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2007/04/23

地球の舳先から vol.5

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北朝鮮旅行記 vol.3

こうして高麗航空のあたたかい人々のおかげで無事北朝鮮入りした私。
入国審査もビデオカメラ回し放題。
私と目を合わせてから急にブースを開いた入国審査官の姿に必要以上にびびるが、
眉間にしわを寄せて入国カードにスタンプを押すと微笑んで「カムサハムニダ」と言った。
スタンプを押すのは、入国カード。パスポートには押さない。
北京を出てからふたたび北京に入国するまで、私には記録上「空白の4日間」が存在することになる。

飛行場では、青い高価そうなチマ・チョゴリを着たガイドさん2名と、
専用ドライバー、それに現地の旅行会社の社長が勢ぞろいで出迎えてくれた。
にこにこしながら私のパスポートと携帯電話を没収する。
この国ではそういうきまりになっているのだが、やはりちょっと不安がよぎる。
「ここのところ寒いですから、お体に気をつけて」
私より流暢に尊敬語と謙譲語と丁寧語を操る彼女は、外国語大出身だという。

北朝鮮旅行では、国の指定するガイドをつけ、国の指定するドライバーで旅行をしなくてはならない。
実質自由旅行は認められておらず、24時間軟禁状態におかれる。
しかし、私は北朝鮮観光本の言うような
「ガイドに何か聞かれたらウソでも模範的な回答をしないと、当局にチクられ連れて行かれる」
というところまではさすがに信じていなかった。

しかし彼女たちと話をしていると、
ここを訪れる日本人たちがそのアドバイスを鵜呑みにし、
彼女たちの喜ぶようなことしか言っていない事実がわかる。

日本の国民の9割は北朝鮮との国交正常化を望んでいる。
日本の国民は靖国参拝に反対している。
日本の国民は南北朝鮮の統一に皆賛成している。
…これらを、ここを訪れる日本人のほとんどが言っていたと彼女たちは言うのだ。
(そしてきまって、私のことを外道右翼扱いするのだ)

まあ、未だに北朝鮮を扱う日本の旅行代理店にいちばん多く寄せられるのは
「生きて帰って来れますか…」という質問だという。

その点私は旅行中、実にガイドに喧嘩をふっかけていた。
「あなた方の尊敬する金日成主席の考え方は、
他国の罪もない人を拉致することを肯定するという主義なのですか?」
「その教育は洗脳ではないのですか?」
「金日成をどうして崇めるのですか?明確な理由があるのですか?」
「どうして自由旅行を禁じるのですか?見せたくないものがあるのではないのですか?」

また、ガイドもよく喧嘩をふっかけてきた。
「靖国問題が国際的に批判されていますがどう思いますか?」
「中国の領土を自分のものだと言い張るのはなぜですか?(竹島のこと)」
「植民地時代に2万人を強制連行したことを考えれば、
拉致など小さな問題だとは思わないのですか?」

そのたびに、私と2名の現地ガイドは願わずとも討論にならざるを得なかった。
私は日本をいい国だなんてあんまり思ってなかったし、
日本人としてのプライドとか愛国心とかないつもりだったけど、
実際に露骨に批判されるとどうしても擁護したくなるということに気付く。

そして私たちが互いに気付いたのは、
お互いを説得するほどの明確な理論も根拠も持っていないということだった。
ガイドと客だからといって議論が軟着陸することもない。
自分の思うことを「翌日のプレゼン資料」のように書き連ね、夜が明ける日もあった。
何より自分の国のことを考えさせられた4日間だったと思う。

「工作員がやってくる」
「拉致される」
「ガイドに密告されて当局に消される」
という思いは、夜ひとりになったりすると、一瞬だけど湧き上がってくる。

夜に入浴していて、ガタンという大きな音がしたことがある。
あわててバスルームから出ると、壁一面くらいに大きい、締め切ったはずの窓のカーテンが揺れていた。
ろくに確かめもせずにガイドの内線番号を頭の中で反芻し、上げた受話器には電話線が通っていない。
単に老朽化と強風で窓枠が落ち、電話もこの国では頻繁にある停電のせいだったのだが、
このときばかりは「あたしももう終わりだ」と思った。
今となっては笑い話であるが。

馬鹿げた話だけれど、あの光一筋入らない平壌の寒く、異常に静かな風景を
見ていると、ここが世界の一部ではないような、無性な不安にとりつかれたものである。

次回からは、北朝鮮1日目からを振り返りながら具体的な旅行のことをお話しようと思う。

2007/04/23 02:41 | ■北朝鮮 | No Comments

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