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暑い夏まっ盛りですが、見ているだけでひんやりしてくる
水の写真集「Water Being」がこちら。
私の友人であるフリーダイダイバー写真家、野口智弘の初の写真集が、この『Water Being』です。カメラマン自身が素潜りして撮影した海や人の写真で、独特の世界が広がっています。ここに写っているのは人間、魚、鯨、沈船・・・・深い深い蒼い世界。明るいキラキラした世界ではなく、deepで冷たくて、薄暗くて、だけど落ち着きと安らぎも感じる世界です。
さて、この写真集の出版記念パーティーが先月、恵比寿のお洒落な写真集食堂「めぐたま」にて行われました。総勢70人ほどが集まる一大イベントになりましたので、この様子をご紹介します!
まずはウエルカムドリンクならぬ、「ウェルカムおにぎり」での歓迎!身体に優しい美味しい手作り料理でのおもてなしです。
なんと、小笠原のフリーダイバーであり、凄腕スピアマン小林さんが小笠原で自ら獲ってきたお魚による豪華なお魚の数々が振る舞われたのです!!
小林さん自身も野口君の写真のモデルになっていますが、出版記念のお祝いに駆けつけるだけでなく、こんなにバラエティに富んだお魚を穫って、そのまま遥々船で東京に一緒に持ってきて、自ら捌いてくれる、という徹底した祝福ぶりです!
こちらがメニュー。かっぽれ、ツチホゼリ、石垣鯛、バラハタ、などなど・・こんなに沢山食べきれるかな・・
と思ったのもつかの間。会場には沢山の人がお腹を空かせて来ていて、乾杯のあとに次々に、瞬殺で無くなっていきました^^;
主催のデザインチーム「Richblack」吉井さん、高橋さんからのご挨拶。
このパーティには海関係の人と写真・アート関連の人が半々といった感じです。写真については詳しくても「海に潜る」ということ、「素潜りで写真を撮る」ことをあまり知らない、という人も多く、野口君の解説の前に私がフリーダイビングについても少しお話させて頂きました。
人間はもともと海から来た生き物です。フリーダイビングを通じて改めて感じることが出来る、「潜水反射」などの興味深い人間の身体機能。フリーダイビングはまさに「海の記憶を思い出す」もの、人間は「Water Being(=水の生き物)」だと思い出すことが出来るものです。野口君の写真集のタイトルはまさに、フリーダイビングのキモなのではないかと思います。
そしていよいよ野口君。が訥々と語る水中写真のお話
「自分自身が素潜りをする中で、単に海の中の景色ではなく、潜っている時の様々な心の機微を撮りたいと思った。潜れば潜る程死に近づくはずなのに、そこでは何故かリラックスして、不思議な無心の境地になれる、それを写真にして伝えたいと思った」
「写真というのはそもそも物理的なもので、光を撮っているに過ぎない。ただの光の反射でしかないそこには本当は心の機微は写らないはず。でも、写真を見た時には確かに心が動かされる瞬間があるはず。」
「これは小笠原の海底に沈む零戦。70年も前の人の痕跡。沢山の歴史が詰まっている。それが今では海という大自然の一部のようになりながらも、でもどこかに人の残り香のようなものがある。これを見た時に自分の気持ちが大きく揺さぶられた。人工を内包している自然、そして純粋な人工は人の意志なのではないだろうかと考えた・・・」
普段は真面目に語ることが無い野口君の写真への熱い思いを聞くことが出来ました。
真剣に聞き入る面々。海の世界を知らなかった人は海を、写真のことを知らなかった人は写真のことをそれぞれ知り、海の命を美味しく頂きながら、新たな出会いと繋がりが出来た夜でした!
集合写真、、さすが広角カメラで全員収まった!の図。
そして最後に、オーナーの写真評論家、飯沢耕太郎氏により、「WaterBeing」はめぐたまの書棚に収まったのでした。
野口君が次にどんな写真を撮るのか、楽しみです。写真を通して、沢山の人が水を感じ、自分が「水の生物」であることを思い出してもらえたら嬉しいですね!
