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地球の舳先から vol.278
イスラエル編 vol.13(全14回)
張り切りすぎて5時間前に空港に着いた。
グランドスタッフの、大変良くしてくれた担当の男性からまたしても電話が入り
最後の会話をした。
ひとりになったものの、「2時間後に来い」と言われ、予想通り入れてもらえない。
それでも話しかけ続けて規定の30分前に滑り込む。
荷物のX線検査に進むまでに30分。
パスポートチェックの尋問を受け、荷物チェックを受けるまでに1時間。
(ちなみに差し迫ったフライトの人が優先されるので、早く行っても全く意味ない。)
イスラエル名物の一種の「プレイ」という印象は、出国する頃にはなくなっていた。
わたしがもしテロリストだったら、こんな厄介な空港ではなくて、
どこぞの非公式の陸の国境から爆弾を運ぶだろう。
これは牽制でもあるのだ。大学時代に目の前のテロで難聴を患ったガイドも言っていた。
「セキュリティは確かにうざったい、でも君を守るものでもあるのだ」、と。
荷物のチェックは、入っているものをすべて出し、手袋をはめた検査官がひとつずつ確かめる。
電機製品はあるかと言うのでないと言ったら、「こういうのを電機製品って言うんだ」
と、ドヤ顔でコンセント変換プラグを発掘された。あ、そーなんですか。
スーツケースは半空きのまま。エアラインのチェックインに進み、急いで再度パッキング。
そしてパスポートコントロール。その前に捕まるが、別室に行っている時間は無い。
「イスラエルには何日?」 -5日。
「どこへ?」 -ホテルのバウチャーを出し、答える。
「宿泊は、ホテル、キブツ、ホステル、それとも人の家?」 -全部ホテル。
「OK」
・・・・・・・・・えっ?!
出国のほうが厳しいと聞いていたのに。
ここで、欲が出た。
もともと、パスポートを潰すつもりでこの時期にイスラエルを選んでいる。
しかしここを切り抜ければ、イスラエルのスタンプなしにスルー出来るではないか!
「Stamp…」と言い、しかし口にしてみて気が変わった。
毎日毎日、好きこのんでやってくる外国人どもに「ノースタンプ」と言われ
祖国を否定される彼女の思いはどんなだろう。
「じゃあ、来んなよ、旅行だろ?」であろう。
「あ、押してください。記念なので」と、しどろもどろに言い換えた。
しかし、イスラエルはイスラエル。
超絶美女の彼女は、わたしと目も合わせようとせず、表情ひとつ変えない。
…そのうえで、こう言った。
「It might be a problem someday,because you’ve been traveling so many countries.I understand」
手元に帰ってきたパスポートには、何の印も無かった。
搭乗ゲート前で1杯のカールスバーグを飲みながら
(買うときに年齢を聞かれて、また気をよくした)
バックパッカー数人の会話が耳に入った。
皆、「ノースタンプ」に成功していた。
「でも、荷物のチェックのときにパスポートに貼られた黄色いシール、
あれ、絶対はがれないのよ!はがしても、はがし跡がわかるから、
それでアラブの国に行くとバレちゃうんだって!」
・・・・・・・・・・・・・なんですと?
パスポートをひっくり返すと、確かに裏表紙に、出国時と入国時に貼られた
黄色いバーコードのついたシールがある。
片隅を爪でひっかいてみたが、表面を溶かして吸着する特殊接着剤か
なにかなのか、まるではがれる気配は無い。なんだこのノリは。
「Oh My Goodness…」
わたしと同じ動作をしたとなりのバックパッカーが、そう呟いた。
にしても裏表紙に傷をつけることはないと思う。
表面は美しい金捺しのJAPANの文字と紋章なのに。
まあ、いい。当初の予定通り、10年ぶりのキューバを見て、このパスポートは潰そう。
敵対国の入管以外はきっとわからないであろう、わたしがイスラエルに行った証拠。
パスポートを取り出すたびにわたしはこれを思い出すだろう。
そういえばパスポートに残っていない国も、沢山ある。
ビザを申請しなかった1度目のキューバ、チベット、北朝鮮。
これでいいのだ。
パスポートには、そういう”行間”が、あるのだから。
おしまい。