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■DAY2 57m
さて、例によって悩みに悩み、DAY2はついに-57mを申告しました。
-57mは、4年前のギリシア大会で出した公式自己ベスト記録と同じ深度。そして58mでブラックアウトの経験があります。55mは何度も潜っていますが、ここから先の50m代後半に、突如として壁が現れます。
私の場合、耳抜きが障壁になることはほぼありません。申告したボトムまでは行こうと思えば行けてしまいます。問題は「息が持たない」という点なので「行けるか行けないか」ではなく「きちんと往復して帰ってこられるか」という帰り道が課題。浮上途中で酸欠になれば非常に危険なブラックアウト(失神)をしてしまいます。これを自己ベストゾーンで潜行の段階で見極めるのはかなり難しいのです。
これを考えるとどうしても申告をためらってしまいます。でも最後はもうこれ以上は逃げられない、57mしかない・・と消去法的に決定。前日はしっかりごはんを食べた後、早々にベットに潜り込みました。
さて、当日の朝・・・いつもの青空を見て深呼吸、と部屋の窓を開けると。
毎日抜けるような青空の中で生活していたので、太陽の無い茶色の風景には驚きです。まあ、曇りの日くらいあるか・・
ともあれ、ストレッチと軽い朝食を済ませて、ボート乗り場へ。途中まで同室の諏訪恵選手が一緒に来てくれましたが、この時何となく息苦しく「これ、光化学スモッグかな??」と言い合ったのを覚えています。
沖に出ると、空気がどんどんくすんできました。海はとても穏やかなのですが、空気が茶色・・沖から見渡せるはずの街並は一切見えず、海の中より空気中のほうが透明度が悪い。
こんな不思議な空の下、-57mに向けて淡々と時間が迫ってきます。ウォーミングアップを終えて競技ゾーンへ。この日既に競技を終えた木下選手&廣瀬選手が2人でサポートのために待っていてくれました。二人のサポートは可愛くて面白くて、競技直前まで気持ちを和ませてくれました。
ここ何年も、55mをしつこい位何度も潜っていたお陰で、57mは頭の中で十分イメージすることが出来ました。40m頃から始めるフリーフォールですが、いつもより、2秒多くカウントすると目の前にボトムプレートがありました。
「よし、ぴったり!」そしてあとは浮上するだけ、、とはいえ、私にとってはこの浮上が一番の課題。途中で意識を失ったりしないように、体全体をリラックスさせながら、でも気持ちは引き締めながら浮上と同時にロープの高い位置を掴んでしっかりサイン。そして・・
「ホワイトカード!」
今大会最初の公式記録は自己ベストタイ。この日のダイブの感触の良さは格別でした。全てイメージ通り。酸欠感は全くなく、身体にしっかりと血液が巡っている実感。浮上してロープを掴んだ瞬間「もっと深く行ける」そう確信しました。
この後、環境は悪化します。茶色い空気は、アラビア半島からの砂塵でした。なんと、10年に一回のレベルの砂塵だったようです。お隣のレバノンやイスラエルでは、砂塵の影響で病院に担ぎ込まれる人が出たり、外出禁止令が出た程の酷さです・・
<当時のBBCニュース>
Middle East dust storm puts dozens in hospital
キプロスはヨーロッパというより、地理的にはほぼ中東ですからね。
翌日はまたレスト。砂塵はどんどん酷くなってきました。私は喉が苦しく、咳が止まらず、一歩も外に出られない、そんなオフを過ごすことになりました。この翌日は一番砂塵が酷く、砂塵が気管支や肺に入ることを恐れてトレーニングに出ない選手もいました。
■DAY3 60m
プレ大会の最終日。この日私は、60mを申告しました。
しかも今回の申告は1秒も迷うことなく。一大決意をしたわけでもなく、他の選択肢を検討する余地もなく決まっていました。1mで迷う私が、+3mで何故迷いもしなかったのか不思議ですが。
「こうしたい」という自分の意思というより「こうすることになっていた」とでもいう感じ。人生にはそういう時って、ありますよね^^;
60mは私にとって4年越しの壁。57mまでは4年前にサクッと到達出来たのに、その後のたった3mがどうしても突破出来ませんでした。60mを目指して本当に色々な奮闘をしてきました。フィンワーク、閉息トレーニング、陸上トレーニング、肺活量訓練、体幹トレーニング、試行錯誤しました。が、結局到達出来ず。
私が悪戦苦闘している間に、いとも簡単に70m,80mと潜る選手が増えてきました。けれど、3年前のバハマ大会でも、2年前のギリシア世界大会でも、60mは失敗。私は万策尽きて、もう私の身体はこれ以上は無理なのだ・・といわば諦めの境地に達していました。そしてもう、60mを「目指す」ことはやめていました。ただ、今年はキプロス大会に向けて、ベストを尽くそう、と粛々とトレーニングし、食事や鍼灸で身体を整えていました。(そして結果、ブラックアウトしやすさの原因の一つと考えられる低血圧が改善しました!)
