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2008/12/08

地球の舳先から vol.102
世界の宿泊事情 vol.3
~北朝鮮編

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平壌は観光地である。中国人がうじゃうじゃいるので不快だが。
北朝鮮には、日本人観光客が多く泊まるホテルが2つある。
ひとつは川の中州に浮かぶ高級ホテル、だがわたしは安いほうにした。
ガイドに両脇を固められての観光しかできないため、どこまでも一緒。
2人のガイドはわたしの隣の部屋に泊まるのだという。それが決まりなのだそうだ。
無断外出は禁止なので、夜勝手にホテルから出ると「スパイ罪」で捕まると言われる。
そんな説明…というよりは忠告を聞きながら、わたしは学校見学を経てホテルへ入った。

高い天井のロビー。中央には視界におさまりきらないほど大きい金日成・正日親子の水彩画。
ホテルのフロントには数名の美女軍団。にっこり微笑みかけてくる。
そして、水を打ったように静かだった。このホテルは日系の経営で、主に日本人と欧米人を
泊めるため(中国人とは隔離されるようだった)あまり人がいないという説明を受ける。
無駄に広い廊下には赤じゅうたんが敷かれ、金親子写真展のように色々な写真が飾られている。
ミサイルの前でご満悦の総書記の御姿もあり、「ひぃぃ」となる。

朝食はホテルで食べたが、そのへんの川でとってきたような貧相な魚とキムチいっぱい、
それにのりとおかゆ。市街のレストランではいろんなもの(犬とかアヒルとか)が食べられたのだが。
地下にはカラオケルームがあり、日本の曲もたくさん入っているというか日本語の本さえ用意がある。
しかし多くの曲が黒で塗りつぶされており、日本の戦時中の教科書を思い起こす。
ミラーボールにラグジュアリーソファと、カラオケというよりどこぞのクラブのような雰囲気で、
やっぱり両脇をガイドに囲まれた欧米人とカラオケして交流をはかる。
ホテルの売店にはなぜか賞味期限切れの日本のお菓子やら三菱鉛筆やらサッポロビールやらが
あり、国交がないはずなのになぜ日本製品が…と思うがあえて突っ込まないでおく。

部屋はとても広くてきれいでとてつもなく殺風景だった。人気がないというか、拒否しているというか。
10月終わりといえど大変寒かったので、早速お湯を張ってどでかいバスタブにつかる。
「よくわからんなこの国は…」などとひとりごとを言いながら入浴剤にまみれていると、
突然部屋から「ガタンッ」という不信な音が聞こえた。

北朝鮮旅行を終える頃にはこの国のスタンスがわかり始めるものの、これは1日目のこと。
パスポートも携帯も取り上げられ、右も左もわからずに様子見をしていたわたしはそのとき、
心のどこかでこの国に旅行することを恐れていたのだとその不信な音を聞いて初めて気付く。
…おいおいおい、なんだよ今の音は。
そう思いながらでかいバスタブの中を水音をたてないように移動する。

開け放したバスルームのドアから、カーテンが揺れているのが見えた。
…窓が開いている…?
そんなわけはなかった。これだけ寒いのだから締め切って暖房の温度を上げ、
落ち着かないのでカーテンも閉めたのは10分も経たない前の自分自身の行動だった。
揺れる赤いカーテンと、さっきのガタンという音。窓が“開けられた”のだ。

こういうとき、不思議とドキドキしたりパニックになったりしないものらしい。
わたしは頭が急によくなったように冴えてきて、次の行動への考えを組み立て始めた。
まずバスルームで、このまま逃げてもいいようにさっき脱いだ服を着る。
どこへ逃げるのかはよくわからないが、身だしなみは大事である。
それから忍び足でバスルームを出て、広い部屋を見渡した。
部屋に備え付けられた電話の受話器を取る。
…電子音が聞こえてこない。使えないようだった。
…なに…。
ますます不信感は広がる。

人の気配は、相変わらずない。流れ込む冷たい風だけが部屋の中に妙な波長を生んでいた。
わたしは意を決して、エイヤと部屋に入り、赤いカーテンを引いた。
すると、そこには…
窓ガラスが窓枠ごと落ちていた。老朽化か手抜き工事か、窓が外れて落ちた(だけ)らしかった。

「ワーーーーーーー」

わたしはここで初めてそう叫んだ。
人間は恐怖のさなかではなく、恐怖が途切れたときに声が出るものらしい。
そういえば、強盗に襲われた人とかも「最初は声が出なかった」とよく言う。
「スパイかと思ったよ!!!!!」
と窓枠にむかって怒り狂って文句を言い、フロントへ行って部屋を変えてもらった。

あれだけ下調べをしてから「これなら大丈夫」と自分なりに判断して渡航に踏み切ったが、
日本人として心のどこかに潜在意識というものは絶対的に在るものらしい。
だってあのときのわたしにも、「拉致」と「スパイ」の2語しか浮かんでいなかったのだから。

人騒がせな事件であるが、いろんな新発見のあった北朝鮮初夜の出来事だった。

2008/12/08 11:57 | ■北朝鮮, 【世界の宿泊事情】 | No Comments

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