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2010/10/05

地球の舳先から vol.190
チベット編 vol.1

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このチベット編は、残念ながら政治的なシリーズになる。

チベットへ行きたい、と、ずっと思ってきた。
わたしは、中国が嫌いである。いや、憎んでいるといってもいいかもしれない。
しかしそれは、中国全土になにかが起こって中国人が絶滅してしまえ、というものではない。
当然、銀座に住んでいると、彼らのマナーの作法にはあきれるばかりだし、
それも「文化の違い」と受け容れられるほどに寛容ではいられないくらい、
澱のように不快感は溜まっていくものだが、しかしわたしの「反中」は正確に言えば
「反中」ではなく「反中共」つまり中国当局にたいするものであり、至極政治的な問題である。
人として、中国人にどうこう、というものではない。

「フリーチベット」と声を上げはじめるのは、20年遅かった。
チベットは、すでに中国に併合されている。
しかし、わたしたちは忘れてはいけないのだと思う。
この“現代”において、中国がしたことを。
はるか昔のことだろう、と思うような、虐殺、拷問の最果てのようなことがこの数十年のうちに起きていて、そしてそれはいまも世界のどこかしらかで起きているということを。
国は間違いを犯す。かつての日本軍もそうだし、ヒトラーも、おそらく仕方がなかったとはいえ
日本に原子爆弾を落とした当時のアメリカ軍も。例をあげれば枚挙に暇がない。
日本人のわたしたちは、「日本帝国軍」の歴史と名のもとに、
戦争や侵略とかいったことは遠い昔の過去の愚行のように感じているのだと思う。
しかし、こと世界に目を向ければ、それは現在進行形の現実だった。チベットも、しかり。

チベットはもう、チベットではないし、中国を旅行するようなものですよ。
ある人はわたしにそう言って、やんわりとチベット行きをとめてくれた。
しかし、わたしにもほんの少しだけれども自負があった。
たとえ中国にごてごてに虚で塗り固められていても、なにかしらは見抜ける、と。
キューバの人々の温和な目の向こうにみえた社会主義の圧政と弊害も、
東ティモールの軍部の塀の中できこえた爆音がつたえる「平和」の表面的な意味も、
かの地が「いまとなってはただの観光地です」というモノではないことを教えてくれていた。
わたしはどうしても、ここを通らなければならなかった。

チベットでは自由旅行はゆるされていない。
現地の代理店を手配し、それでもラサ市内以外はガイドが同伴しないと行けないところが多い。
もちろんその「ガイド」は、入念に中国政府の教育を受けた者である。
ガイドブックには「運がよければガイドなしでも行ける」という記述があるが、それは
最悪の場合死人が出ることになるので、どちらにせよ、自由旅行はすべきではない。

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(事前に申請したチベット自治区の入境許可証。市内は割合自由だが
 ちいさなラサ市内を出るにはこの許可証が必要になる。)

中国お得意の赤い横断幕がつづく大通り、小さな村にこれでもかと強姦的に立てられた中国国旗、市内に入るときの下品な色合いの花輪…かの国の“いつものお作法”に呆れつつも、あいた口がふさがらなくなるのはラサ市内へ入って数分のことだった。
ガイドは、「まずこれをかならず言いなさい」と教育されているようになんの脈絡もなく
「人口は、チベット人が90%、中国人が10%」とよどみない日本語でのたまったのである。

…失笑。それ以外にどんな反応が出来ようか。しかし、彼に怒ってみたって仕方ない。
中国はチベットを「少数民族」に仕立て上げる為、併合以降 凄い好条件で中国人の
移住を推進し、一方で宗教的理由でチベット人を拷問虐殺してチベット人の人口を減らしてきた。
これが、新疆(ウイグル自治区)や内モンゴルでも中国が取った民族浄化政策の一環である。
チベット自治区において中国人の人口がチベット人を上回ったのはもうずっと昔の話なのだ。
こんな背景は、「世界史」においてはわたしでも知っている常識レベルの問題であり、
人口の90%がチベット人、とのたまうガイドに、この旅のほとんどのことを見た気がした。

突っ込もうかと思ったが、キューバに居住していたわたしは共産主義(社会主義)政府の
おそろしさも知っている。世界中のなによりも怖いのではないかとも思っている。
一生日本へなど帰れなくなるかもしれないことすら、なんら大げさな杞憂ではない。
たいした理由もなく「政治的理由」で投獄された日本人もわたしは知っている。

中国政府にムリヤリ「言わされて」いるのなら、まだいい。
しかしまだ無邪気なほど若く、かつ英語日本語との3ヶ国語を操るおそらくエリートな彼は
本気でそう思っているのだ。情報の隔絶されたこの場所で。
神経がぴりぴりと寒気立っていく。想定内、だったはずの状況下で、それでもわたしは思った。
これが現代の、現実なのだろうかと。

悲しい旅になる。久々に、そんな予感がしていた。

つづく

2010/10/05 01:01 | ■チベット, ■チベット(中国) | No Comments

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