そして「この日」は、やってきました。
まだ砂塵が残る中、マスクとサングラスをして船に乗り込みます。少し咳も出ています。海は穏やかで青くてトロンとしていました。
バージ船の上でストレッチと呼吸、ビジュアライゼーション。
ゆっくりウェットスーツに着替えて、ウォーミングアップはいつも通り。顔つけ5分、そして10m、15mのフリーイマージョンを1本づつ。
開始15分前、待機場所に行くと前回と同じくdeepダイブを終えた木下選手・廣瀬選手がサポートに来てくれました。全ていつも通り。淡々と進んで行きます。
カウントの声が聞こえ、潜行開始。
-20m地点はサーモクラインですぐにわかります。急に水の温度が3-4℃下がり、ひやっとします。薄目を空けると、水中カメラマンたちがこの地点で浮上をし始めるのが見えます。
さあ、ここからはひとりぼっち。
30mを過ぎ、40mまで、ゆるやかにキックを緩めながら進みます。そしてフリーフォールに突入。このあたりで圧力はもの凄く増しているはずなのに、何故か感じる安堵感。すーっと加速しながら落ちて行くのが心地よい。
50mを過ぎてもまわりは明るい青。キプロスの海はどこまでも明るい青。目をつむっていてもわかります。
いつもより5秒長くカウントし、目を開けると目の前にボトムプレートがありました。「よし!ピッタリ!」
60mまで「来たこと」は何度もあります。でも浮上を失敗していました。これまではボトム地点で「ずいぶん深くまで来てしまった」と感じていました。ところが今回は「あれ、もう着いてしまった」とあっけなさに笑ってしまいそう。
浮上はいつもより軽快に感じました。50m…40m…30m…ここで1stセーフティダイバーが水中スクーターでお出迎え。このあと20mでさらに2名のセーフティダイバーやカメラマンが出迎えてくれます。
そして浮上。絶対に水面で失神等しないように、思い切り、高い位置を掴みました。そして、しっかりとサイン。
取って来たタグを見せながら、顔が笑ってしまうのがわかります。
「ホワイトカード!」
長年の壁をついに突破しました!
もうこの後は狂喜乱舞です^^;
ジャッジのロバート・キングにハグ!みんなにハグ!!
60mは、世界大会では全然深い深度ではありません。でも間違いなく、この喜びっぷりは今大会ベスト3入りしたのではないかと思います。木下選手・廣瀬選手、二人とも私よりずっと深く潜ったばかりなのに、自分のことのように顔をくしゃくしゃにして喜んでくれました!
そして、この場にはいない沢山の人たちも、私を支えてくれていました。ありがとうを1000回言っても足りないくらい、感謝の気持ちでいっぱいになりました。早く戻ってこの感謝を伝えたい、という気持ちと、このままずっと水の中にいたいという気持ち。
申告から潜り終わるまで、身体が勝手に動いていたように感じた、とても不思議な一日でした。
この日のダイブは、一生忘れないでしょう。
この先、もっと深く潜れる日が来てもきっと忘れない日です。
それにしても、よく考えると、あらゆる努力をして、わざわざ60mも潜るなんて、相当馬鹿げていますよね。クレイジーです。そして越えられなかった壁とは何だったのでしょう?本当にそんなものがあったのでしょうか?
