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2010/04/06

地球の舳先から vol.162
フィンランド編 vol.11(最終回)

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“静”
これがわたしにとってのフィンランド旅行だった。

なにか神がかった静謐さがあり、そのみえないなにかが規制をしているような
静粛で暗黙のルールの中で存在しているような整いかたを感じた。
IKEAでありNOKIAでありとビジネスでも一定の注目を集めている、
オシャレでスマートな北欧の国。
フィンランドがそのように昇華を遂げたのは、ここ最近の話。
ついこの間まで、ロシアとすさまじい戦闘を繰り広げ、抑圧・弾圧されてきた。
そのあとこの国の一部の人たちは希望をもつことをやめてしまった、とは
最終日のタンペレ駅でわたしに布教活動をしてきたクリスチャンの言葉である。
日本での巷の「北欧」や「フィンランド」という響きとはかけ離れた現実は、過去ではない。

そのあとの急速な高度成長も、なにかに抗うかのような人々の病的なまでの生真面目さも
いつかの日本の姿と重なって、その時代を生きていないわたしもふと立ち止まることもあった。
――そんなにがんばらなくて、いいのに。
大雪の中定刻運行を厳守する路線バスや、ストライキ中であっても通常営業をしようと
眉間に皺を寄せてカリカリとデスクへ向かうフィンエアーのスタッフを見て、何度思っただろう。
ある意味での危うさを感じたのも、事実だった。
もちろんニホンジンのわたしは、「好きなときだけ好きなように働く」みたいな
ラテンのノリにはもっと馴染めないんだけど。

最後のオマケは別として、こんなにすべてが予定通りに進んだ旅はなかった。
別に僻地ばかり行っているから予定が狂いまくるわけではない。
(わたしだってフランスもイタリアも行っているし、アメリカに関しては実は4回も渡航している)
それは、時間の限られたトラベラーにとっては感謝すべきことだった。
だが、わたしが今回の旅を経て、「“番狂わせ”が起きるのが旅」だったのだという
意識を新たにしたことも事実だった。
そう思うと、どこかの僻地で時計を見ながらキャーキャー言ったり、食卓を見て愕然としたり、
人にだまされて人間不信になったりするのもWelcomeであることなのかもしれないとも思った。

なんのために旅に出るのか。
OLと海外旅行はもはや切っても切れず、わたしも確かにそのクラスタではあるのだが
その問いに対し、わたしはいつも“ナマモノ”と“ミズモノ”が見たいから、と答えてきた。
権威のある絵画にも、歴史のある世界遺産にも、まるで興味は無い。
この瞬間だけ、この国だけで起きること、起きていることへの関心だった。
いい天気でおばあちゃんが笑ったとか、ストリート音楽家のおっさんのギターの弦が切れたとか。
そういう些細なシーンやヒトを通じて、透けて見える、もしくは3割位は妄想な風景を追ってきた。

斜に構える、といわれれば、それも真なのだろうと思う。
今回の旅でわたしが見たいと思っていたのは「北極圏」であり「トナカイそり」であり、
「サンタ村」「ムーミン博物館」「流氷ダイブ」「夜行寝台列車」であった。
そして実際に旅を終えて強く「これが自分の旅の思い出だ」と思えたものは、
ソリを装着されるときのトナカイの異常なまでに機嫌の悪いヤンキーな顔とか、
ヘルシンキまで路線バスで向かうフィンランド兵士の若すぎる姿とか、
ケミの街で会った暗い暗いでもすごくいいヒトなシンガーとのタバコ1本分の会話とか、
ムーミン博物館へ行く前に出会った市場のおばちゃんとのノンバーバルコミュニケーションだったりとか、やっぱりそういうことだったのだ。

そして今回も、わたしは「ナマモノ」をつかまえてこれたんだな、とこのコラムを書きながら思った。
日本からいちばん近いヨーロッパのフィンランド。
うつくしく、静謐で、再生(再構築)した国。
10代でキューバとかふざけた国に住んでしまったわたしから見れば、鬼気迫るものすら感じる。
執着。ナショナリズム。意志。
そういったものを、響きが可愛いすぎるフィンランド語がオブラートに包んでいたような。

世界地図にまたひとつ印をつけて、わたしは次のディストネーションを探す。

(おわり。意外なことにこのシリーズ、今までで一番評価をいただきました。ありがとうございます)

2010/04/06 12:37 | ■フィンランド | No Comments

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