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2014/09/24

先日、東京芸術劇場にてシエナ・ウインドオーケストラの第38回定期演奏会が終了致しました。

このコラムを読んでいらっしゃる皆さんはおわかりかもしれませんが、シエナ・ウインドオーケストラは僕の演奏活動の中心となっている楽団の一つで、テレビ朝日「題名のない音楽会」で司会を務めていらっしゃる指揮者・佐渡裕さんが首席指揮者に就いている吹奏楽団です。

吹奏楽というのはコントラバスとハープ以外のほとんどが管打楽器で構成されており、クラシックのみならずポップスやジャズ、タンゴ、ミュージカルなどあらゆるジャンルの曲をレパートリーとする世界です。僕は音楽大学を卒業し、オーケストラの本場ドイツで生まれ留学経験を持った純・クラシックな人間ですから、他ジャンルの音楽を演奏する時はそれなりに準備が必要だったりします。演奏する曲だけではなく、そのジャンルの有名な曲をなんとなく耳に入れて雰囲気をつかむようにしていたりするのです。

さらに、吹奏楽のコントラバス奏者には一つ大きな問題が生じてきます。それは、「エレキベースとの関係」。

世の中には「コントラバスを弾ければエレキベースも弾けて当たり前」と感じている方が非常に多いのですが、これはとんでもない誤認識と言えるでしょう。世界中のオーケストラのコントラバス奏者にアンケートを取ったって、「エレキベースも人並みに弾ける」という回答は2~3割しか返ってこないと思いますし、逆にエレキベース専門に活動しているスタジオミュージシャンのほとんど、そしてジャズベーシストの多くは弓を扱う事に慣れておらず、彼らがモーツァルトやベートーヴェンを演奏する事は大変な困難を伴います。こういった事情から、どちらも弾きこなせる奏者は、かなりの少数派と言えます。アマチュアレベルで通用しても、プロの世界でどちらも高いレベルで両立するというのは容易ではありません。

さて、僕はといえば、このシエナ・ウインドオーケストラで演奏するようになるまで、いや、正確には最近までエレキベースに触ったこともありませんでした。はっきり言えば「興味もなかった」が正解かもしれません。ですから、楽譜に「エレキベース」と指定があった場合、コントラバスにピックアップマイクを装着してアンプを通すか、或いはエレキベース専門の奏者を別に手配してもらっていました。

そんなあるとき、ディズニーの曲を演奏した際に、コントラバスではどうしても演奏困難な箇所にぶち当たり、代役を依頼する時間も無かったので、仕方なく僕が9,800円程度の「エレキベース入門セット」を購入して練習し、何とか本番を乗り切った事がありました。本当に書いてある音をただ弾いただけの本番でしたが、この時改めて「コントラバスとエレキベースは全く違う」と痛感したものです。右手の指の感覚、アンプの調整、音量バランス、何もかもが未体験ゾーンでした。

ところが、これを機会に「エレキベースも弾いてもらえませんか」というご依頼が増えました。僕としては全く自信はありませんが、フリー奏者としてはこれでチャンスが増えるかもしれない、この経験がコントラバスにも還元されるかもしれないという理由で「書いてある音をただ弾くだけで良いなら」という条件付、さらに1度の演奏会に数曲限定でお請けするようになっていきました。1年もすると、今度は他の団体からもエレキベースで依頼が来るようになりました。

こうなってくると、どこかで歯止めを効かせないと、いつか大きなミスをすると思い始めていました。僕は基本的なノリがクラシックで、他のジャンルに関しては全く雰囲気だけを真似しているだけ。さらにはコード譜、タブ譜が読めないという、エレキベース奏者としては致命的な弱点があるのです。もちろんジャズやスタジオの専門用語もあまり知らず、スラップを始めとした高度な技術も持ち合わせていませんから、万が一指揮者にレベルの高い要求をされた場合に対応出来ない可能性がある事も、自分では分かっていました。特に、サックスの須川展也さんや作曲家の宮川彬良さんといった、いわゆるクラシック以外の分野への造詣が深い方々とお仕事をしたときには、「このままではいけない」という焦燥感に強くかられたものです。