でも・・私は浮上後ロープにぶらさがり判定を待ちながら、もっと馬鹿げたことを思ったのです。
「もっと潜りたい・・・そうだ、70mに行こう!」
何年かかるかわかりません。でも私の次の目標はこうして、決まってしまいました^^
photo by Daan Verhoeven , Soteroula Tsirponouri
大分間が空きましたが、プレ大会のお話と合わせて深度競技での「深度申告」について。
キプロスでは、本大会の前に「Pre Competition」(プレ大会)が開かれました。順位やメダルなどはありませんが、本番と同じ競技環境・ジャッジ陣で実施され、この大会での記録は公式記録として認定されます。
世界大会の本番は各種目1回だけのチャンスなので海況や体調が合わなければそれまで。でもプレ大会では1日おきに3回競技のチャンスがあります。というわけで、ここで記録更新を狙う選手(National recordやWorld Recordに挑戦する選手も!)もいれば、練習試合と位置づけて調整がてら参加する選手、プレ大会には出場せず合間のトレーニングにだけ参加し本大会にピークを持ってくる選手、と様々です。ちなみに私は練習がてら参加することにしました。
■競技船
プレ大会前日。ようやく大会本番の競技船でのリハーサル・トレーニングです。
見たことも無い装備、巨大なバージ船から鉄の棒が突き出し、そこからロープが垂れています。ウォーミングアップロープが6本、本番ロープが3本。ちょっとロープ同士の間隔が狭すぎるのではなどと思いました。
競技船の甲板には屋根も無くてひたすら眩しい、また、船から海に降りる段差が急すぎる等も発覚。一番この日のトレーニングはまるで「バグ出し」のような状況でした。
■毎回悩む「深度申告」
私は夏の間Deep練習が出来ていなかったので、プレ大会前の4日間の練習は身体慣らしから開始。30m、45m、50m、55mとじょじょに深度を上げ、気持ちと身体がだんだん海に馴染んでいきました。始めはすこぶる調子が悪かったものの、3日目には自分の中で、ようやく大会に臨めるコンディションになったと感じることが出来ました。
そしていよいよプレ大会前日。「深度申告」の時間がやってきました。私はこの「申告」を毎回かなり、悩みます。
海洋競技はルール上、申告深度にボトムプレートとロープがセットされます。つまり、申告した深度が潜れる深さの上限になります。
□申告深度に到達すれば成功(ホワイト)
■途中で引き返せば減点(イエロー)
■ボトムまで到達しても浮上時に失神などしてしまうと失格(レッド)
本番で「もっと浅くしておけばよかった」となればボトムまで行かずに引き返せばよいのですが、イエロー、減点になります。逆に「もっと深くしておけばよかった」と思っても、それ以上は潜れません。
これを潜る前日に決めておかなければなりません。プールの大会は競技の最中に自分の上がり時を見極められますが、海洋競技の場合はこの「申告」から既に競技がはじまっている感じです。
体調、メンタル、海況・・・明日を予測しながら、ベストを尽くしながらも確実にホワイトが取れる「浅すぎず、深すぎず、ちょうどぴったりの」申告をしたい・・と思うとたった1m(往復2m分)の申告を決めるのにも迷うことがあります。1mなど誤差の範囲だということがわかっていても、悩みます。
申告深度はメンタルには大きく影響し、リラックス出来たり緊張してしまったり、あとちょっとのところで耳抜きが出来なかったり。また流れなどの海況によっては往復数mの差が成否の分かれ目になりかねないのです。
■たかが申告・されど申告
今回、私は本番大会はCWT,CNF,FIM3種目の出場でしたが、プレ大会では3日とも本命種目のCWTだけに絞って出場する、ここに迷いはありませんでした。ただ、初日の申告深度を
・55m
・56m
・57m
どれにするか?で大いに迷いました。どれも同じに見えますが私にとっては「自己ベストゾーン」なので、1mの重みはとても大きいのです。
事前練習では55mまで潜り、今年4月のバハマでは56mの記録もありました。「もう一度55mで様子を見るか」「いや、初日だからこそフレッシュに挑戦すべきか」等々・・延々と一人ブレスト。潜っている感覚を頭の中でシミュレーションして、紙に3つの数字を書き出して、結局、一番しっくり来た「-55m」に決めました。「ここから本番まではまだあと2週間。前向きなメンタルを保つことも重要なので、まずは確実にホワイトカードでスタートしよう。」そう考えての、いわば守りの数字。実際申告したとたん安心感に包まれ、ああ、これで良かった、と思ったのです。
