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2007/09/23

■音楽用語裏辞典 【逆さ言葉、略語、隠語編】

  
以前、クラシック音楽の世界はお金の数え方が特殊だと書きました。
 
今回は、この世界の隠語をいくつか紹介しましょう。

音楽の世界や芸能界では、よく「逆さ言葉」を使います。

代表的なのは「シータク」。これは実に基本的なので分かりやすいかと思います、正解は「タクシー」ですね。仕事終わりに「ごめん、シータク1台呼んどいて!」なんて会話はよくあります。

次は「わいか~」。
ちょっと難しいでしょうか。「可愛い」の事です。

例えば本番前に男性奏者が2人、ホール近くのカフェでお茶をしている時に、可愛らしい女性が目の前を横切ったとしましょう。

「お、か~わいい」

これじゃチンピラです。
本人にも聞こえてしまうかもしれない。そんなとき、

「おっ、わいか~」
「お~なかなかだね」

これで相手にもバレず会話成立!という訳です。

まあこのように、往々にして逆さ言葉は周囲に聞かれたらマズい会話の際に使用されます。

汚い話になりますが、どうにもお腹の調子が最悪である事を仲間に伝えたい、しかし例えば周囲が食事中ならそのまま口に出す事は避けたい。そのような時には「下痢」「酷い」「極致」を組み合わせて

「いや~、リーゲードイヒーチーキョクだよ」

と表現します。

知らない人が聞いたらほとんどドイツ語ですね。

上記単語だけではなく、音楽家は瞬時に言葉をひっくり返す事に慣れています。
個人的にこれは「音」に敏感で、瞬間的に判断する仕事だからではないかと考えています。

さて、逆さ言葉以外には略語があります。

オーケストラではだいたい交響曲を略して表します。

代表的なところではチャイコフスキーやマーラー、ベートーヴェン、ブラームスなど。

例えばチャイコフスキーの交響曲第4番なら「チャイヨン」、ブラームスの交響曲第2番は「ブラニ」、マーラーの交響曲第5番は「マラゴ」、ベートーヴェンの交響曲第7番は「ベトシチ」など。

さらにレクイエム(鎮魂歌)などにおいては作曲家がモーツァルトなら「モツレク」、ヴェルディなら「ヴェルレク」と表します。

これが協奏曲になると、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲なら「メンコン」、ドヴォルザークのチェロ協奏曲は「ドボコン」。

「コン」は英語・ドイツ語の「コンチェルト」(協奏曲)の略ですね。

しかし、ベートーヴェンの交響曲第5番「運命」やモーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」のように副題が付いている作品はそのまま副題で呼ばれています。

傑作なのはリヒャルト・シュトラウス作曲の交響詩シリーズ。
「英雄の生涯」は漢字の読み方を変えて「ヒデオのイキガイ」、「ツァラトゥストラはかく語りき」に到っては「ツァラ」。

こうなるとほとんど別の曲です。

まあ、真面目に「ヒデオ」を使う人はあまり多くありませんが。

ただ不思議な事にブルックナーやシューマンの作品は略しません、やはり「シューヨン」じゃアルバイトの募集要項みたいですし、「ブルロク」ではオシャレではないからでしょうか・・・

最後にこれぞ隠語!というのが男女を表す言葉。

男性は「アードゥ」女性は「ルーモ」。
さて何の事でしょう?

「アードゥ」はDur(ドゥアー)つまり長調、「ルーモ」はmoll(モール)つまり短調のドイツ語を逆さ言葉にしているのです。

なぜ男女をこのように呼ぶようになったのか理由には諸説あるのですが、邦楽の世界の隠語で、やはり男女をそれぞれ「陽」と「陰」に例えるらしく、それに倣い明るい響きの長調つまりDur(ドゥアー)が男性、暗い響きの短調moll(モール)が女性と表現されている、とされているようです。

この他にもオーケストラの練習を「リハ」(リハーサル)、本番当日の総練習を「ゲーペー」(Generalprobeというドイツ語で、頭文字を取ってGPつまりゲーペー)、さらにエキストラ奏者を「トラ」など、挙げればキリがありませんが、この辺はまた追々解説していきます。

こうした隠語、逆さ言葉、略語、さらに以前に書いたお金の数え方などを全て使うと、こんな会話が出来たりします。

 
「いや~昨日ベースの○○がトラで来ててさ、あいつワイカ~なル~モが本番聴きに来るからってゲーペー前から必死にサラッテたのに、本番になってリーゲードイヒーチーキョクで集中切らしてさ、曲はドヴォコンとマラゴだったんだけどかなりバイヤーで、終わってからミーノー誘ったんだけど断られちゃったよ、飲み屋安くて一人デーゲーオールだったのになあ」

どうでしょう、意味分かりましたか?

