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2008/01/06

演奏家に「演奏旅行」は付き物です。オーケストラの演奏旅行、バレエ団やアーティストのツアーなどその機会は非常に多く、旅先は日本全国から海外にまで広がります。今回は、私が音楽大学時代に体験したアメリカ演奏旅行の思い出を。

あれは私が大学2年生のときでした。

私が通っていた音楽大学の学生オーケストラによるアメリカ(シカゴ、ニューヨーク、ワシントン)三都市へのツアーが企画され、その為のオーディションが開催されました。私は必死に練習を重ね、何とか選抜メンバーに入る事が出来たのです。

さて、いざアメリカに向かうにあたり、セキュリティの関係という名目でメンバーはグループ分けされ、私は1・2年生のヴィオラ・チェロ・コントラバスの学生から編成される8人のリーダーに指名されました。

この8人、現在では読売日本交響楽団や日本フィルハーモニー交響楽団、群馬交響楽団に在籍する演奏家であったり、イタリアやエクアドルに渡り活動を続けていたりするのですが、とにかく大変個性的なメンバーでした。もちろんまとめるのも一苦労。

アメリカ到着直後の夕食では私を含めたこのグループがホテル到着と同時に昼寝してしまい、まんまと寝坊で全員遅刻。食堂に入ったときの先輩方の冷たい視線は忘れられません。

とにかく夜は治安が良くないという事でホテルからは外出禁止、22時には部屋に先生から在室確認の連絡が入るという徹底ぶりでしたが、わがグループは目当ての女の子の部屋に行ってしまい一人も部屋にいません。それも予測していた私は予め事前に彼らが狙っていた相手の女性たちの部屋番号を調べてそこに連絡を入れて在室を確認し、先生には「全員居ます」と知らせていました。さらに気づくと同室のコントラバスの同級生は一人で居なくなってしまい、後で尋ねると「ちょっと外のバーへ行っていた」と。

まあこんな愉快なメンバーではありましたが、上級生を抑えオーディションを通り、今も現役で演奏を続けているだけあって当時から実力は認められており、音楽に対しては真摯な姿勢で向かっていました。リハーサルでは積極的に話し合いを行い、毎晩のように仲の良かった指揮者広上淳一さんの部屋に顔を出し酒を煽りながら音楽談義をしたものです。ただ、BGMは常に有料チャンネルの喘ぎ声でしたが…。

さて、演奏旅行はシカゴ→ニューヨーク→ワシントンの順番に周り、シカゴではシカゴ交響楽団の本拠地シンフォニーホールで実際に楽屋を使って興奮し、ニューヨークのカーネギーホールでは音楽の殿堂の雰囲気に酔いしれ、ワシントンでは演奏旅行の最後を惜しむような熱演。
演奏曲は今やドラマ「のだめカンタービレ」で大ヒット曲となったベートーヴェンの交響曲第7番をメインに、前半は巨匠チェリスト、ヤーノシュ・シュタルケル氏によるドヴォルザーク作曲「チェロ協奏曲」や海外向けに「三味線協奏曲」を準備していきました。

我々がこの旅行で何を得たかと言えば、何より指揮者・広上淳一さんやチェロ奏者シュタルケル氏と触れた経験ではないでしょうか。
当時70歳になっていたにも関わらず美しい姿勢で完璧な演奏をするシュタルケルの姿はある種の感動すらありました。

一方広上さんの凄さは、音楽を言葉に変えるその引き出しの豊さにあります。「そこはもっと重たく、汚い感じで」などという安易な表現は使わず

「酒を飲み過ぎた翌朝、吐くのをギリギリでこらえていたが、ついに出てしまったその瞬間のような感覚で、『ぐしゃっ』と潰れた音をお願いします!」

などプレイヤーを笑わせ場を和ませると同時に、その音楽を見事に言葉にしてしまう。直後、オーケストラの音が見事に変化する辺りは感心するばかり。

大学を卒業しフリーとなってから、いくつかのオーケストラで広上さんの指揮のもと再び演奏する機会に恵まれましたが、近年ますますその表現力は増し、オーケストラからの信頼は絶大なものになっています。

酒を飲みふざけながら交わした会話の中にも、大学の先輩でもあり、既に世界で活躍していた広上さんの言葉は実に重く、そして分かり易く胸に突き刺さっています。

こうした素晴らしい指揮者、素晴らしい仲間と共に過ごした二週間のアメリカ演奏旅行は、実に濃密なひとときでした。
ただ、帰国後メンバー達が女性関係を整理するのに一苦労だった事は言うまでもありませんが…
 

2008/01/06 11:27 | 演奏会回顧録 | No Comments

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