・・今から考えると、何故ここまで迷ったのか、と可笑しいくらいなのですけれど。。今回の大会中一番迷ったのが最初のこの申告だったかもしれません。長期の大会では、一つのダイブが次のダイブに影響もするので、最初はより慎重になります。
深度を考え過ぎて最後はもうサイコロで良い、と思ってしまうこともあります。人によっては「この数字が好き」ということでサクッと決めたりということもあるでしょう。団体戦はコーチやチームで綿密に計算のもと申告数字を決めるし、NationalRecordやメダルを狙い「数字ありき」で勝負をする選手もいるでしょう。フリーダイビングは数字と密接で、毎回申告を考えるたびに、数字ひとつひとつに、「色」のようなものがあるように感じます。最終的には浅いか深いかよりも「その数字がそのものがしっくり来るか」という感覚で決める、そういった部分もあります。
さて、こうして申告が出揃うと、その夜「スタートリスト」(申告深度とそれを元にした競技時間の表)が発表されます。たかが数字の羅列ですが、この数字のひとつひとつには、各選手の色々な想いや葛藤がたぶん、秘められています^^
■DAY1 前日、55m
これだけ迷って迎えた大会初日。
競技場までの送迎ボート乗り場につくと、送迎船は影も形もなく、船頭のオジさんから、のんびり「1時間遅れになったよ」と告げられます。
炎天下で1時間も待つのはちょっと・・と、いったんホテルに戻り、ロビーのソファでウトウト。。
そしてまたボート乗り場に。大分混雑したボートに乗り込むと、オジさんの携帯に「大会中止」と連絡が入りました。1時間Delayの挙げ句の中止・・そしてDAY1は翌日に延期となりました。
海況不良による中止はよくある話なのですが、今回は競技海況の安全装置のセットの調整が上手く行かなかったようです。これで大幅に時間がずれてしまったため、競技は中止になりました。その代わり、トレーニングで潜るのはok、ということになりました。
周囲は何となく気が抜けてワサワサした雰囲気でしたが、それは気にしない。今日は予定通り大会と思い、-55mを潜り、無事タグを持って来ることが出来ました。一部始終をゆっくり観察しながらのダイブ、良い感触です。そして「多少のことがあっても平常心で潜れる申告」にしておいて良かった、と思いました。
トレーニングなのでジャッジはいませんでしたが、、自分の中では「よし、プレ大会DAY1、ホワイトカード」ということになり、ガッツポーズでした!
この後、本来1日おきにあるはずだった大会はスケジュールがずれ、翌日が正式に”DAY1”となりました。その後のスケジュールは延びないので、DAY1, DAY2が連続2日間の競技日になります。
<プレ大会スケジュール>
6th September – プレ大会DAY1⇒中止
7th September – プレ大会DAY1 & 公式トレーニング
8th September – プレ大会DAY2
9th September – 公式トレーニング
10th September – プレ大会DAY3
これまでの経験から、本番は一日ずつ休みを入れながら潜ると決めていたので、自分の中ではDAY1は既に終了したこととして、翌日の競技はキャンセル。まずは良いダイブをした感触とホッとした気持ちと共に、DAY2に向けてゆっくりレストすることにしました。良いダイブの次は潜るのが楽しみになります。長期戦でのこの「また潜りたい気持ちでのレスト」、大事です。
というわけで悩みに悩んだ55mの申告は成功でした^^
photo by Daan Verhoeven , Soteroula Tsirponouri
アプネア・トータルには様々なフリーダイビングコースが用意されています。
・Freediver :全くの初心者向け
・Advanced Freediver :フリーダイビングの基礎を取得している人向け
・Master Freediver :上級者向け4-5週間のコース
・Instructorコース
http://www.apneatotal.com/courses/freediver/