Photographer 野口智弘:https://www.facebook.com/pages/Photographer-%E9%87%8E%E5%8F%A3%E6%99%BA%E5%BC%98/1522593401329360?fref=ts
写真集「Water Being」(amazon):
http://www.amazon.co.jp/Water-Being-%E9%87%8E%E5%8F%A3-%E6%99%BA%E5%BC%98/dp/4990808304
photo by Tomohiro Noguchi,
Mami Shimizu, Michiyas Suzuki
さて、毎年ひっそりと潜っていた流氷フリーダイビングですが、今年は各種のメディアでも取り上げていただきました。
■NHK「おはよう日本」特集「流氷に“異変” 素潜りに挑んで」
2015.3.15(日)
http://www.nhk.or.jp/ohayou/marugoto/2015/03/0315.html
地元出身のフリーダイバー、高木唯選手を主人公に、地元知床の様子、流氷フリーダイビングの様子、年々減少する流氷の状況を取り上げた番組。流氷や水中に関するベテランのクルー陣により、長編映画が出来上がりそうなくらい湛然に丁寧な取材を頂きました。珠玉の10分間番組に凝縮されています!
(※流氷について興味を持った方、是非昨年のNHKスペシャル「流氷”大回転”」をご覧下さい!http://www.nhk.or.jp/special/detail/2014/0518/)
■台湾 三立新聞網
換個角度看世界!北海道「流冰之下」景色震懾人心
2015.3.15(日)
http://www.setn.com/News.aspx?PageGroupID=15&NewsID=65664
今年もはるばる台湾から、JayとGeorge2名のフリーダイバーが参加しました!昨年すっかり流氷(リャオピン)に魅せられてしまい、今回2度目の参加となったJayがインタビューに答える様子がNHKの番組でも放送されました。この様子が台湾のメディアでも紹介されました!温暖な台湾に住む人にとっては「冬」「寒さ」は憧れのようです。
■海とダイビングの総合サイト「オーシャナ」
世界遺産・知床で氷点下を潜る!「第3回フリーダイビング流氷カップ」レポート
2015.3.14(土)
https://oceana.ne.jp/after_report/55612
今回初参加のフリーダイバー村上紘子さん寄稿による速報レポートを、オーシャナに掲載いただきました!彼女は「今回少しでも不安を感じたら潜らない」としっかり決めて参加しましたが、結果は見事成功!氷から上がりたての笑顔が最高に輝いていました!そんな新鮮な喜びが伝わってくる清々しい記事です。
■北海道ファンマガジン
氷点下の海で素潜りに挑む!
世界でも珍しい流氷フリーダイビング大会
http://pucchi.net/hokkaido/funlog/201503drifticediving.php
地元のみならず、ニュースアプリなどにも情報配信している「北海道ファンマガジン」でも取り上げて頂きました。地元ならではの暖かい視点を加えつつ、丁寧にとても良い記事に仕上げて頂きました!
* * *
こうして、沢山のメディアを通じて、流氷の素晴らしさ・貴重さが沢山の人に広まることはとても嬉しいことです。それと同時に、再びですが、安易に真似出来る活動ではなく、危険と隣り合わせであることもお伝え出来ればと思います。
さて、最後にご紹介するのは・・
■写真集「Water Being」野口智弘
「流氷フリーダイビング」の発起人は地元ウトロ出身の高木唯選手と、水中カメラマンの野口智弘氏の2人。
野口氏が3年前から撮り続けている、この流氷フリーダイビングをはじめとして日本各地の海と人との幻想的な写真を収めた写真集「Water Being」が4月半ばに発売になります!
海の深さ、冷たさ、静かさ、そして水圧の重さがずしり、と伝わってくる、他で見たことがない独特の水中世界。必見です!!
撮影:野口智弘
A4 ハードカバー フルカラー96ページ
定価:本体5000円(税別)
出版社: 野口智弘写真事務所
※以下リンクから2015年4月半ば以降に購入可能になります。
http://www.amazon.co.jp/Water-Being-野口-智弘/dp/4990808304
photo by Hiroko Murakami
今年も行って参りました、流氷フリーダイビング。
フィンを背負って、ビキニを鞄に詰め込んで、
ユネスコ世界自然遺産登録10周年を迎える
極寒の地、北海道知床半島斜里町ウトロへ!
流氷をウェットスーツで素潜りするというエキセントリックな「流氷フリーダイビング」ですが、早いもので今年で3回目となりました。(2013年、2014年の様子はこちら)
フリーダイバーの中でも選りすぐりのモノ好きが集って仲間うちでひっそりとはじめたこの企画。究極の過酷なチャレンジです。今年は参加メンバーも増えましたが、地元の皆様に多大なる協力を頂きながら、これまで以上に入念な準備と徹底した安全管理体制の元に実施しました。また参加者自身のコンディショニングも大切。このために冬の海でトレーニングを積んだり、数ヶ月かけてしっかり「身体を作り込んだ」(=体脂肪を増やした)選手も^^; どうぞこの先は真似したいなどと決して思わず「へぇーよくやるな・・」と呆れながら読んで下さいませ。
■流氷はどこへ?
