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北朝鮮旅行記 vol.2
どうでもいい話だが、わたしはよく入国審査で止められる。
友人と女2人で旅行してわたしだけ「有り金を全部見せろ」と言われたり、
「顔写真のついた証明書をあとふたつ出せ」と言われたりする。
19の頃にキューバに住んでいたことがあって、
イスラエルの入国スタンプがあるとヨーロッパを自由に行き来できないように
キューバの入国スタンプがあるとアメリカ国内を自由に行き来できない。
加えて、メキシコで「あっ、かすれちゃったからもう一度」という
アホな入国審査官が入国スタンプを2つ押したりしたせいで
わたしのパスポートはかなり汚れている。かなり。
その割に写真欄は、自分でもみたことのないような爽やかな笑顔なので
こりゃ胡散臭くもあるわけだ、と思わないこともない。
とにかく、愛想笑いと愛嬌は裏目に出る。
目を合わせずに「Hello」も言わないほうが、実はイイ、というのが実体験だ。
そんなぐるぐるした思いを胸に秘めつつ、経由地である北京へ飛んだ。
日本と北朝鮮には、ご存知のとおり国交というものがない。
日本で航空券や現地に入国してからの手続きは終わらせたが、
肝心のビザは北京の朝鮮大使館で取らなくてはならないのだ。
時は、嫌中・反日ムードが高まっていたご時勢。
わたしは右でも左でもないつもりだが、
どんな無法国家といわれている国ですら、そこだけは厳粛に敬意をもって受け止める
サッカーの試合前の国歌演奏にブーイングなんぞ浴びせられれば、中国を嫌いにもなる。
そして、嫌悪感というものは絶対に、体の外の雰囲気に染み出すものなのだ。
手配をかけてくれた大阪の旅行代理店も、
「生きて帰って来れますかね」と茶化すわたしに、「北京の滞在だけが心配」と告げた。
結果からいうとわたしは北京で4回ほどハメられ、
そのうち1回は冤罪で警察に取り調べされかけるという羽目になるのだが
そのエピソードは愚痴になってしまうのでここでは控えることにする。
(が、わたしの中国に対するイメージが落下したことはいうまでもない)
特筆すべきは、騙されて6時間迷った挙句たどり着いた朝鮮大使館の対応である。
指定時間を過ぎていたにも関わらず、日本からその日にわたしが申請へ行くと
連絡を受けていた大使館は、ドアを閉めずに待っていてくれた。
加えてビザを取得後すぐに、北朝鮮の航空会社である「高麗航空」のオフィスへ
行って航空券を発見しなければならないわたしのために、超速で処理をした上
(この国で最初で最後となった)“悪意のない”タクシーを手配してくれた。
高麗航空のオフィスも実はすでに閉店時間となっていた。
わたしは半分以上もう北朝鮮入りをあきらめていたのだが、
小さなオフィスに7人程度のスタッフ(そして美女軍団である)は全員残っていて
わたしの名前を確かめると、わたし本人よりよっぽど安堵の表情を浮かべたのだった。
翌日、わたしは無事、平壌の地を踏む。
10品はあろうかという豪華な機内食、
美女スッチーがシートを倒してくれて毛布をかけてくれる、
若干やりすぎ接待のような、機内での時間を過ごして。
隣の軍服の男性3人組の胸に光る金日成バッヂを見ても、もう冷や冷やはしなかった。
ちなみに平壌の空港は撮影も自由で驚いた。
普通、飛行場や駅は軍事施設と同項なので、撮影厳禁の国も多いのだが
わたしも、テレビでよく見る、肖像画のふたつ並んだその飛行場をカメラに収めた。
好奇心が勝ったとはいえ、不安がまったく消えていたわけではない。
入国審査を超えたらすぐに、現地のガイドに預かられることになるパスポートと
帰りの航空券、すべての身分証にビザ…。
身分と立場を保証するものをすべて差し出す瞬間の覚悟が、必要だった。