基本的には座学やプールを含めたスクール形式のコースがメインで、どれも数日間みっちりと行います。私のように数日だけ単発トレーニングをしたい、という人はあまりいないようでしたが、リクエスト次第で「自主練」「単発コーチング」なども可能です。
私の場合は「Apnea academy Instructor」のカードが十分なスキルの証明になり、Master Freediverの自習生と一緒のロープで練習をさせて貰えることになりました。フリーダイビングはスキューバのように資格がなくても出来ますが、やはりこういう時には世界標準の認定基準は必要だし、便利だと思います。
フリーダイビングの基本とリスクを理解していて、レスキュースキルがあること。これがわかると世界中どこでも、安心して一緒に練習することが出来る仲間と見なしてもらえます。医師の英文診断書とカードは世界中必携ですね!(もちろんカードがなくても経験やスキルが証明出来ればokだし、カードだけあれば良いと言うわけではありませんが)
トレーニングは目の前のビーチの沖合で行います。ここはいわゆる「どん深」地形ではないので、小舟で数分、泳いで数十分のところでようやく20m〜30mの深度が取れます。海況が良ければさらに遠出をして、50m〜70mの深度が取れるようですが、そこまで行くことは稀だそう。ディープダイブ向けの場所とは言えません。ただ、水温が年間通して28-29℃ととても暖かく、レンタル機材や船の設備が整っているので初心者には最適ですし、私のような経験者が冬の間暖かい海で軽い基礎練習をする場所としては丁度良いところ、と言えます。
ただし。私の滞在中は、当初から予測はしていたことですが、海況がとても悪く・・海が荒れて練習船が出ないという日すらありました。
これは沖合の練習場所から岸への道中。沖合の海は荒れていても岸近くはサンゴと魚の数がすごい!
この水中が見たくて、私は帰り道はいつも何人かと一緒に泳いで岸に戻っていました。(ただし、タクシーボートが運航しているので、単独でのスイムはおススメしません)
こちらが練習船。
http://www.apneatotal.com/headquarters/freediving-boat/
この船はフリーダイビングの機材が全部積んであります。ロープも簡単に降ろすことが出来、魚探も完備。まさにフリーダイビング専用船!
ニャンコを囲んでノンビリ世間話のNathanとKane。おいおい、、練習は?・・と呼びに行くと副鼻腔のスクイズについてマニアックトークをしていました。みんなマイペース。
私はmax深度-25m程度を繰り返し潜り、じっくり良い練習が出来ました。
透明度は激悪でした。ぼんやりと映っているのはフリーダイビングでも最も大切なレスキューの練習。初心者も必ず行います。
これが海底。何もない砂地です。水面はワサワサ荒れていても水中は静かで下の方は透明度やや上がります。潜行すると落ち着きます。
実はかなりの「うねり」もあり。行きのフェリーほどではありませんが、半数以上が船酔い・波酔いしてました。自主練組は続々リタイアしていき、この日はスタッフのArturoにサポートしてもらい潜りました。
彼らはノルウェーから来たスキューバダイバー。寒い北欧から来ている旅行者はとても多い。彼らはこれが初めてのフリーダイビング体験とのこと。なのに土砂降りの雨が降って来ました。
いや、、土砂降りどこじゃないよ・・雨粒が・・イタいイタいイタい!!
ノルウェー、ドイツ、オーストラリア、米国、韓国、日本・・メンバーは国際色豊か。機材もウェットもフルレンタル可能なので(というか、フリーダイビングの機材など持たずに来ている人が多いので)皆おそろい。いかつい顔にオソロのウェットが何だか可愛い。
滞在中お世話になったアプネア・トータルインストラクターのSilvia(スペイン出身)、Camila(アルゼンチン出身)。短い時間だったけれど、なんだか同志、みたいな感じに!ここは創設者のMonicaの影響かスペイン系のスタッフが多く、スペイン語が飛び交っていました。私も何故かスペイン語で指示出しされていました。笑。
フリーダイバーに出会うと勝手に世界中どこでも「ただいま〜」とでも言いたくなるくらいほっとします。言語以外の「共通言語」を持った仲間が、ここでも沢山出来ました!