豊かでダイナミックな大自然に溢れる知床。毎年冬に遥かオホーツク海の北からやってくる流氷も見所のひとつです。が・・今年は少し様相が異なっていました。
流氷が・・・ほとんど無かったのです。
↓今年の様子。
毎年、この場所から見えた海は、「大海原」ではなく真っ白な「大平原」でした。波の音などなく、コチコチに固まり、しん、と静まりかえっていました。
ところが今年は、暖冬の影響か流氷が固まらず、耳を澄ますと「ゴォー」っというかすかな轟音が聞こえてきます。目をこらすと、氷を乗せたシャーベット上の海が、ウネウネとうごめいています。まるで生き物のように。そして海の様子は刻々と変わります。
こんな状態でどうやって潜ろうか・・・。本当はこんな風にがっちり凍った氷の上に穴を空けたいのですが
・・今年はこのありさま。シャーベット上の氷では足場を確保しようにも、流氷が動いてしまったり、柔らか過ぎて危険です。なにしろ、出口がいつのまにか塞がれてしまうことにもなりかねません。
安全に潜れる場所を探すためにドライスーツを来て流氷の様子を探索したり
それでも刻々と流氷の様子は変わっていきます・・・うーん、ここで潜れるかな・・。
・・・・・
そして迎えた大会当日。夜のうちに吹いた風の影響か、前日予定していた場所から、見事に氷が無くなってしまっていたのです。そこで、氷が安定して残っている別の漁港のに実施場所を変更。氷が移動してしまわないように、氷に杭を打って港に係留して潜ることになりました。
水深は5-6mと浅かったので、例年行っていた「コンスタント・ウェイト(垂直に潜る)」は中止し「ダイナミック(水平に泳ぐ)」種目だけの開催となりました。
これは知床観光協会の方が港から撮影してわかりやすく解説をつけてくれた画像です。氷の下の並行潜水は途中で浮上することが出来ないため、ショートコースとロングコースを設け、無理ない距離を潜れるようにしました。
また昨年のヒヤリハット経験から、ラニヤードは使わず、ロープに手を添えて潜ることになりました。
今回スタートとゴール地点には氷と氷の間が塞がらないように、地元の漁師さんたちの知恵で、こんな木枠を設置しました。
水中はほの暗く、おおきなヒトデがいました。そして見上げると
空に浮かぶ雲・・ではなくて、海に浮かぶ、氷。
一瞬だけど、長くも感じる時間。ゴールの木枠が氷の海にぽっかり浮かぶ、窓枠のように見えました。
アイムOK!のサイン。満面の笑顔・・がこわばっています、若干。
なにしろ、水温は-1℃。正真正銘、氷点下ですからね・・。直接海水と接触する顔は冷たいを通り越してピリピリと痛みを感じる程です。
体が冷えすぎないように、氷から上がったら暖かい豚汁。至福の時ですね。こんな準備も3年目の経験値ならでは、なのです。
ともあれ、こうして無事に大会は終了しました!
そして、氷上人文字でウトロに感謝を込めて!
浴衣姿で、感謝を込めて・・
■減少する流氷
オホーツク海から北海道に接岸する流氷は、多くの栄養分を運び世界自然遺産知床の大自然を育む重要な役割を担っています。でも近年地球温暖化の影響で年々減っているそうです。今回私たちはそのことをまさに肌で感じることになりました。
勿論年によって波があり、今年がたまたま暖かかっただけで、来年はまたがっちりとした流氷が見られるかもしれません。でも長期的には減少傾向にあるそうです。季節の移り変りと同様に、地球規模の気候変動もまた、ある日を境に突然変わるものではなくて、緩やかに変化していくものなのかもしれません。
そう思うと、ますますとても流氷が愛しいものに思えてきます。「豊かな生態系を育むオホーツクの流氷の海がこれからもずっと続くように」そう願わずにいられません。
氷、海、雲、雪。
全て水が形を変えたもの。
水は様々な姿で私たちを圧倒します。そしてこの凍てついた地でほんの一瞬だけ、水に入ることで、自分の存在はとても小さく、でもこの大きな自然の一部だと、確かに感じることが出来るのです。
※今年の流氷フリーダイビングは様々なメディアで取り上げていただきました!
