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2011/05/17


広告人・佐藤尚之氏の場合

関西式コミュニケーションと、クリエイティブへの疑問

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「東京っ子なんです、僕」
「…見えないですね」
「…そうでしょう。」

「もともと、性格も生き方も“広く浅く”。人生の目標とか、なかったから。」
小学校時代から活字の虫だった佐藤さんは「フツーの」大学の経済学部へ入り、
雑誌・新聞・出版・メーカー・商社、すべてできる領域の大きさに惹かれ、広告会社を選ぶ。

85年、日航機事故の年に電通に入社した佐藤さんはそれから14年間を関西で過ごした。
希望したもののまさか行けると思っていなかったクリエイティブへの配属にも大いにびっくりしたし、
何の縁もゆかりもなかった大阪での生活で、相当人間が変わったのだという。
衝撃を受けたのは、まず、関西式のコミュニケーションに対してだった。

「東京の人って、見栄っ張りというか、カッコつけるでしょう。
  ズボン買いに行っても、おなか引っ込めて買う。
 関西人は、おなか出して買うから。その方が楽やん?って。
 関西人はまず“自分を笑う”。
 このコミュニケーションは、“カッコイイ”事をするのより余程オトナだと思ったよ。」

時代もよかった。電通のよいところでもあるメリハリ文化。
ワーっと仕事して、ワーっと遊ぶ。それはとにかく、振り切れていた。
「広告代理店っていったら、都会で、カッコよくて、ハワイでタレントがにっこり、みたいな。
 そんなイメージ、すぐに吹っ飛んじゃったよね。」

コピーライターとして、入社2〜3年目から錚々たる企業の仕事を、
俯瞰した立場で任される状況は、東京にいてはあり得なかったことだと振り返る。
それ以上に、縦割り横割りではないフラットな組織カラーにより、コピーだけではなく様々な仕事に触れることができたことが、後のキャンペーン志向を強めていくきっかけにもなったようだ。

*     *     *

3年目に、会社のローテーションシステムにより営業に転籍となったとき、
そのダイナミズムに、「広告会社にいるなら営業だな」と思い直したという。
クライアントが“何銭”の単位でモノをつくっていることを、頭ではわかっていたつもりだった。
しかし、みんなに恐れられていた某企業の名物宣伝部長が佐藤さんのことをなぜかとても可愛がってくれ、込み入った話もするうちに、事業主側の課題と現場を初めて肌で知るようになる。

それに対する、広告会社のクリエイティブの仕事の、なんと傲慢だったことか。
クリエイティブを作品と呼んではばからない人たちを佐藤さんは素直に「バカだと思った」という。
人のお金を使って、自分のやりたいことをやるとは何事か、と。
クライアントの課題解決が目的なのに、コピーの賞があることすら、おかしいと思うようになった。

営業はいつも「クリエイティブ様々」と立ててくれていた。しかしそれは尊敬によるものではない。
クリエイティブを諦めて甘やかし、つまりは馬鹿にしていたのだとわかってしまった。
「本当にモノがつくりたいのなら、プロダクションに行けばいいんだよ。
 本当にクリエイターになりたいのなら、個展でも開けばいい。」

その思いは、佐藤さんだけが感じたものではなかった。
営業へ行ったクリエイティブの人間は、みな
「クリエイティブに戻る? 営業に残る?」と何度も話をしたという。
結局、佐藤さんは、1年でまたクリエイティブに戻ることを選択した。
“見えた”うえで、営業感覚を持ったクリエイティブの人間でいることを望んだのだった。
その頃には自然と、「キャンペーン全体をどう構築するか」に興味が行くようになっていた。

端的なエピソードがある。
とある企業のコーポレート広告の仕事で、目的が「病人を励ましたい」というオリエンだった。
佐藤さんはコピーライターとしての責務も背負ってはいたが、“病気の人を励ますコピー”をのせた広告を出しても意味がない、と思ったという。
広告を「読んで」もらっても、仕方が無い。
だったら、励ますことにお金を使ったほうがどれだけいいか。
結果、アーティストに絵を描いてもらい病室の壁に貼るホスピタルアートプロジェクトへ昇華した。

*     *     *

コピーライターの傍ら、CMプランナーとしても多くの仕事を手掛けた。
1社のCMを10年の長きにわたり担当し続けたこともある。
「でもCMって、伝えるための部品でしかなくて。伝わってるかどうかわからない。
 そんなもの作ってどうするんだろう、と思うようになった」
自然な変化ではなく、自らの手で産み、肌で感じた「Web」との差だった。

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次回予告/Scene3;
広告人・佐藤尚之氏の場合
Webの可能性を確信した、阪神・淡路大震災。
(5月24日公開)

2011/05/17 08:00 | vol.2 佐藤尚之 | No Comments

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