タオ島のサイリー・ビーチはのんびりとした素朴なリゾート。
ビーチ沿いの小道の両脇には色々なお店が並んでいます。
ダイビングショップ・マッサージ屋・食べ物屋・土産屋・タトゥー屋・ネットカフェ
ダイビングショップ・マッサージ屋・食べ物屋・土産屋・タトゥー屋・ネットカフェ
ダイビングショップ・マッサージ屋・・・・(以下同文)
そんな中に少し目立つ店構えでフリーダイビング・スクール「アプネア・トータル」があります。
入り口は窓も扉もなく、全開。大きなモニターでフリーダイビングの映像が流れています。沢山のクッションが置いてある大きなソファはつい座ってみたくなる。まるでタイマッサージやお土産屋のように気楽にフラっと入れる雰囲気です。
フロントの奥にはガラス張りのレクチャー・ルーム
ロングフィンやモノフィン、フリーダイビング用のシンプルな機材が並んでいます。
■「通りがかり」のフリーダイビング
さて、この島を訪れる人の大半はスキューバダイバーかと思いきや、長期旅行中のバックパッカーもかなりの割合を占めているように思います。あとはヒッピーなパーティ・トラベラー。特に隣のパンガン島は夜のビーチで繰り広げられる野外レイヴ、フルムーンパーティで有名。彼らがついでにタオ島に立ち寄ることも多い。
つまり、昼間とてもヒマな人が多い。そして皆、滞在期間がもの凄く長い。そんな彼らが昼間フラフラと小道を歩いているうちに「フリーダイビングでもやってみるかぁ〜。ヒマだし、海綺麗だし。安いし」となるわけです。たぶん。
そしてバックパッカーやヒッピー的なものを好む人たちの志向に、フリーダイビングのナチュラルさはFitするのかも知れません。
というわけで、アプネアトータルでは、フリーダイビングを始めたきっかけが「通りがかり」だったという人も結構いるようでした。日本ではなかなか無いパターンですよね、これは。笑。
ただ、きっかけはそんなに気楽でも、いったんハマった人がとことんのめり込むこともしばしば。私が滞在中知り合った一人は当初フリーダイビングなんて知らずに、軽い気持ちで体験してみたらすっかりハマってしまい、かれこれ1ヶ月ここで本気で修行している、とのことでした。
ふらっと通りがかるとこんな映像が流れています。
■Blue Immersion
島にはもう一件、「Blue Immersion」というフリーダイビングショップがありました。ここもApneaTotal同様に、経験とスキルと健康の証明出来ればdrop in可能でした。SSI系でとてもしっかりしており、とても親切。一日くらいここでトレーニングしてみようかと思っていたのですが、今回は時間が取れずに諦めました。
きっとここからも「通りすがりのフリーダイバー」が生まれているのだと思います。
このお店の並びにはタトゥー屋、そしてオカマバー。こんなカオスな感じも、ザ・コタオ。ザ・サイリービーチなのでした。
「忙」という文字が空気中を秒速で飛び交い、歩いているだけで呼吸とともに体内に吸収されていく錯覚を覚える師走のスーパー・ビジー都市トーキョーを飛び立ち、一路向かったタイのタオ島。
バンコクから南に500kmほど離れたタイ湾に浮かぶ、飛行機も止まれない小さな島です。タイ語ではKoh Tao(コタオ)、Koh は島、Taoは亀。その形から「亀の島」と名付けられています。トーキョーとは対極、名前からしてノンビリとした響きです。日本ではあまり知られていないものの、欧米人やコアなダイバーには密かに人気がある島です。
マレー半島の反対側のプーケットやピピ島はこの時期は海況も最高でハイシーズンですが、東側のタオ島はまだ雨期を抜け切っていない。その上地形的にDeepな外洋のBlue waterは期待出来ない。あまり情報もない・・
ただ、ここには、「Apnea Total(アプネア・トータル)」というフリーダイビングのトレーニング施設があるという情報だけを頼りに。
そして「タオ(=道)」という響きに吸い寄せられるように、行って参りました。
縁もゆかりも無い亀の島へ。
■バンコク到着からタオ島へ
バンコクからタオ島へのルートは主に3通り。(1)バス+船(2)飛行機+船(3)寝台列車+船。圧倒的に安価なのは(1)のバスルート。budget travellerとして当然バスを選択したいところでしたが、スケジュールが合わずに空路を選択しました。