詳しくは「流氷フリーダイビング」、世界で話題に?!へ
Photo by
Tomohiro Noguchi, Jay Hung, Shuji Hosoda,
Yui Takagi, Hiroko Murakami
11月の半ばを過ぎると、年末に向かって一気にクリスマス・年末モードですね。もう夏なんて遥か昔、忘却の彼方のような。そして海という場所を忘れそうになっている人も多いのでは・・?
私も濡れたウエットスーツとギョサンの代わりに、そろそろ陸(オカ)に上がって暖かいコートとブーツで街を闊歩しようか〜・・という誘惑にかられることもあるのですが、この時期の、ひっそりとした海の魅力はそれを遥かに凌駕しているのです。
広いビーチを独り占め!するこの感じ^^
夏の「さあ海だ!」というワクワク感が、「大トロ」とか「カルビ」みたいな王道的なわかりやすい美味しさだとすると、冬の海は「酒盗」とか「ジビエ」とかちょっと通好みな感じですかねえ。(食べ物の例えでスミマセン・・)
同じ場所でもこの時期は人も少なく、透明度も増して、そして思わぬ大群や大物に出会うことも出来ます。
■三浦半島の南諸磯海岸。夏はキャンプや海水浴客で賑わう場所ですがこの時期は「秘境」のような場所になります。まるでどこかの南の島のようです。水温は18℃ですけれど・・
■これは葉山の小磯。夏はたくさんの海の家でとても賑やかで楽しい場所ですが、冬はひっそり、のんびりとして、時には信じられないほど青い世界が広がります。
■真鶴・岩。11月の最後のトレーニングの帰りに、なんとマンボウに出会うことができました!
■これは西伊豆・井田でのトレーニング。海の中から紅葉に染まった山を眺め、帰り道のこんなタカベの大群に囲まれると、寒さを忘れます!
スキューバダイビングと異なりスキンダイビングやフリーダイビングはドライスーツを着ません。だんだんと冷たくなる水温を肌で感じます。そしてトレーニングの後の温泉や、暖かい飲み物の美味しさ、太陽の暖かさをひときわ嬉しく感じるのもこの季節の醍醐味。
大分早くなった日の入り。夕陽が沈んだ後、じわじわと空が染まり行くマジックアワー。ハイライトの「日の入り」が終った後にじーっと残っている人だけが見られる特別な、ちょっとツウな時間。
日本、だけでなく北半球のフリーダイバーはほぼオフシーズンに入りますが、夏とは違う魅力を持つ冬の海。潜らないなんて勿体ない!
寒さに負けない心と身体、そして万全の装備と、・・・忘れちゃいけないホットジェルを持って冬の海へGO!
photo 2014.11 @moroiso, hayama,manazuru,ita
photo by Masayo yoshida, yuki muto
風の吹くまま北に向かい「今帰仁(なきじん)」にやって来ました。
私は毎年沖縄本島に来ているのですが、あくまでトレーニングや大会中心だったので
今回のように自由に動き回ったことはなく、こんなに北は初めてです。
不思議な静けさで、どこか離島のような雰囲気です。
オフロードを超えてやっと辿り着いた
海辺にポツンと佇む白いゲストハウス「結家(むすびや)」が今夜の宿。
煌々とした月明かりに照らされていました。
まるで灯台みたいに、ほっとする明かりです。
月が煌々!そして
真夜中は過ぎていましたが、月明かりのビーチへ。
これ、真夜中の写真です。月明かりで自分の影が出来る位明るいのです。
本が読めそうな明るさです。
海に浮かぶスーパームーン!
いつまでも見ていたい月でした。
でもいつのまにか。眠りへ・・zzz
翌日目が覚め、カーテンを開けると・・・・
太陽!真っ青な空!一面の緑の庭!海!!!
月明かりの下でも素敵でしたが、陽の光の下だと
「なんじゃこりゃ!!!」と素敵すぎて言葉にならないような場所に居たことに気づいたのです。
もう飛び起きて裸足のまま庭に出へ。
宿のみんなはもう、潜る準備を始めています。
天気予報の曇りマーク、沖縄では晴れってことなの??と不思議になりますね・・。
部屋から1分以内にこんな入り江が。
注!)高級リゾートではなくて、ゲストハウスの目の前です!
明るいところで見ると昨夜と全く別の場所みたいですね。
リーフが続いています。
100mほど行くと、リーフが終わり、ドロップオフに!
