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2007/06/25

どんな世界でも集中力が必要とされる場面はあるでしょうし集中力にもいろいろな種類があるでしょうが、クラシックの演奏家は体力勝負ではない分、より集中力を必要とします。

オーケストラの各奏者は一度の演奏会において、「音を間違えない」「音の長さを正しく」「正しい音の大きさで演奏する」「正しいテンポで」というごく基本的な事に始まり、それに作曲家の意図を自分なりに解釈しつつ指揮者の要求に応え、さらに各セクションの首席の様子を見ながら、演奏中は他の楽器の動きも意識する…とこれだけの事を消化しています。

これだけ意識しながら演奏するには尋常ならざる集中力を必要としますし、指揮者やオーケストラのクオリティによっては演奏会中に「ゾーン」(極限の集中状態)に入る事もあります。完全に曲に入り込み、あたかも作曲家と融合を果たしたかのような錯覚に陥る瞬間ですね。当然ゾーンに入った演奏会後のビールは最高に美味い訳なんですが、きっと一流の演奏家は毎回ゾーンに入れるのだろうと想像しています。

集中といえば、人には「集中するスイッチ」がある、と聞いた事があります。実際にそれを初めて体感したのは留学から一時帰国した際にいただいた仕事のリハーサル初日での事でした。たまたま病欠の団員さんに代わり急遽出演が決まり、初めてあるプロのオーケストラに呼んでいただいた演奏会でのこと。

今でこそそのオーケストラが日本でもトップクラスのオーケストラという認識はありますが、当時私は学生時代からドイツのオーケストラに傾倒していた為日本のオーケストラに全く興味がなく、「祖父が働いていた楽団」程度の軽い認識、安請け合いでリハーサルに向かったのでした。

泉岳寺の練習場に到着し一時間ほど個人的に練習したり楽員さんと話したり。楽員さんは皆さん人格者で「いいところだな〜」などとリラックスしながらリハーサル開始時間。ロシア人指揮者(確かドミトリ・キタエンコ氏だったような気がします…)が入ってきて軽く挨拶や曲の解釈を簡単に説明します。楽員も笑顔でその話を受け入れ、雰囲気はまるで懐かしい友人との再会のよう。

ところが。

「さあやりましょう」と指揮者が立ち上がり指揮棒を構えた瞬間、私の耳にそれまで聞いた事のない

ピーン

という音が鳴りました。

見渡せばオーケストラの楽員の表情は先ほどまでとは打って変わり、恐ろしいまでの緊張感を漂わせたものに。その後10年間演奏活動を行い、そのような音が聞こえたのは数回のみ。それほど一瞬にして楽員全員に、そして練習場に張り詰めた緊張感が漂ったのを感じたものでした。おそらく、きっと楽員たちはいつも通りの生活パターン、練習に臨む姿勢に過ぎなかったのでしょうが、それまで自分が緊張というものとは無縁の状態で演奏をしてきたからこそ、突然このような、自分よりも何段階も上のレベルでの緊張を感じることが出来たのではないか、と思っています。

今でもその時の曲目ははっきりと覚えています、ショスタコーヴィチの交響曲第10番。第1楽章冒頭はチェロ、コントラバスによる厳かなテーマで始まるのですが、弾き始めた瞬間「何だこのオーケストラは、恐ろしくレベルが高いじゃないか」と感じたものでした。私が初めてオーケストラで緊張を憶えたのはこの瞬間であり、これが「程よい緊張感で演奏する方法」を追求するきっかけとなったものです。

世界的な指揮者・小澤征爾さんが舞台に出る直前、下手の壁を「コンコン」と叩いてからステージに出るのはよく知られていますが、個人的にきっとあれは小澤さんに「集中のスイッチ」が入る瞬間なのでは、と思っています。

他にも演奏会本番に向かうための準備や集中の方法は演奏家それぞれにありますが、それはまた後日書かせていただきたいと思います。

皆さんの「集中のスイッチ」は、どんな時に入っていますか?

     

2007/06/25 08:17 | 居酒屋トーク | No Comments

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