かといって、コードの勉強や技術面の練習を始めてみると、今度は本職であるコントラバスの練習が足りないような気持ちになり、ここでも強い葛藤にさいなまれる日々がこの数年続きました。

そんななか、今回のシエナの定期演奏会のご依頼を頂きました。
指揮は前述の宮川彬良さん。

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大ヒット曲マツケンサンバ、或いはNHK Eテレ「夕方クインテット」への出演などでもその名を知られる作曲家で、これまた日本を代表するプロ吹奏楽団、大阪市音楽団のアーティスティック・ディレクターを務めていらっしゃいます。

誤解のないように述べておきますが、僕は宮川彬良さんの練習や音楽作りが大好きです。楽曲解説なんかは「音大でこんな授業を受けたかった!!」と悔やむほど勉強になりますし、「聴衆を楽しませる為に何をすべきか」という事を常に考えていらっしゃる姿勢、楽しい中にも厳しさを忘れない練習の進行など、尊敬するべきところが多い。だからこそ、僕は彬良さんと音楽をするにあたって、高い次元で応えたいと思っていましたし、自信のないエレキベースは担当するべきではないという考えを持つようになっていました。さらに今回は新曲もあって、楽譜の完成が直前になるかもしれないとのこと。いくつかの理由から、最初僕は事務局に「高い次元で対応出来ない可能性がある、専門のエレキベース奏者を手配して欲しい」とお願いしました。

一度お断りしてちょっとホッとした数時間後、携帯の電源を入れたら事務局からの着信履歴。どうしたんだろうとかけ直すと「宮川さんが、あなたのベースが良いと仰ってる」と言われました。そう言われても、プロである以上いざ練習になって弾けないなんて言えないし、フリーで活動している以上、守ってくれるところはなく、責任は全部自分で背負わなければなりません。1日考え、やはりリスクが大きいとお断りしました。すると今度は数分後、再び電話がかかってきて「一度一緒にやって腕は分かっているから、今から君に電話して説得するって仰ってる。宮川さんと直接話しますか?」と言われ、観念せざるを得ない状況となりました。きっとお話したところで説得されてしまうだろう、と思ったのです。ただ、この時点で僕に拘る彬良さんの気持ちが全く分かりませんでしたし、その期待に応える自信も皆無でした。

それからの1週間、本当に重圧と緊張のなか過ごしました。新曲の練習をしたくてもオーケストラの演奏会に地方への出張レッスンに、ほとんど自分の練習時間が確保出来ず、仕方なく帰宅してから夜な夜なヘッドフォンを耳に練習を続けたのでした。

リハーサルは2日間。その初日の最初の時間に、新曲をやる事になりました。大変な緊張感のなか何とか弾き終わり、自分でもどうだったのかよく分からないまま休憩時間も練習をしていると、彬良さんが近づいてきて「やっぱり君で良かったね」と仰って下さいました。そこで僕は意を決し、やるやらないの騒動をお詫びしたうえで「何で僕なんですか、僕で本当に大丈夫なんですか」とお尋ねしました。すると返ってきた言葉は

「小手先の技術じゃない、あなたの音楽は居心地が良いんだよ。自信持って大丈夫だから」

というものでした。非常に抽象的な表現ではありましたが、何だか感動して震えました。音楽を支えるべきベース奏者にとって「居心地が良い」は最高の褒め言葉だと思います。同時に、「技術じゃなく音楽そのものを受け止めてくれていたんだ」という発見も、僕の大きな喜びでした。

2日間のリハーサルそして演奏会本番を終え、改めて最後に楽屋にご挨拶に伺うと「お疲れ様!良かったよ、やはりあなたの音楽は楽団を包む器がある。僕は以前にご一緒してあなたの音楽を分かっていたから、最初から信頼していたよ。これからもっと違うジャンルの勉強もしてごらん、きっと良い事があるから」と仰って頂きました。

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まだ自分で欠点や弱点も分かっていますし、音楽は生涯勉強だと母からも言われていますし、こうして信頼して下さった方からの助言は大切にしたいと考えているので、ちょっとこれからしばらくは、クラシックバカから「音楽バカ」になっても良いのかなあと思った数日間でした。

またさらなる成長を目指して、頑張ろうと思います。

2014/09/24 02:52 | 居酒屋トーク, 演奏の現場から | No Comments

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