・・・」
「じゃ、アートは趣味?(= 売れない、つまり、才能が無いのね。)」
そう見られるのがオチです。それを覚悟で、「自分はアーティストです」と言えるかどうか。カッコ悪い自分も含め、アーティストである自分を認める覚悟があるかどうか。そこが分かれ目なのです。
アーティストか、そうでないか。そこを分けるのは結局、そういった生き方なり生き様なりを受け入れられるかどうか、という一点に尽きるのだと思います。才能があるかとか、絵の上手いかとか、絵を売って生計が立てられているか(その世界に認められているかどうか)などは、別な問題なのです。
・・・とエラそうなことを言っている私自身も、この考えに至ったのはほんの最近のことなんです。試行錯誤の人生の中で、見つけた考え方です。
私の経験を、夢見る若い方達に少しでも生かしてもらえるのであればと、ブログコラムの執筆をお引き受けし、このタイトルを与えました。次回も、この命題に対して考えてみる予定です。乞うご期待〜。
はじめまして。「匂いのアーティスト」上田麻希です。現在、オランダを拠点にしています。
匂いのアート? そんなものあったの? とみなさん思われるでしょうね。確かに新しい領域で、日本ではあまりまだ認識されていませんが、ここヨーロッパではそろそろ流行が始まりそうな勢いなんです。
アートといえばふつうは目で見て、耳で聴いて楽しむものですが、私の作るものは鼻(嗅覚)で楽しむものです。匂いを素材として扱い、「嗅覚のためのアート作品」を作っています。
匂いはふつう、香水やフレーバー、アロマテラピーなど、いろいろな形で身の回りに存在しますよね。わたしが探っているのは、こういった実用の範疇を超えたところに、どんな可能性があるのかという点です。
たとえば匂いにより引き起こされるイマジネーションや感情。そして嗅覚が新たに切り開く知覚体験。アートの可能性として、まだまだ未知の世界が、そこに眠っているのではないかと思うのです。
ちょうど美術館に絵を展示するかのように、匂いを作品として展示しています。まさにひとつひとつの展示が実験そのものです。インスタレーションやライブ・パフォーマンスという形をとることもありますが、ワークショップという形で体験を共有する方法をとることもあります。こうして嗅覚に真っ正面から取り組む作家は、世界にも僅かしかいないのではないかと思われます。
匂いのアートを始めたきっかけをお話しましょう。長いですよ。
実は小学校に入ったあたりから趣味でポプリの調合をやっていたほどなので、嗅覚は敏感な方でした。
高校時代のアメリカ留学先では、言葉の通じないフラストレーションから本格的に絵を描き始め、はじめてアートへの魅力を認識しました。
かといってすんなり美大に進んだわけでもなく、大学では五感や知覚、情報学などに関する総合的な勉強をする傍ら、メディア・アーティストとして世界的に活躍されていた藤幡正樹先生のお側でアートを学ばせていただきました。
卒業後はメディア・アーティストとしてオランダで活動を始めました。というか、2002年あたりに、気づいたら、オランダに流れ着いていたんです。ヨーロッパの中でもわりとオープンで、肩肘張らなくてもいいオランダのアート・シーンが、無名駆け出しの頃の私にとって魅力的な土壌に見えたのかもしれません。
その後オランダで結婚・出産し、ふつうのお母さん並みに家事・育児に追われ、それまでのように仕事もできなくなり、焦りました。そこで思いました。今は休業して、この状況を逆手に取り、家でしかできない小さな実験的なことを始めよう、と。
嗅覚への重要性を妊娠・出産を経て再認識したこと、匂いをメディウム(媒体)としたアートはまだ未開の領域であること、身近に蒸留技術の手ほどきをしてくれる友人がいたこと、手近なアトリエとしてそこに自宅のキッチンがあったことなど、いろんな条件が重なって生まれたのが、私の今の仕事です。
プロフィール
上田麻希 (JP/NL)
www.ueda.nl
1974, 東京生まれ。
アートと嗅覚の融合を試みる、「匂いのアーティスト」。匂いは今や、新しいメディアでもある。「視覚的要素を排除すればするほど、嗅覚体験が強くなる」という独自の信念に基づいた制作姿勢から生まれるものは、視覚的な要素が殆ど意味を持たない、新種の作品である。匂いはこの場合、想像を膨らませるか、知覚の混乱を誘う役割を担っている。
食べ物、香辛料、そして体臭など、ありのままの匂いを素材から抽出し、「香水化」している。それは調理法や化学的手法から編み出した独自の方法である。幼少の思い出の匂い、アイデンティティの匂い、感情の匂い、歴史の匂いなどをもとに、インスタレーションやワークショップなどの形をとって作品を発表している。
慶応大学環境情報学部(学部1997卒&修士1999卒)にて、藤幡正樹氏に師事し、メディア・アートを学ぶ。2000年文化庁派遣若手芸術家として、2007年ポーラ財団派遣若手芸術家として、オランダ&ベルギーに滞在。2002年よりオランダに移住。2009年、ワールド・テクノロジー・アワード(アート・カテゴリー)にノミネートされる。世界的な「嗅覚のアート」のリーディング・アーティストとして、オランダ王立美術学校&音楽院の学部間学科Art Science や、ロッテルダム美大ウィレム・デ・コーニングアカデミーにて教鞭をとり、「匂いのアート」を教えている。