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2008/04/04

地球の舳先から vol.58

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モンゴル旅行記 vol.3(全5回)

かくして到着したのは、ゲルが10棟のほかには遠くを見渡しても
視界になにひとつ入ってこない地の果てだった。
視界が開けすぎて、地平線が湾曲して見える。

馬を普通に乗りこなす現地ガイドにゲルを案内された。
しろつめくさのような花を踏みながら、ゲルに入る。
中の壁がオレンジを基調とした派手な絵柄で塗りたくられ、
中央には薪を燃やす暖炉と、煙を吸い上げて外へ出す煙突が下がっている。
相部屋のゲルに、4つの木彫りのベッド。
手をひろげたくらいあるクモが、屋根の梁のところでじっとしていた。

簡易的につくられた食堂らしきところで、朝食をとる。
小さい肉まんのようなものが、ほぼ毎日出た。
肉はだいたいラムなので、苦手な人にはキツかったことだろう。

そしてついに、わたしの乗るウマを現地の人がつれてきた。
自身もウマに乗りながら、10頭以上のウマを引いている。
3人兄弟のようで、3人で大量のウマをどこからか走らせてきている。
いちばん下の男の子は、10歳に満たないようだがウマを当然乗りこなす。

日本語も英語も通じないのだが、妙にコミュニケーションがとれるから不思議だ。
いやに元気そうなウマもいて、ここでふいに不安になった私はお兄さんに
「暴れないやつにしてね(←もちろん日本語)」と言うと、
お兄さんはいちばんうしろでぼけっとしていたウマを連れてきてくれた。
目が眠そうである。たしかに暴れはしなさそうだが、ちゃんと走るのかコイツ。
ついでに、ここにきてふと、傷害保険に入ってこなかったことに気がついた。
こけるわけにはいかない。

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よいしょ、と乗るが、ウマの背が低いので、高さの恐怖はない。
しかし予想以上に、つかまるところがないバランスのとりにくさがすごい。
これは腹筋が鍛えられそうだ。
ぽっくぽっくと歩くウマに乗って、道なき道を進み始めた。
20人くらいをいちどに面倒見なくてはならないお兄さんは、すでにわたしとトロいウマのことなど放置である。
取り残されたわたしは、どうやったらウマが走ってくれるのか、方向を変えてくれるのかもよくわからず、ウマが走りたい時に走り、草を食べたい時に食べるのに付き合うがまま。
右手側の手綱を引っ張ったら右に曲がってくれると聞いていたのだが、ウマはふと立ち止まって首だけでわたしを振り向いただけである。

これは…。トロいのではなく、完全になめられている。

しかしやたらに走られるほうが困るので、あまり何も考えずまかせることにした。
一定のペースで揺られながら、緑と山の起伏と雲の影だけを見ていた。
もとは、曲がり角や道なんかじゃなくて、こうしたひとつの「地」だったのだろうと感じる。
アフリカの人の視力が6.0あるとかいう話も、嘘ではないと思えた。

突然、ウマが小走りになった。焦るわたし。なんだ。エサでもみつけたのか。
ウマはじょじょにペースを落とし、今度は静かに立ち止まる。
ぶるるん、とくしゃみのような鼻息を鳴らして、また首だけでわたしを振り返る。

これは…。ウマに気を使われているのか?!

「あ、大丈夫です。(←もちろん日本語)」と話しかけ、振り向いたウマの首のあたりをぽんぽん叩くと、ウマはふたたびさっきと同じ小走りスピードで走りはじめた。
そして、さらに加速する。ちょっと怖いが、自分の姿勢すら保てば平気なようだ。
ウマはまたスピードダウンして立ち止まり、振り返る。「大丈夫です」と返すわたし。
こうしてウマがスピードアップしていくうちに、置いて行かれた集団に追いついた。

これは…なんて頭の良いウマなのか!!

生まれてはじめて、ウマと会話をしたわたしは、なにか自分の小ささを思いながら
しかしやっぱりどこを目指しているのかわからないままにウマに乗せられて走った。

つづく

2008/04/04 02:16 | ■モンゴル | No Comments

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