« | Home | »

2009/06/06

地球の舳先から vol.125
ベリーズ編 vol.5(全6回)

hmc04.jpg

海へ出た。ベリーズの小さな島キーカーカーはダイバーの聖地である。
といってもわたしはライセンスなどは持っていないし、
ダイバー垂涎のスポットなどといわれてもわからないのであるが。
むしろ、ナチュラルが好きなので、ウェットスーツを着て海に潜るのも気が重い。
ということで、シュノーケルと足ヒレだけを借りて沖から出るボートに乗った。
しかし日焼け(というより火傷)を防止するため長袖Tシャツは着用。
ボートは5人程度を乗せるちいさなもの。
海からあがるたび食べるカットフルーツをふんだんに積み、波に乗るまま大揺れで進む。

1日目は、世界で二番目の規模を誇るバリアリーフ。
2日目は、サメとエイの棲家と、海中が鍾乳洞のようになっている「ブルーホール」。
3日目は、透明度ナンバーワンという小島、珊瑚エリア、熱帯魚の大群の棲む海洋保護区。

やはり器具が邪魔に感じられ、水着ひとつで海に潜るようになる。
ぐんぐん進む足ひれなど、不要だった。波に流されていたい。
それはキーカーカーに着いてすぐに靴を脱ぎ捨てたのと同じ感覚だった。

たった2メートル程度の浅瀬でも、トロピカルな魚が、透明すぎる水から透けて見える。
ボートが近づくと逃げるどころか集まってきて、船から投下されるスイカを狙うのである。
熱帯魚がスイカを食べるなんて、初めて知った。
船のお供はアホウドリたちで、舳先に集まってはこいつらもまた果物を欲しがる。
(しかしトーキョーのカラスのように襲ったりはしない。)
海底の砂利の色が透き通って見えるほどの海に、天気で色がころころ変わる空。
たまの土砂降りも、濡れながら待った。どうせ海から上がったばかりなのだ。

感動的だったのは、1メートルを超える海亀と一緒に泳いだことだ。
いや正確に言えば、水中で浮上しようと岩だと思ってエイヤと蹴ったのがカメだった。
蹴った瞬間、岩だと思っていたものが、ほよーん、と動いたので何事かと思ったらカメだった。
わたしは0歳と6ヶ月から水泳をやっていて人よりはたいへん泳げるのだが(1キロ位なら軽運動)、びっくりして「カメだ」と“水中で”叫んで海水をのんだ。
海亀を目撃したことのある何人かから、「神のようだった」と聞いていたのだがまさにそれ。
海亀はどこかへ進むというよりも海中に漂っていて、わたしはさっきカメを蹴ったためなにか罰でも当たるんじゃないかと心配になるような、神秘的な空気を醸し出していたのをよく覚えている。
蹴った足についたコケが、カメの動きのゆるやかさを示していた。


(写真中の黄色っぽいモノが魚たちである。ボートより撮影。)

口をあけてまばたきをしないサメも、顔の目の前まで近づいていっても動かない。
なにか自然というよりは、彼らにとってもダイバー達がいる環境が「普通」になっていて、
しかしそれは観光地化という言葉ほどにはネガティブなことではないような気がした。
実際、ここはこんなに観光客がいながら観光地にはなっていないのだ。

ポイントごとにいる魚の種は違い、ポイントを移動してはそこの住人たちに混ぜてもらう。
それはまさに、自然の海というよりも、天然の水族館のようだった。
調教されたわけでもないのに、一緒に泳いでくれる魚たちに、
海と陸が地続きであること、おなじ場所に生きているという共生感を感じざるを得ない。
暫くする頃には、ボートから飛び込むときに意味不明な奇声をあげていたアメリカ人たちは
寄ってきた魚達に遠慮するように静かに海に入るようになり、
子どもはべたべたと海中のあらゆるものに触ろうとしなくなった。

「ははぁ……」とわたしはその変化の光景を見て、唸るしかなかった。
環境問題とか動物愛護とか、そんな「ことば」は要らない。
自然は、おそろしいほどに圧倒的な説得力を持っていた。

わたしはそれまで、「自然」という概念がわからなかった。
東京に生まれ、東京に暮らしているからかもしれないけれど。
なにか目に見えないぼんやりとしたものを「たいせつにしなさい」などと言われても、
「はあ、わかりました」というぼんやりした返事しかできないし、
「温暖化が、温暖化が」なんていわれるとなんの宗教だと思ってしまう。
それは、実はいまでもあまり変わっていない。
しかしあのキーカーカーで過ごしたほんの何日かだけは、そんなわたしでさえあやうく
「It’s a small world」とか叫びそうになったのだ。

のしかかる自然の力にはもはや神がかったものがあったし、
わたしはそれこそ歩くのにも粛々としずかにしたいような、妙な殊勝さをもったのである。

だから、帰ってきてもう何年も経ついまでもわたしは、
キーカーカーというこの島のことをはばからずに「神の島」と呼んでいる。

2009/06/06 03:04 | ■ベリーズ | No Comments

Trackback URL
Comment & Trackback
No comments.
Comment




XHTML: You can use these tags:
<a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>