海に一緒に潜ると一瞬で昔からの友達みたいになれるのは、不思議です。
風が吹かなければ、ここに来なかったし、会えなかったひとたち。
到着してから出発まで、たった10時間ほどの短い滞在でした。
でも何だか10日もいたみたいに、お別れが寂しく感じられました。
そして風に吹かれて、また南へ。
photo by Makoto Hayakawa
フリーダイビングをはじめた頃。「-30m」は憧れの深度でした。
そこに行ったら何が見れるのかな??
どんな世界があるんだろう。と好奇心で一杯です。
-30mに到達したら次は31m、32m、33m・・・あまり景色は変わりません。
見えるのは青い水と・・・
ロープ・ ロープ・・・ロープ・・・
ロープの先にはまたロープがあります。そして一匹の魚もいません。
もう1m、あと1mと追いかけて、いつのまにか-40mが目前。
気がつくと、もう数字しか見ていませんでした。
そしてその年の沖縄大会では–40m付近で連続ブラックアウト(意識喪失)。
海で意識を失う。とても危険なことです。フリーダイバーとしては失格行為。
到達出来ない-40mの壁。
ロープの先には素晴らしいものがあると思ってひたすら追いかけていたら、
その先にあったのは壁だったという衝撃。
もうすっかり、潜るのが怖くて、嫌になってしまったことがあります。
自分にはもう潜る資格すらない・・・と。
ひと夏、潜ることすら、出来なくなりました。
でもある日。ようやく恐る恐る、海へ。
そしてごくごく浅いところで、そっと泳いでみました。
そこにあったものは・・
キラキラした岩場。ゆらゆらする海藻。
プニプニしたイソギンチャク。
海底にうつる光と影。
水面近くの青や赤の魚たち。
いつのまにかスルーしてしまっていた浅瀬の世界が、こんなにも鮮やかだったなんて!
ふっと力が抜けたその1ヶ月後、私はホームゲレンデの真鶴記録会で、-40mのホワイトカード(※)を貰うことができました。それは本当に真っ白な、キラキラしたホワイトカードでした!
浅瀬のスイミー。小さな青いお魚。
そういえば、メーテルリンクの「青い鳥」では、世界中を探しまわっても
見つからなかった青い鳥は、実は家にいたんですっけ。
深いところばかり、遠いところばかり見て、
ふと気づくと、猛スピードで何かを必死で追いかけている自分・・・
そんな自分への教訓を、水深0m地点のスイミー達は
久々に思い出させてくれました^^;
@土肥 Apnea Academy Asiaスキンダイビングインストラクター海洋実習にて。
※ホワイトカード:フリーダイビングの競技会における、正しいパフォーマンスと認められた判定結果のこと。(減点はイエローカード、失格はレッドカード)
今年も「流氷フリーダイビング」の季節がやって参りました。
というわけで行って参りました、遥々世界遺産知床・ウトロまで!
フリーダイバーはそもそもマニアックな人が多いのですが、その中でも特に流氷ダイバーは「トップクラスのモノ好き」です。ここから先はどうぞ、良い子は真似せずへぇーよくやるねぇ・・、というスタンスでお読み下ください。
私は昨年に引き続き2度目のチャレンジとなります。
昨年は女満別空港到着時から終始吹雪いていて日帰りを余儀なくされたのですが、
今年は快晴。青空と、雪の積もった真っ白な大地のコントラストも鮮やかな
ピカピカの世界でした。太陽の力は偉大です!
一面の流氷を見ながら海岸線を快調にドライブ!とはいえ外気温は氷点下。この後のダイブに備えてしっかり唐揚げを食べて防寒対策も万全です。
●いざ、ウトロ港へ
ここは、湾内なのです。何度見ても不思議な光景です。
てくてく、、てくてく。沢山の機材やウェイトを橇に乗せて。
そしてやっと辿り着きました。大会会場の「アイス・ブルーホール」
今回は2つの穴が会場となります。既に氷がはっていたので、掻き出しているところです。
これは前日の写真。積もった雪の上からポイントを見つけ出し、ツルハシとスコップで、穴を掘ります。たいへんな作業なのです。前乗りして作業してくれた皆さん、ありがとう!