バンコク到着の夜は簡素なドミトリーにチェックイン、ここで数時間の仮眠を取り、早朝のドンムアン空港から国内LCCのNok Airでチュンポンへ。
Nok Air、クチバシマークがかわいく、リーズナブルなタイ国内のLCC。
飛行機の中で、夜明けを迎えました。眼下には亜熱帯の風景。
チュンポンの船着場には朝9時に到着。さあ、、ここで4時間の待機です。
強烈な波を眺め、、「船、本当に出るのだろうか・・」などと心配しながら・・
海と、空と、FREE Wifiがあれば、4時間なんてあっという間。タイではWifiに困ることは殆どありませんでした。結局海が荒れていたため、この港ではなく別の港から運河を経由してフェリーは出航することになりました。
■フェリー
高速フェリーで約2時間。竹芝から大島、みたいなイメージで楽勝な船旅を想定していました。乗る前に「酔い止めピルは飲んだか?」と乗組員に聞かれましたが、「あはは、大丈夫〜」と受け流し・・
海風の心地良い甲板へ。(それにしても欧米人ばかり・・ここはどこ?という感じ。)
最初の数十分は穏やかな運河をゆっくり走行。水は泥水のような色をしています。運河には沢山のカラフルな船があり、そこには漁師さんらしいおびただしい数の人が乗っていました。フェリーが通り過ぎるとどの船からも派手なアクションで手を振ってくれる、マストの支柱によじ上ったり。カラフルな船の上で小さくうごめく人たちは妖精みたいで、おとぎ話のような光景に思えました。
運河を抜けたとたん、楽しい船旅の様相は一変・・・
甲板から命からがら船室に入り、どこでも良いからカラダを安定させようと近くの座席に転がり込む。
そして次々に聞こえてくる、、・・船酔いによる不穏な音と立ちこめる臭気。明らかにそれは伝染し、僅かな時間に、さっきまであれほど元気だった欧米の旅行者たちが次々と倒れていきました。。
まさに悪夢のような光景。
タイ人の乗組員はそんな中をひょいひょいと歩き回り、「使用済エチケット袋」を回収して新しいものと交換しています。船酔い耐性は強い筈の私ですが、さすがにこの「酔いの伝染力」には太刀打ち出来そうも無く、激しく傾く船内で何とか真鶴のエリさん直伝の「酔い止めバンド」を腕に装着。そして「万一の事態」(酔いよりむしろこちらのほうがシビアに怖かった・・)に備え「非常出口と救命器具の装着方法」を必死で探し頭にinput。その後は音と臭気をシャットアウトすべく、イヤホンで音楽を聞き耳を塞ぎ、目をとじ、マスクをし・・そして瞑想。。。
ひたすら瞑想・・
ナニも聞こえない、、ナニも見えない
peace mind……
明らかに心拍が下がり、やがて時間の感覚がなくなり・・・・
ん??これってStatic(息堪え)?フリーダイビングの技術ってこんな時に役立つんだなあ・・などと思いながら。
は、と我に帰ると、タオ島の港メーハートに到着していました。。船の床は汚れ、溌剌と元気だった旅行者たちはげっそりと憔悴し、でも何故かこの航海を乗り切った達成感と連帯感のようなものを感じながら、タオ島の地面を踏みしめたのでした。私は遥々トーキョーから航海してきたような気分で、心の底から思いました。
地面って素晴らしい!
これはメーハートの港。雑然と賑やか。ちなみにこの後さらに海は荒れ、夜の船は欠航したようです・・(そもそも昼間も日本だったら120%欠航レベルだったと思う・・)
■サイリー・ビーチ
ともあれ。無事にApneaTotalは見つかり、そしてすぐ近くのリーズナブルで居心地の良いバンガローに落ち着くことが出来ました。booking.comにもagodaにも全然出ていなかった。目で見て足で歩くことも大切です。
サイリービーチの夕暮れ。
ここは、初めて来た場所には全く思えません。何だか、葉山の一色海岸でまったりビールを飲んでいた数ヶ月前の「夏」を巻戻ししたような感じ。もう夏も終わりに近づいているような雰囲気。エンドレス・サマーという言葉がぴったりです。
年の終わりから、夏の終わりへ。旅は場所だけでなくて季節まで移動するのですから、あのくらいの荒波は仕方なかったかな?
