« | Home | »

2013/11/21

地球の舳先から vol.296
キューバ編 vol.12(最終回)

1102_9

ハバナのライブハウスの最高峰、「カサ・デ・ラ・ムシカ」は、
ガリアーノと呼ばれる町の中心部ともう一軒、大きな陸橋を渡ったミラマール地区にある。
10年前は、ほんのわずかな小銭で現地人の乗合タクシー(しかし見る人が見れば垂涎の
クラシックカー)に乗り、開きっぱなしのドアを押さえながらこの陸橋を渡ったものだった。

戦闘能力を失った割に相変わらずお金も無いわたしは、観光巡回バス(10年前はなかった)
に乗って、ライブハウスの近くまで行くことにした。
「ミラマール」とだけ同乗しているえらくミニスカートの車掌に伝え、
いよいよ近くなると目的地の「カサ・デ・ラ・ムシカはどのへん?」と尋ねると
バスはその先で迂回をして巡回コースを逸れ、ここからまっすぐ、というところまで送ってくれた。

DSC_0979

ミラマールのカサ・デ・ラ・ムシカはまだ品行方正で、
バンボレオというわたしでも知っている超有名アーティストの日だったこともあり
割合じゃまをされずに音楽を楽しむことが出来た。ハバナらしい夜が更けていく。
帰りはライブハウスの前に待ち構えたぼろいタクシーが破格で送ってくれる。
町を縦断してホテルまで帰る間、また走馬灯のように昔の光景が蘇る。
キューバの光景、というよりは、19だった自分が。

1102_8

本質的には、この国は本質的にはなにも変わっていないように感じた。
多少垢抜けた気がしなくもないし、色々とへんなものが建ってもいたけれども
時流の間を狡猾に生き延び、「観光」をする分には相当ハッピーな国。
なんだ、こんなに変わらないんじゃ、もうあと10年後も来なきゃいけないじゃないか。
少し拍子抜けして、そんなことを思った。
最後の晩は、モヒート発祥の地と言われるボデギータ・エル・メディオで
背中に生演奏のユニットを背負いながら、いい加減砂糖抜きにするようになったグラスを空ける。

1102_6

籠もった空気。けど東京のコンクリートジャングルの閉塞感とは別。人の絶えない夏の匂い。
雨が降れば水はけの悪さであちこちに渡れない水溜りができ、障害物競走になる。
千鳥足で人にぶつかっても、口説きはしてもこちらから求めない限り強姦なんかとても
できそうにない、なんだか気弱な優等生みたいなキューバ人男性たち。
そういえば、金くれとかモヒートおごってくれとかその時計くれとか言われたことは
無数にあっても、知らないうちにお金や持ち物を抜かれたことは一度も無い。気配すら無い。

1102_4

1102_7

昼間に行った大学周辺には、医学生が溢れていた。
この国では医者は決して高給ではなく、石油などの見返りのために周辺国家に派遣される。
お金のために選んだ職業ではなく、魂がなければとてもやっていけないだろう。
しかし裏を返せば、キューバに生まれたから純粋に医者を選べたという考え方もある。
それは職業選択の自由であり、精神的な自由だ。

理想を追ったキューバが成功しているとは言わない。
しかしこの地にいると、いやでも人の幸せや人生ってなんだろう、と思う。
お金とか、生活とか、安定とか、社会が要求するライフステージとかステイタスとか。
心を縛り結果として体を縛る目に見えないルールは、一体どこに向かわせようというのだろう。
もう一度言う、だからってキューバの社会主義が人を幸せにしたわけじゃないけど。

1102_2

1102_5

時差ぼけが治る頃には帰国の日。わたしの東回りの時差ぼけはいつも酷い。
エアカナダの航空券に、高い出国税と、パスポートに押す代わりの出国スタンプを貰い
わたしはキューバをあとにした。

トランジットのトロント(カナダ)で、分厚いメニューから選んだピノ・グリージョは程よく冷えていた。
しばらくは、お酒を飲むたびに、外気で5分でぬるくなるキューバのビールを思い出すのだろう。

1102_10

1102_1

おしまい。

2013/11/21 09:00 | ■キューバ | No Comments

Trackback URL
Comment & Trackback
Comments are closed.
No comments.