さて、これが今回のメンバーです。フリーダイバー7名、スキューバーダイバー3名、カメラマン1名、陸上サポート2名の総勢13名です!去年よりだいぶ仲間が増えています。
皆モノ好きすぎる・・・。
そして何と今年ははるばる台湾からJAYさんも参加!実は彼は昨年秋に「流氷フリーダイビングに参加したいのだけど・・」と密かにメールをくれたのですが。私は全くおススメしないどころかむしろこんな風に脅していました。
「言っておくけど本当にクレイジーな人しか集まらないし、ハッキリ言って極寒で全然楽しくない。だいたい寒いって、どういうことか知ってるの?君これまで潜った最低水温何度?」
などなど。。が、にも関わらず、彼は、やって来ました。本物の雪を見たことすらなかったのに。このために、台湾では全く必要無い分厚い7mmウェットスーツをオーダーメイドし、湯船に氷を張って準備して。
彼もトップクラスのCrazyダイバーですね・・・
さて、いよいよダイブ開始。外気温は0℃〜2℃、無風。水温は-1〜2℃ほど。
「海水が液体でいられるギリギリの温度」です。
●コンスタント・ウェイト(垂直潜水)
今年は2種目を実施。まずは縦に潜るコンスタントウェイト。
昨年と同じく、水深20m程の海底にロープを垂らします。スキューバダイバーが待機する中を順番にフリーダイバーが潜って行きます。
水中は真っ暗、頭を下にして潜行すると・・ほぼ何も見えません。
でも浮上時には・・ぼんやりとした青い光に包まれた不思議な世界。
●ダイナミック(平行潜水)
ほの暗い氷の真下を1つの穴から別の穴へ、平行移動します。通常はプールで行う種目なのでいつでも好きな時に水面に上がることが出来る種目ですが、流氷下のダイナミックは「途中で水面に上がれない」という点が特徴的です。初の試みであったため、距離は20m弱。厳重なセキュリティ体制で実施します。
こんな風にずっと水面近くを移動するため、氷と光の不思議な世界を終始観察しながら泳ぐことが出来ます。
実は私の順番で、少しトラブルがありました。安全上、選手は自分の身体と繋がった「ラニヤードケーブル」という安全綱と水中のロープを繋いで潜水します。が、私が潜水し、もうすぐ出口、という一歩手前で、ラニヤードがたわんだロープに絡まってそれ以上進めなくなってしまったのです。
ラニヤードトラブルは私は通常の練習で何度か経験していたので落ち着いて「クイックリリース」(ラニヤード自体を自分から切り離す)で対処しようとしたところ、、・・・これが何故か外れなかったのです。
氷点下で手がかじかんでいたせいか、または機材の一部が凍って外れにくくなっていたのか不明です。幸いすぐにセーフティダイバーが飛んで来て、無事に外して貰うことが出来ました。
そして何事もなく「アイムOK!」と顔を出すことが出来ましたが・・・ほんの1分にも満たない時間とはいえ、5分にも思える時間でした。
氷点下のダイビングは本当に、通常のダイビングとは大違いだ、ということを改めて肝に銘じた一件でした。ともあれ、これ以外は何事も無く、競技は無事終了しました。
13時すぎから開始して、もう日が傾いてきました。流氷の上に長い影が出来始める中、撤収。
お疲れさまでした!
そのあとは、昨年のように東京にトンボ帰り、ということもなく皆で知床の海の幸を堪能しながら、夜中まで語り合ったのでした。
●知床の森へ
翌日は森に繰り出しました。
森の中をどんどん進みます!
エゾジカにも沢山会いました!
エゾジカの群れの向こうは崖、その向こうは一面の流氷です。
エゾジカに大感動している私たちを見て、ウトロ生まれウトロ育ちのフリーダイバー唯ちゃんは「このへんでは犬より多いんですけどね、エゾジカ・・・」とポツリ。。
●流氷とオホーツクの生態系
今年は、海だけでなく山にも少しだけ行くことが出来ました。そしてこの知床は本当に豊かな豊かな大自然に囲まれているのだなあ、と改めて五感で感じたのです。
海が豊かな場所は陸も豊かです。オホーツク海にやってくる流氷は、酸素やミネラルなど沢山の栄養分を運びます。やがて春になるとそれは海水に溶け出し、プランクトンが増え、それを餌にする小魚が増え、小魚は大きな魚の餌になり、魚は鳥の餌になり・・と食物連鎖を起こします。そして豊かな生態系を育んでいるのです。( 詳しくはこちら:オホーツク流氷振興局)
近年の温暖化で流氷にもだいぶ変化が出ているとのことです。北海道に到達しても氷が僅かであったり、期間が短かったり、 と・・そしてそれは少なからず生態系に影響を与えているとのこと。
流氷と、流氷が育む生態系がいつまでも豊かでありますように。
ともあれ・・今度は緑溢れる夏の知床に来たいと思っています^^)
photo by Tomohiro Noguchi, Tetsuo Hara, Jay huang, Yuko Noguchi , M.Kawamura.
