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2012/08/21

地球の舳先から vol.250
台湾編 vol.1(全4回)

1時間遅れでようやく離陸した台北の夜景もキラキラしていたが、
3日ぶりに見る首都東京の夜の光は、空と地が逆転して星がちりばめられたようだった。
自分が生活している地を空から眺めて、その美しさに息を呑む。

海外から帰ってくる時は、いつもそうだ。
ふだんは気にも留めないようなあたりまえのこと―会いたいひととか、帰りたい家とか、
好きな仕事とか―そういうものがぜんぶあるトーキョーを思って、
自分が幸せなのを思い出す。

だから、旅から帰って、「ああ現実に帰って来た」とか「明日会社行きたくない」と
思うことはないし、社会復帰に苦労したことも、いちどもなかったりする。

1年ぶりの台湾。3回目の台湾。
台北と、郊外のリゾートホテルで1泊ずつ、の旅を夏のたびに繰り返している。
だんだんと台北にも慣れてきて、タクシー5分で市街中心部に出られる松山空港を
チョイスしたり、真昼の殺人的気候は無理せず屋内にこもったりするようになった。

今回台北のデイタイムにわたしが選んだのは観劇。
なぜかアメリカン・バレエ・シアターを台北で見ることにした。
中正記念堂という、蒋介石記念広場には豪奢なつくりのコンサートホールと
シアターがあり、いちどここでなにか観てみたいと思っていたのだ。
奇しくも旅の1週間前に、自分の次の舞台が決まり、それと演目が同じだった偶然もあった。


(公演が行われた國家戲劇院)

台湾というのはかなりインターネットに明るい国なのに、事前にうまくチケットを予約できず
空港から迷ってホテルへ辿り着かなかったので、スーツケースを転がしたまま劇場へ。
アメリカン・バレエ・シアター、通称「ABT」は錚々たるダンサーを抱える超人気バレエ団。
日本公演はチケットが高すぎて行ったことがない。
それがなんと1階前から6列目が10000円だというから、一番安い席を…といつもの通り
考えていたわたしはすこし奮発して、はじめて1階席でバレエというものを観た。

劇場へ入ると、外のうだる暑さが嘘のように、涼しげでお洒落した観客の女性たち。
クロークの女性がすっ飛んできて、「場違いでスミマセン」とつぶやく。日本語で。
豪華なシャンデリアに奥行きのある全4階の立派な劇場に嘆息。
チケット管理がザルで、2幕目からは上階の席から人々が移動しまくってきたのだが、
昼公演だったこともあり3分の1程度しか客席が埋まっていなかったので、そのほうが格好はつく。

公演はといえばさすがにプリンシパル(主役級)陣はすばらしかったがその他がダダ崩れ。
特に3幕に「影」という、超絶きつい群舞があるのだが、完全に崩れてしまっていた。
そしてその役は来年自分が踊る予定の役なわけで、かのABTでもここまでになるのだから…
と考えるとおそろしく、これから舞台までの間、オーディションの前や、本番前の夢にこの光景が
出てくるんだろう、と思って、そういう意味では観たことを後悔した…。

小籠包で夕食をして、鉄道駅のすぐ近くにあるホテルにようやく一旦帰着。
共同で使えるキッチンなどもあるコンドミニアムのようなホテルは清潔で布団が心地よい。
寝るによいだけの環境があり、立地がよければ十分なのだ。
枕元に「ん?」という物体が控えめに置いてあったが、ラブホテルではないはずである。
…多分。夜は、とりあえず静かだった。
すでに冷房病にかかっているので、冷房の温度を下げてドライにしてから再度ホテルを出る。

TAIPEI101という超高層ビルの展望台にも、はじめて登った。
日本人と中国人の団体客が多く、ここはディズニーランドかと思う行列は、
電光掲示板に表示された番号を時間差で上階へ送っているのだという。
おもわず帰りたくなったが、50元も値上げされていたチケットを買ったばかりだったので
おとなしくガイドブックを読みながら待ち、世界最高速ギネス記録だというエレベーターで89階までを時速60kmでのぼりきると(ちなみに東芝製)、淡水川と夜景に彩られた台北の街を一望した。
もうすこし空いていれば、昼か夕景も見てみたいところ。

夜9時をこえてもなお30度から先には気温の下がらないうだる気候を歩き、
おとなしくとっととタクシーで帰って寝ればいいのに「せっかく来たのにもったいない」
という貧乏性気質に自分で苦笑しながら宿まで歩いて帰る。
去年来たときは震災直後で、大通りには日本人有志が買い付けた「ありがとう台湾」
の広告が立ち並び、接触する人する人に「大変だったね」「大丈夫」と気遣われたものだ。

1年が経っても変わらない、優しげで親日な台湾の人々に助けられながら、
なんだかこの国は日本のきょうだいのようだ、と思う。
台北の夜を見納めて、翌朝から郊外へ出向くべく寝に落ちた。

つづく

2012/08/21 12:00 | ■台湾 | No Comments

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