でも船酔いはゴメンです。SINGHAで酔うのは素敵です。マイペンライ♪
※タオ島のハイシーズンは2月〜10月、この頃はとても海況は安定するようです。
風の吹くまま北に向かい「今帰仁(なきじん)」にやって来ました。
私は毎年沖縄本島に来ているのですが、あくまでトレーニングや大会中心だったので
今回のように自由に動き回ったことはなく、こんなに北は初めてです。
不思議な静けさで、どこか離島のような雰囲気です。
オフロードを超えてやっと辿り着いた
海辺にポツンと佇む白いゲストハウス「結家(むすびや)」が今夜の宿。
煌々とした月明かりに照らされていました。
まるで灯台みたいに、ほっとする明かりです。
月が煌々!そして
真夜中は過ぎていましたが、月明かりのビーチへ。
これ、真夜中の写真です。月明かりで自分の影が出来る位明るいのです。
本が読めそうな明るさです。
海に浮かぶスーパームーン!
いつまでも見ていたい月でした。
でもいつのまにか。眠りへ・・zzz
翌日目が覚め、カーテンを開けると・・・・
太陽!真っ青な空!一面の緑の庭!海!!!
月明かりの下でも素敵でしたが、陽の光の下だと
「なんじゃこりゃ!!!」と素敵すぎて言葉にならないような場所に居たことに気づいたのです。
もう飛び起きて裸足のまま庭に出へ。
宿のみんなはもう、潜る準備を始めています。
天気予報の曇りマーク、沖縄では晴れってことなの??と不思議になりますね・・。
部屋から1分以内にこんな入り江が。
注!)高級リゾートではなくて、ゲストハウスの目の前です!
明るいところで見ると昨夜と全く別の場所みたいですね。
リーフが続いています。
100mほど行くと、リーフが終わり、ドロップオフに!
海に一緒に潜ると一瞬で昔からの友達みたいになれるのは、不思議です。
風が吹かなければ、ここに来なかったし、会えなかったひとたち。
到着してから出発まで、たった10時間ほどの短い滞在でした。
でも何だか10日もいたみたいに、お別れが寂しく感じられました。
そして風に吹かれて、また南へ。
photo by Makoto Hayakawa
以前、「風が吹いたら」という話を書きましたが。
フリーダイバーの行動は本当に、風に支配されてるのでは。。と思います。
風の中でも特に台風には完全にお手上げ。
7月初旬の台風8号ノグリー・・この時期まさかの超大型台風・・
数ヶ月前から用意周到に準備していた計画は全て白紙。
こんな時は・・ともかくあっさり諦めて
そして「さぁ。これからどうしよう。」
とちょっとワクワク別のプランを・・あらゆるオプションを考えて見ますが
あっという間にタイムリミット。
ひとまずせっかく手配していたチケットで台風一過の那覇へ。
まあ、風に流されてみるのも武者修行です。
まずは到着早々、沖縄チームの皆の練習に混ぜてもらいました!
今回はストイックにトレーニングをするつもりは毛頭無かったのですが・・^^;
風が吹いてトレーニングの代わりに海遊び、は良くあるパターンですがその逆もあるんですねえ。
この日は海況が悪く船が出なかったため、真栄田岬にフロートからロープを垂らして練習です。台風の影響か、大分濁っていましたが、それでも梅雨時の東京から来た私にとってはパラダイスです。
久々にロープに沿って潜る、静かな瞬間。いつものモノフィンではなくて、
細長くて柔らかいカーボンのロングフィンでゆっくり潜ります。
10m…15m…20m… しばらく忘れていた「水圧」はあたたかく感じました。
そして、青の洞窟へ!
トレーニングを終えて自由な人魚みたいになった福田選手が洞窟への案内役です。
青の洞窟周辺には人がいっぱいです。
すると、ひょいっと人魚は水中へ。
なるほど、水面は大混雑ですが、水中は空いています。
幻想的。混雑していても濁っていても十分美しい「青の洞窟」でした。
そして、いつもの「恩納の駅」でごはんを食べ、いつものお風呂に入り、
渡嘉敷先生のゴッドハンドマッサージを受けてすっかり快調。
あれ、本当にトレーニングに来たみたい・・?
いつも通りのようでいながら、全部計画外なので、なんだか新鮮です。
あっという間に夕方。サトウキビ畑に陽は沈みます。
天気予報は曇りだったのにずっと晴れていました。これも予定外ですね。
だんだんと夜に。
東の空を見ると大きな月が出ていました。スーパームーンです。
風の吹くまま、北へ北へと向かいました。
つづく