館山大会の告知をしたままあっという間に時がたち、GWに突入してしまいました・・・久々の更新となりますが、なにはさておき先週のビッグニュースを。
「日本一、深く潜る夫婦」フリーダイビング界のビッグ、もとい、Deepカップルの誕生。(新婦CWT-90m、新郎FIM-53m 合わせて-143m。 byフリーダイバー米田氏の試算)
岡本耕輔(オカモチ)、美鈴(みみずん)結婚おめでとう!
東京フリーダイビング倶楽部の仲間であり、尊敬し敬愛する2人の結婚。自分にとっても、そして多くのフリーダイバーにとっても、ちょっとしたエポックメイキング、とも言える出来事でした。
昨年11月、バハマで世界4番目ともなる90mを達成したみみずん。
ここに至るまで、静かで力強いオカモチのサポートが、常にあったのです。
私は誓約式の「お盆持ち」の時点で自分もウルウルしてましたが、
親戚のおばちゃんごとく、すでに最初から号泣するフリーダイバーも。
ともかく、会場に入りきらないのでは、という位の沢山の仲間が集まりました。
司会もカメラマンもお花も映像も、全てフリーダイバー仲間。日頃は海やプールでしか会わないな仲間の、本業のプロの顔を垣間見るひとときでした。
この日の写真総数、何千枚になっているのでしょう。
世界各地、日本各地の仲間からのビデオレター、そして新旧、色々な世代のフリーダイバーが一同に会し、夜更けまでお祝いしました。
ボーズも女子も、大集合!
(※フリーダイバーは何故か世界共通で坊主頭が多いのです…)
最後は二人が出会った、真鶴の海の写真です。
昨年の「真鶴フリーダイビングクラシック」。ベテランの二人は海には一度も入らず、2日間、船の上から選手たちを見守っていました。絶大なる安心感でした。
ともあれ、
みみずん、おかもち、末永くお幸せに!!
そしてますます、深い夫婦になってね。
仲良しジジババになってね。そしてジジババになっても、みんなで一緒に潜ろうね!
photo by フリーダイバーのみんな
2013年3月9日(土)「第一回流氷カップin知床」が開催されました。
世界でも流氷下をウェットスーツで素潜りしたことのあるダイバーは少なく
貴重な体験。 どんなに忙しくとも、この機会を逃す訳にはいきません!
というわけで行って来ました世界遺産・知床。「流氷の下で素潜りをする」
というだけのために、日帰りで。
●女満別へ
朝一の羽田発・女満別行きのチェックインカウンター。
スノボやスキーを預けるたくさんの搭乗者の中、私が預けるのはロングフィン。
チェックイン時に真っ黒な長細い荷物(フィンケース)を預けるといつもの通り
「お荷物の中身は何ですか?」と怪訝そうに聞かれます。
「ダイビング機材です」の答えにますます怪訝そうな顔をされましたが・・・
そんなことより不安なのはボードに書かれた「条件付き運行:現地吹雪のため、羽田に引き返すか、釧路空港に到着の可能性があります」というインフォメーション・・・。
一抹の不安を抱えながらも搭乗するや即爆睡。
一瞬で無事女満別空港に到着しました。
ここ数日暖かかった東京とは全く別世界。白く凍てつく世界。
キリッとした空気を胸一杯に吸い込みます。
女満別空港からさらに車で2時間かけて、いよいよ一路知床・ウトロへ。
途中立ち寄ったコンビ二では各自「油物」を調達してこれからのダイブに備えました。
通常フリーダイビングの競技前には胃にもたれるものや油物を食べることはまずありませんが、今回は別。唐揚げやコロッケを潜る前に食べるのは寒さ対策として効果的なのです。
(という、主催者野口君のアドバイスに素直に従ってみました)
●ウトロ到着、流氷ダイブへ!
そして、昼過ぎにウトロへ到着。
ウトロ在住のフリーダイバー和田唯ちゃんと、東京海洋大現役&OB3名の頼もしいスキューバダイバー君達が準備万端で待っていてくれました。
すぐにウェットスーツに着替えると、大会会場である「ウトロ漁港」の堤防の先へ直行。
漁港、といってもどこもかしこも凍って雪に覆われています。陸も空も海も真っ白な世界。どこが陸地でどこが「海」なのか、判別もつきません。
液体はマイナス下では個体になる、そんな物理的法則を目の当たりにし「さっき唐揚食べておいて良かったなあ・・」としみじみ思ったのでした。
そんな寒さの中、全員でテキパキと堤防から「海」へと荷物を降ろし
会場に向かって歩きます。たいした距離ではないのですが足先の感覚が冷たさで
麻痺して来たため、かなりの距離に思えました。
堤防を超えると・・・・いよいよ流氷がどーん、と見えて来ます。
テトラポットが凍っています。確かに、「海の上」にいる、という実感。
そして、ごつごつと凹凸がある一面の流氷の中、
一カ所にぽっかりと「穴」がありました。
ここが大会会場。
数日前に皆が空けてくれた「アイス・ブルーホール」です。
●流氷下へダイブ!