でも勘違いしないで下さいね、皆がみんなこんな会話している訳ではないんです、たま~に使う程度で、普段は気さくな楽しい会話してるんですよ。 笑

 
 

2007/09/22

■音楽用語裏辞典 【コンサートマスター】

サッカーや野球の監督がクラシックでいう指揮者なら、主将は間違いなくコンサートマスターです。
コンサートマスターが1stヴァイオリンの首席奏者を示す事は有名です。なぜそうなったのか理由は定かではありませんが、最も指揮者に近い場所であり主に旋律を担当する事などが理由だろうと推測出来ます。今度調べておきますね。

コンサートマスターを主将という立場に例えるなら、その性格は間違いなく野球ならピッチャー、サッカーならエースストライカー。「俺が中心」というある種の傲慢さや強引さが絶対に必要となります。かと言ってそんな性格で技術がなければ誰もついて来ません。誰もが認める技術とカリスマも欠かせない要素。何しろ練習から80名ほどのオーケストラをまとめ、指揮者が酷ければ演奏会の出来はコンサートマスターに委ねられるのですから責任重大。

ある演奏会で、某有名指揮者が本番直前に体調不良に陥り、急遽コンサートマスターが弾き振りをしながら指揮者無しのオーケストラがデュカスの交響曲を見事に演奏した事がありました。コンサートマスターの立場・責任、役割を示すエピソードと言えます。
また以前出演させていただいたある演奏会でのこと。ゲストコンサートマスターとして有名奏者H氏が出演されていました。曲はR・シュトラウス作曲「英雄の生涯」。

この曲には、まるでヴァイオリン協奏曲のようにコンサートマスターが延々ソロを演奏する場面があるのですが、さすがは日本屈指のコンサートマスターH氏、素晴らしい演奏を聴かせ、出演していた私ですら聴き惚れていました。

ところが、ソロも半ばにさしかかった頃「プンッ」という音がして、パッと見たら演奏中のH氏の楽器の弦が切れています。「ああっ、どうするんだろう」と思う間に、動揺も見せず隣の奏者の楽器を受け取り、最後まで完璧に弾き切ったH氏に聴衆も絶賛の拍手。演奏会後の打ち上げで「よく人の楽器ですぐにあんな演奏出来ますね」と話しかけたら…

「だって、仕事だからね」

と一言。本物のプロ意識を感じた言葉でした。

コンサートマスターは練習をもリードする事があります。
世界的なソリストが引退ツアーの一環としてオーケストラを指揮した演奏会の練習では、指揮者としての練習の進め方に慣れていない彼に代わり、コンサートマスターが「ここがうまくいっていないようだから、ここからもう一度やってみては?」などと終始練習をリードし、大きな役割を果たしていました。

練習でメンバーを引っ張るということは、世界の一流指揮者が来日した際には語学力も要求されます。いくら音楽は言葉を越えると言っても、細かいニュアンスはやはり言葉を通して伝えられるもの。ですからコンサートマスターにはある程度の語学力が必要とされますし、ほとんどのコンサートマスターは海外への留学経験があり、英語、ドイツ語、フランス語などを操る事が出来ます。もちろん、オーケストラのメンバーの多くは留学経験があるので、ある程度言葉は理解出来るんですよ。

さて、そんなコンサートマスターを怒らせるとどうなるか。

これもある演奏会での出来事。海外在住の指揮者が来日し、某一流オーケストラを指揮したときのことでした。練習からは全く彼の意図が汲み取れず、無駄に同じ箇所を何度も繰り返し、オーケストラのイライラばかりが募った結果・・・

通常演奏会では最低限普通の出来栄えなら、数回目のカーテンコールではオーケストラが指揮者から立席を促されてもあえて着席し、足を踏み鳴らして指揮者の仕事を称えるのが慣習なのですが、この日は違いました。
コンサートマスターは一度目のカーテンコールから立ちっぱなし。彼が座らないという事はオーケストラももちろん座らず、暗に指揮者に対しての賞賛が無いということ。結局このとき指揮者は若干の戸惑いを見せながらも舞台を後にしたものです。我々は「うわ~怒ってるなあ」などと楽しんでいましたが、当の指揮者は冷や水を浴びせられたような気持ちだったことでしょう。

