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2010/03/05

アントニ・ワイチ選手のインタビュー第3回。

最終回となる今回は、大学から海外でプレーする事になった彼自身の豊富なプロ選手としてのキャリアについて、そして彼にとって重大な転機となった引退の決意、更にこれから彼が目指す将来について語ってもらいました。

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荒木ユタカ(以下、荒):ワイチ自身がバスケットを始めるきっかけは何だったのですか?
アントニ・ワイチ(以下、AW):ちゃんとバスケに取り組み始めたのは8年生(13歳)から。最初は野球を頑張ってたんだけど、ニューヨークで育つということは、誰もがバスケットをやるって事なんだ。それからどんどんバスケをプレーするようになって、上手くなっていったね(※1)。
荒:プロのバスケ選手として生きていこうと決めたのはいつでしたか?
AW:ノートルダム大での最後のシーズンが終わった時、これからもバスケをプレーし続けて、海外でもプレーしたいと思ったんだ。僕にはプロ選手としてプレーしている友人や元チームメイトがたくさんいたからね。
荒:ワイチがノートルダム大でプレーしている時のチームメイトには、パット・ギャリティ(※2)やトロイ・マーフィー(※3)といった、後にNBAで活躍するレベルの選手もいました。彼らのようなNBAレベルの選手と、そうでない選手たちの一番の違いは何でしょうか?
AW:そのどちらの選手もサイズとシュート力という、とても珍しいタレントの組み合わせを持っていたね。彼らは身長が206~208センチで、NBAレベルの確実なシュートレンジを持っていたんだ。大抵のNBAの選手と言うのは、まず1つの秀でた才能があり、それに組み合わせてサイズ、パワー、スピードとスキルの全て、若しくはそれらのいずれかを兼ね備えていて、それがNBAに行けない選手との違いだね。NBAでやるのに十分な才能があるのに、それを証明するチャンスがない為にNBA以外でプレーしている選手たちもたくさんいるよ。
荒:ワイチは新潟でプレーする前にマケドニア、メキシコ、フィンランドなどのプロリーグでプレーしていました。これらのリーグの思い出はありますか?
AW:いろんな国々でプレーするのは好きだったし、それぞれのリーグのバスケを経験するのも楽しかったね。あちこちの国でプレーすることで、素晴らしい機会を得たと思ってるよ。この経験のおかげで、僕はよりオールラウンドな選手になることができたんだ。
荒:2007年に新潟を退団した後は、どこでプレーしていたのですか?
AW:中東のトップチームの2つ、カタールのアル・ラーヤン(※4)と、ヨルダンのザイン(※5)でプレーしたんだ。中東のバスケットというのはちょっと独特で、何よりも得点することが重要なんだ。観客はあまりいないんだけれど、それにも慣れなきゃいけなかったね。でもサラリーがいいから、たくさんの選手がプレーしに行くんだよ。
荒:ナイキのCMでコービー・ブライアントと共演していましたね?これはどんな経緯で出演することになったのですか?
http://www.youtube.com/watch?v=UceAchJGJSA
AW:僕とマットはナイキのスポンサー契約みたいなものがあって、シューズや他の商品のテストとかをしていたんだ。そのテストに加えて、彼らはコマーシャルにも僕らを使ったりしていたんだ。バスケをプレーしていない時は、僕はいつでも彼らの手伝いをしていたんだよ。(コービーのCMは)ちょうど僕がアメリカにいたとき、彼らがコマーシャルの為に選手が必要で、ナイキにいる僕の知人が紹介してくれたんだよ。

荒:プロ選手からの引退を決断したのはいつ、そしてなぜ引退を決めたのでしょうか?
AW:娘が生まれてから、僕のメンタリティが変化してきたというか、海外でのプレーの引退後を考えるようになったんだ。中東ではいろいろと嫌な思いもしたし、加えて妻の母親がガンの闘病中という事もあって、僕は帰国しなければいけなかったんだ。でも、家族と共に過ごす事が出来たし、引退後のキャリアを準備する事も出来たから、僕にとっても良かったと思ってるよ。僕はずっとコーチになりたいという夢があって、だからこれは次のステップに進むいいタイミングだと思ったんだ。
荒:今シーズン(2009~2010年)からリーハイ大学バスケットボールチームでアシスタントコーチを務めていますが、チームではどのような役割ですか?
AW:僕の役割はリクルート、スカウティング、そしてガードの選手達がレベルアップするように一緒に練習することだね。僕が現役時代に経験してきたことや知識を、若い選手たちが向上していく為に伝えていこうと思ってるんだ。
荒:現役時代の経験は、選手たちを指導するのに役立っていますか?
AW:それこそが、僕がこの大学に雇われた理由の1つだと思ってるよ。僕は、コーチングの技術の足りない部分を、プレーしていた頃の経験で補っているんだ。僕の経験は選手たちが尊敬してくれるような創造性を与えてくれるし、僕は選手たちが毎日のように上達していくのを手助けしてあげたいんだ。彼らには、僕の経験から良い面も悪い面も学んでもらいたいね。
荒:それでは、自分自身のこれからのキャリアについて、どんな夢を抱いていますか?
AW:この州(ペンシルバニア)のどこかのディビジョン1の大学で、ヘッドコーチになりたいね。一緒に働いているコーチたちから多くを学んで、出来るだけいいコーチになることが僕の目標なんだ。最終的には、ヘッドコーチとして成功して、大学レベルで長いキャリアを送ることができればと思ってるよ。
荒:それでは最後に、新潟のブースターの皆さんにメッセージをお願いします。
AW:新潟の皆さん、僕が新潟にいた時は応援してくれて本当にありがとう。皆さんはbjリーグだけでなく、日本で最高のファンです。廣瀬ヘッドコーチと、そして新潟アルビレックスBBがいずれ成功するようお祈りしています。そう遠くないうちに、新潟のブースターはチャンピオンシップの歓喜に包まれるであろうと確信しています。僕のプレーしていた2年間に優勝出来なかった事を申し訳なく思っているのですが、あの2年間、皆さんを本当に楽しませることが出来たと思っています。皆さんの幸運をお祈りすると共に、また皆さんにお会いできればと思います。そして、僕達リーハイ大学マウンテンホークスが今年のNCAAトーナメントに出場することも確信しています。
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※1 ・・・ ワイチは高校の時点で既に高く評価されており、ノートルダム・ビショップギボンズ高校の最終学年(シニア)では全米74位にランキングされる選手だった(hoopscooponline.com)。また、その前年の94年には、NY地区の高校の優秀選手の1人に選出されているが(USA TODAY)、その中にはステフォン・マーブリー(現中国CBA)、ウォーリー・ザービアックら後のNBA選手、そしてライアン・ブラックウェル(現bj大阪)らの名前もあった。