まずはセーフティにスキューバダイバーが潜り、つづいてフリーダイバーが潜ります。
水深−15mほど。水温はマイナス0度以下だそうです。海水は0度では凍らないからです。コップの中の氷水よりも冷たい「水」。私のこれまで体験した最低水温は3℃前後なので、未体験ゾーンにいよいよ突入です。
・・・ちゃぽん。
この日最初は太陽が出ていなかったので水中はほぼ真っ暗です。
何も見えず、何の音もしない世界。
が、ロープ沿いに少しだけ潜り、5mほどで上を見上げると・・・
氷の下から見上げると緑色の薄ぼんやりとした穴が見えます。静かな不思議な世界。
海水温は実は水面近くの氷の近くの方が冷たいようです。海が液体でいる以上は、地上よりは暖かいことになります。とはいえ、零下というのは十分な冷たさなのですが、
6.5mmのウェットスーツを着ていると水中では不思議と冷たさは感じません。何より、興奮しているせいなのか、少しだけでも動いたせいなのか、ほぼ感覚がなくなっていた手足まで血が巡って来たのが本当に不思議です。
「ああ、ここまで来て良かった〜」と嬉しさを噛み締めながら、ゆっくり浮上。そして
満面の笑みで「アイムオッケー!」のつもりが
・・・・顔、こわばってました。
最初は1本で十分だと思っていたのですが、風が吹きすさぶ陸上にいるよりもむしろ海中の方が静かで暖かく、せっかくなので数本潜りました。真っ暗なボトムまで行く気にはならず、少し潜っては見上げて氷の下の不思議な光景に見とれていました。
そして、途中から太陽が顔を出すと、流氷下の世界は一変。
丸い氷の穴から見えた青空の不思議さ、忘れられません。
それにしても、潜る前にマスクを水で洗うと、一瞬で凍ります。
自分の髪の毛についた海水も、すぐに氷の塊になってしまいます。
外気温は-8〜10度だったようです。
クレイジーな・・いえいえ、勇敢なダイバーズ!お疲れさまでした!
スキューバダイバーのみんな、ドライスーツといえど極寒の中ありがとう!
そして、元来た道を戻り、機材撤収。ダイビング機材、すべて凍っていました。
本当は一泊し、翌日はゆっくり世界遺産知床を堪能したいところでしたが、
翌日は吹雪の予報。飛行機が欠航して帰れなくなると大変なので、そのまま
トンボ帰りすることになりました。
大急ぎで温泉に入り凍った身体を解かし、美味しい海鮮丼を食べ
またも車で2時間かけて、女満別空港へ。
そして一瞬で羽田へ。羽田に到着したとたん、花粉の洗礼、くしゃみ連発の私・・
いつもの世界です。なんだか、夢のような1日でした。
●海が液体として存在する、ギリギリの温度
沢山の海に素潜りして来たつもりですが、流氷は特別。今でも興奮が去りません。
海水が凍る温度は塩分濃度によって異なるものの、-4,5℃ほど。。
北極や南極の海水温も、液体でいる限りは変わらないそうです。
流氷下の-3℃のまさに海が液体として存在するギリギリの温度の海に潜ったのです。
この環境では、人間が泳いだり潜ったり出来る時間はほんの僅かです。
でもその僅かな世界を垣間見て、またひとつ、海の新しい魅力を発見してしまいました。
それにしても日本は流氷から珊瑚礁まで、本当に色々な海に囲まれているんだなあ、
という誇らしい思いを新たにした、日帰り弾丸流氷素潜りツアーでした。
Thanks & photo by
Tomohiro Noguch, Yui Wada,Tetsuo Hara,
Masatsugu Tamai, Kazeta Hashimoto,Yoichiro Nitta,
A Happy New Year 2013!
今年一年、沢山の人が海から恵みをいただけますように
いつも海に感謝していられますように
美しい海がいつまでもここにありますように
フリーダイバーより愛をこめて
photo by Kohei Ishida
direcred by Miyako Yoneyama