このようにコンサートマスターの果たす役割は非常に大きいもの。ですから、演奏会でコンサートマスターが入場したら精一杯の拍手を送ってあげてください。そして、演奏会が終わったらコンサートマスターの態度に注目してみてください。

その日の演奏者の気持ちは、彼の態度ひとつで読み取れます。

2007/07/29

■音楽用語裏辞典 【ボーヤ】

音大生は基本的にお坊ちゃんお嬢さんの集まりのように思われがちですが、どっこい現実はそうでもありません。

一部の優雅な家庭を除けば、一般家庭と何ら変わらない人々ばかり。ですから、楽器を購入するため、あるいは学費を支払うため、そして生活費を稼ぐ為にアルバイトをする人が半数以上。

もちろん、早いうちから演奏面で名前が売れ、オーケストラからお仕事に呼んでいただけるようになれば理想なのですが、そんな人はごく僅かです。大方の音大生は昼間レッスンや授業を終えると夜は居酒屋やレストランなどで働いています。

そんな音大生の中でも、管弦打楽器つまりオーケストラを専攻する学生たちには「ボーヤ」というアルバイトがあります。

そもそも「ボーヤ」の名前の由来は、師匠に弟子入りし、楽器の運搬やセッティング、カバン持ちから雑用までこなす付き人のような役割を果たしつつ勉強させていただき、経験を積ませてもらう下積みの小僧を意味します。

日本の伝統芸能やジャズの世界でよく使われていた言葉のようですが、クラシックの場合はステージマネージャーの指示に従って演奏会前のオーケストラの楽器搬入から椅子や譜面台のセッティング、演奏会終了後の楽器の積み込みまでを行う仕事になります。

そうよくいただけるアルバイトでは無いのですが、私はたまたま友人が音楽事務所で働いていた縁から、音大生時代頻繁に呼んでいただきアルバイトをさせていただいたものです。

この「ボーヤ」の利点は、ステージスタッフの気持ちや作業を理解することが出来る点に加え、何よりも海外の奏者たちの楽器に触れることや譜面をこっそり見ることが出来、なおかつ舞台裏からではありますが演奏会本番を無料で聴くことが出来る点にあります。

モスクワ放送響やベルリン交響楽団などの演奏会の際、残念ながらボーヤは楽器を運搬する事が許されず、舞台袖にハードケースを運んで扉を開くまでが仕事であり、楽器を舞台に移動するのは屈強なロシア人やドイツ人のステージマネージャーであるのが通常ですが、彼らの目を盗んでこっそり触れてみたものです。

そして舞台のセッティングが終ればそのまま客席に残ってゲネプロ(本番前の練習)を聴くことも出来ましたし、さらには舞台袖で当日の演奏会を、出演者たちが舞台に出る直前の表情付きで最後まで観たり聴いたりする事まで許されます。勉強中の音大生にとってこれはまさに何物にも代えがたい、極上の報酬でした。

こうして私は演奏会における演奏者たちの舞台裏の様子、演奏会への気持ちの入り方などを目の当たりにし、自らが演奏者としてステージに立ったときのイメージを膨らませていました。

この経験もあって、私はステージスタッフと親しくなる事の重要性を知りましたし、彼らあっての演奏会という意識も深まりました。

演奏会にお越しいただくと、開演前や休憩中、指揮台に楽譜を置いているスタッフ、ピアノや椅子の出し入れを行っているスタッフが多く観られることと思います。彼らがステージマネージャーを始めとするステージスタッフであり、その下で舞台にすら登場しない「ボーヤ」たちの活躍があって演奏家は初めて気持ちよく演奏を出来るのです。

 

2007/04/30

■音楽用語裏辞典 【お金の計算】

前回紹介させていただいた「さらう」は演奏家が頻繁に使用する業界用語の一つですが、同様にクラシック音楽の世界で日常的に飛び交う特殊な業界用語に、お金の数え方があります。

いきなり本題に突入してしまうと、例えば演奏家は「1万5千円」を「ツェーマンゲーセン」或いは「ツェーゲー」と言います。

なんの事かさっぱり分からないでしょうが、実はこの数え方は音楽用語に由来しているのです。

クラシックの基礎でもある音階の「ドレミファソラシド」はアルファベットで「CDEFGAHC」と表記し、その音階をドイツ語では「ツェー・デー・エー・エフ・ゲー・アー・ハー・ツェー」と読みます。

