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2011/06/28


広告人・田中徹氏の場合

― 広告は、数字に負けるか?

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GTは、結成初年度にX-BOXの仕事で一躍注目を浴びた。
世界からも評価され、日本のクリエイティブ・ブティックの急先鋒のように躍り出た。
「たまたま大きい仕事が目立ってるだけじゃない?」と本人は真顔で言うが、
日本でも、GTとは何者なのかという趣旨の記事が出たくらいである。
傍から見れば絶好調の印象があるが、感慨深かった仕事を聞くと田中さんは沈黙する。
良かったことも、悪かったことも、大きな仕事も小さな仕事もあったはずだが、
そうした案件個別の問題より
「…毎回、トラブルや難題をみんなでどうやって切り抜けたか、のほうが印象に残っていますね。」という。

田中さんにとって心地のいいサイズで、同じくその環境を心地いいと感じてくれる人が
集まり、自然体で仕事をする。そして、ひとりではできないものを生み出す。それが、GTの存在と、田中さんの満足との真ん中にある、唯一の必要十分条件なのかもしれない。
「僕らのルールは、携帯電話に出ることと、犯罪を犯さないこと。これだけ。」

社長の肩書きを持って、変わったことは当然ある。
「やばいな、っていうことは要所要所ありますよ。だから手も抜かなくなったし。
 サラリーマンだったら、通帳見て眠れないとか、ないでしょう。
 でも、なんだかんだで間に合ってきた。」
クライアントに尊敬できる人がいれば「その人のために」となるし、独立後改めて
フリーの人の気持ちがわかって、「あの時は悪いことをした」と思うこともあるという。
田中さんの中では、いつも人が中心だ。

だが、「人」を中心と据える田中さんのパーソナリティとは異なり、
業界からは「インタラクティブエージェンシー」と、“カテゴリ領域”で認識されることも多い。
GTには、インターネットが現れ、広告にどう利用していくのかが模索された時代に
自由な発想で多くの事例を作ってきた実績が多くあるためだろう。
「アナログも、デジタルも、どっちもやりたかった。それだけなんだけどね。」
という田中さんは、デジタルを礼賛することを決してしない。

「コンピュータで人間は幸せになれただろうか。
 より忙しくなって、一時が万事。携帯電話くらいで止まればよかったのかも。
 レコード屋さんや本屋さんは減っちゃったし、なくしたものもいっぱいある。」
その感覚は決して、田中さんだけが懐古するものではない。
この2011年6月に復刊した、雑誌『WIRED』の13年ぶりの最初の特集は
“テクノロジーはぼくらを幸せにしているか?”だった。
いま、私たちが思うよりもずっと多くの人が、行き詰まりと答えとを求めているのかもしれない。

*     *     *

広告にも、「効いているほうの半分」と、「効いていないほうの半分」があるとよく言われる。
これは、「目に見える効果」と「目に見えない効果」とも言い換えられる。
情報が整理され、行動が分析されるインターネットとそのテクノロジーは、確かに偉大なのだろう。しかし、情報は広告ではなく、数値化できないものが胡散臭いわけではないこともわたしたちは知っている。

「リサーチからは、新しいものは生まれない。」
全てを数字にしてしまったら、実もふたもない ―― 一方で効率や理論は拠り所ともなる。
「僕らの仕事は、理屈に負けちゃうんだよ。」
だからどれだけ人の心を動かしたのか、そんな見えない効果を業界は「広告賞」に求めた。
それは、数字と理論に駆逐されてしまいそうな中にある、ひとつの光だったのかもしれない。

しかし世の中は再び変わりつつある、と田中さんは言う。
「特にこの数年。大きくは、リーマンショックとあの大震災。
 広告は“消費を促す”もの。それだけが変わっていない。
 でも、“本当に必要なモノはなんだろう?”ってことをみんな考え始めている。
 電気がないなら、夜暗くてもいいじゃん、って、思ってるでしょう。」
価値観のレベルで、「わたしたちは、何を求め、どこに向かって走っているのか?」というものが揺らぎ始めているのは、程度の差こそあれ多くの人が感じている“現在”ではないか。

これは、変化し続けるのが常である世の中で、
特に「広告」にとって、本質的な変質を遂げるかもしれない。
「消費」が人の心を動かさなくなるとしたら、「広告」とはどこへ行くのだろうか。
逆に、やや「情報」や「理屈」に寄りつつあった広告は、数字で測れない「人の琴線」とともに存在してきた原点にふたたび還る可能性もある。

必要以上に力むことをしない田中さんは、自然体のまま穏やかに言う。
「まあ、僕も、子ども小さいし、まだ働かないとねえ…。」

まだ見ぬ、明日の広告の世界への“グラン・ツーリズモ”は、続いている。

田中 徹(たなか・とおる)
GT INC.代表。クリエイティブディレクター。
電通、ワンスカイを経てGT INC.を設立。
ACC CM FESTIVALグランプリ、TCC最高賞ほか受賞歴多数。

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Special Thanks to T.TANAKA & FUKUDA-san / GT Inc.

2011/06/28 08:00 | vol.3 田中徹 | No Comments

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