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2010/11/02

地球の舳先から vol.194
チベット編 vol.5

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チベットで雇っておいたガイドが、「スキあらば手を抜きたい」タイプで助かった。
自分の足で歩くことがほとんどできない北朝鮮の旅のようになるかと思っていたからだ。
早々ににこにことガイドをリリースし、ラサの街中を歩く。
ガイドブックに載っている旧市街の観光スポットは、ほぼ回ってしまっていた。
寺や城、世界遺産などにあまり時間を割かないことも一因である。

ぼろっちいカフェに入る。汚い。トタンの屋根は、カラスがその上を歩くたびにギシギシいう。
むわっとした熱気と騒音に、「お、当たり」と直感する。
地元の人々が集まるカフェを見つけられたらしい。
木のささくれが足にささりそうなぼろっちいベンチと、前の客に汚されたテーブル。
1杯10円ほどのバター茶は、2杯目以降はおばちゃんを呼んで席で現金と交換する。
しかし、相当積極的におかわりアピールをしないと、なかなか振り向いてもらえない。

父親に連れられてきたらしい複数組のファミリー。しかし母親の姿は見当たらない。
お茶を飲みに来ているというよりは、談笑をしに来ているのだが…
机にバラまかれた、チャイ代にしては異常に多い小額紙幣。
真剣なまなざしは手の中のトランプに向けられている。
賭けトランプか…。
母親の不在も頷ける。日本でいうところの競馬かパチンコあたりの感覚だろうか。

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こんなところに外国人がいるのが珍しいのか、はにかみながら写真撮影をせがまれる。
外国に行くとしょっちゅう遭遇するこのシチュエーションには、毎回驚かされる。
自分が写った写真をデジカメのモニターで確認するだけで、満足げなのだ。
毎回、次の旅の際はチェキを持っていったら超絶人気者になれると思うがまだ実現していない。
言葉は通じないが、じっと外国人を見つめる子ども、カメラに目を寄せて子どもの背中を押す親、カメラを取り上げて小首を傾げるわたし、俄然おすまし顔になる子ども、モニターを見せるわたし…
といういつもの一連の動作を繰り出すと、確実に会話している、とおもう。

というか、英語もスペイン語(←キューバに住んでいたのですこしわかる)も通じない国へ行くと
もはや、複雑な交渉や取材など以外に、言語なんてほんとうに必要なのだろうかと思ってしまう。
中途半端にわかる英語圏で「コトバ」で会話しようとしているときよりも、
ボディランゲージと情況のコンテクストでしか会話できない諸外国のほうが
よほど、ラクにコミュニケーションが取れている気がしてならない。

汚い机に地図を広げ、どこへ行こうかと思案していると、興味深いものが目に入った。
「シデ・タツァン(廃墟)」。説明ゼロ。地○の歩き方は、肝心な事に限って教えてくれない。
すぐ近くだったので、なにはなくとも行ってみることにした。
すこし歩き、迷彩服にライフルを提げた軍人の立つ角を曲がる。
迷いも紛うこともなく、たしかに「廃墟」がそこにあった。

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めちゃくちゃに破壊された、おそらく僧院らしいものが、そのまま残されている。
いや、正確には「そのまま」ではない。経典を書いたカラフルな旗が無数に飾られていた。
廃墟を囲むように、コの字型にならんだ古い家々。決して裕福とはいえないものを来た人々が
まるでなにかの共同住居のように、入り乱れて生活している庶民の暮らしがあった。
ちょっとしたスラムのよう、といえば、そう見えなくも無い。
旧ユーゴスラビアで、NATOに爆破された建物が片付けられもせずそのまま残っていた光景を思い出す。
それでも、旧ユーゴと違ったのは、まるでその僧院を守るように囲んだ住居とそこに住む人たちが
息づいていたこと。タイムスリップしたような、場の雰囲気の違いに圧倒される。 

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空に向けられたお手製の銀板には、ヤカンが吊るされていた。
決して暑くはないが、標高が高く太陽光の強いここでは、これでお湯が沸くのだろう。
もしかしたらここが、わたしが見たいちばんチベットらしい光景だったかもしれない。
静かで、敬虔になにかを守りながら、それでも部分的に受け入れ、とにかくも生きている――
その光景の真ん中にあるものが“廃墟”だったことはかなしいことなのだろうが
少なくともここには、迷彩服の兵士の姿も、赤地に黄文字の中国当局のスローガン看板も無かった。その放置ぶりは、不気味なほどに。

日本に帰ってから、このシデ・タツァンのことを調べてみた。
やはり、中国の文化大革命のときに破壊された僧院のようだ。
しかし文革といえばかの悪政・毛沢東時代、1960年代後半から70年代前半の出来事だから、
もう半世紀もあの廃墟は“廃墟として”存在していることになる。
壊しもせず、残しもせず。危うい停戦線が、ここにもあった。

つづく

2010/11/02 08:10 | ■チベット, ■チベット(中国) | No Comments

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