そしてこれを数字の順番に置き換えると・・・

ド =C=ツェー=1
レ =D=デー=2
ミ =E=エー=3
ファ=F=エフ=4
ソ =G=ゲー=5
ラ =A=アー=6
シ =H=ハー=7

などと、まるで数式のような定義が生まれ、そこから上記の「ツェーマンゲーセン」のような特殊な用語へと変化を遂げている訳です。

ちなみに、「8」にあたる音階はないので、「オク」という単語を使用します。例えば、1万8千円であれば「ツェーオク」といった表現をします。これが8つの音から形成される音階を示す「1オクターブ」に由来するのか、八人で演奏する「八重奏」を意味する「オクテット」からきているものなのかは定かではありません。今回の記事を書くにあたり何人かの演奏家に取材をしましたが、はっきりとした理由を知っている人は残念ながら存在しませんでした。いずれはっきりしたらまた公開させていただきたいと思います。

では「9」はどうするのか?

…不思議な事に「9」を表す業界用語を聞いたことはありません。

演奏家は豪快な人柄が多い事もあってか、例えば飲み代が一人頭4900円なら5000円出しとけ、的な感覚が当たり前である為に、「9」はめったに使わない数字である事も原因の一つかもしれません。もしかしたら存在するのかもしれませんが、私は10年間の演奏生活で耳にしたことがありません。こちらもはっきりしたらまた追加させていただきたいと思います。

ですから、演奏会帰りにホール近くの居酒屋やバーで会計時に「すみませ~んゲーセンオールで!」という台詞が聞こえてきたら、それは決して「二次会は徹夜でゲームセンター行くよ!」などという意味ではなく「今夜の飲み代は一人5000円ですよ」という意味なのです。

この金銭計算の業界用語、実は芸能界の一部でもよく使用されていますが、やはりこれもスタジオミュージシャンが使っているのを耳にした歌手たちから広まったものかと思われます。

しかしながら、この数え方を小節数などには使用せず、金銭計算でしか使わない理由は定かではありません。もしかしたら、金銭を数字で表すと妙に生々しいと感じた、繊細な演奏家ならではの妙案だったのかもしれませんね。

男性の皆さん、合コンで女性にバレないようにその日の飲み代を伝えるには、最適な方法だと思いませんか?ぜひご利用してみてください! 笑

  

2007/04/12

■音楽用語裏辞典 【さらう】

皆さんは「さらう」という言葉から、何を連想しますか?

おそらく多くの人は「人をさらう(誘拐する)」に直結する【攫う・掠う】であるとか、
「ゴミをさらう」場合に用いられる【浚う・渫う】という意味合いを想像されるのではないでしょうか。

クラシックの世界で「さらう」という言葉は、もれなく「練習する」といった意味を示し、
漢字では【復習う】と表されます。
辞書には「教えられたことを繰り返して練習する。復習する」と記述されておりますし、
まさに演奏家の日々の努力を指し示す言葉といえます。

演奏家の人生の半分以上は「練習」によって成り立っているといっても過言では無いでしょう。

学生時代は1年365日を練習や勉強に費やし、
プロになれば一度の演奏会のために2~3日のリハーサル(練習)をこなし、
そのリハーサルの為に自宅における個人での練習の時間を消化するのが演奏家の日常。
つまり、演奏会本番以外の時間のほとんどが練習によって成立しているようなものなんです。

そして、その「練習する」という言葉は「さらう」という業界用語として日常的に使用されています。

従って演奏家や音大生の日常には、こんな会話が飛び交います。

A「最近全然さらう時間がないなあ~」
B「ええ~俺なんか昨夜徹夜でさらいまくったよ!」

「徹夜でさらいまくった」・・・

これを電車の中で一般人が聞いたら、極悪な誘拐犯の会話にしか聞こえないでしょう。
しかし、これは紛れもなく音楽に真摯に向きあっている音大生の会話なのです。

そして「さらう」という言葉は日常的に会話に登場し、
「ゲームさらっとかなきゃ」などのように、他ジャンルに関する会話にも登場します。
ですから、演奏会に訪れたら、ロビーで、そして客席での会話に耳を澄ませてみて下さい。
きっとたまに「さらう」という言葉が耳に入ってくるはずですし、
そこには音楽関係者が真剣な顔で議論をしている事でしょう。