※2 ・・・ パット・ギャリティ、6-9(206センチ)の白人シューター。コロラド州のルイス・パルマー高校時代から頭角を表し、ノートルダム大では1年から主力として活躍。4年では平均23.2pts、8.4rebを記録してビッグイーストカンファレンスの最優秀選手に選ばれた。98年のNBAドラフトでミルウォーキーに指名され(1巡目23番目)、その後フェニックスとオーランドで計10年のキャリアを過ごした後、98年に引退を表明した。NBA通算で平均7.3pts、得意とする3ポイントは39.8%。現在はデューク大学でMBA取得の為に頑張っているようです。

※3 ・・・ トロイ・マーフィー、6-11(211センチ)の左利きの白人シューター。ギャリティが卒業した98年にノートルダム大に入学したが、1年から平均20pts、10rebという素晴らしい活躍を見せ、2年、3年と2年連続カンファレンスの最優秀選手に選ばれた後、4年をスキップしてアーリーエントリーでNBAへ。ドラフトではゴールデンステートに1巡目14番目に指名された。プロ2年目から安定した活躍を見せるようになり、現在もインディアナのスターティングフォワードとして活躍している(平均14.1pts、9.7reb)。ギャリティに比べるとより大きく、運動能力も高い選手。

※4 ・・・ アル・ラーヤン、カタールを代表するプロスポーツクラブで、バスケットだけでなく、サッカー、ハンドボール,バレーボールなどのチームを有し、いずれも輝かしい戦歴を誇る。バスケットではカタールリーグのディビジョン1に所属し、カタールのナショナルチームも大半がこのチームの選手。

※5 ・・・ ザイン、ヨルダンのトップリーグであるプレミアリーグに所属する、ヨルダンを代表する強豪クラブチーム。ヨルダンのナショナルチームも多くがこのザインの選手で占められている。

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「ワイチが自分なりに納得できるプレーを出来るようになった時、アルビにとって彼は非常に重要な選手になるような気がします。」

これは、まだワイチへの評価が微妙だった2005年の11月、埼玉戦の観戦記で私が書いた言葉です。

この言葉が彼自身の思いに通ずるものがあったというのは非常に嬉しいことであり、そして同時に、彼の活躍だけでは優勝には及ばなかったという事実は、私にとっても非常に大きな落胆でした。

ですが彼自身、そしてチームにとっても、この2シーズンで優勝出来なかった事、つまり優勝出来ないチームだったことは紛れもない事実であり、一方で彼らがやるべき事を出しきっての結果であったと、今では納得できる気がします。

いずれにせよ、ワイチはチームに求められた事に対してベストを尽くし、やれる事をやりきった部分があるように感じられる彼自身の言葉であり、またそれが彼のその後の、そしてこれからのキャリアにとって1つの重要なステップになっている事が、せめてもの救いかもしれません。

きっとワイチの事だから、いずれコーチとしてどこかの大学で成功して、いつの日か日本のバスケの為に……いや、たぶんそれはないな。彼は日本に来るには、ちょっとスマート過ぎるから。

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天才肌ともいうべきクールな雰囲気で、ちょっと取っ付きにくい感じもしたワイチですが、私自身、彼とはこんな事がありました。

ある時パーティーに呼ばれ、そこにはワイチを含む選手たちもいたのですが、ふと気づくとワイチが何人かでビリヤードを楽しんでいました。ゲームも一段落したようなのでワイチに、”Who is the best?”(誰が一番上手いの?)と何の気なしに聞いたところ、彼はその言葉を聞いたとたん間髪入れずに次のゲームの準備をはじめ、私との勝負を始めようとしました。たぶん、私に挑まれたと思ったのでしょうね(笑)。

また、同じパーティーで乾杯の時。参加者が一同に集まったのですが、そこでワイチはその一人ひとりに「皿はあるかい?グラスは?」と聞いて周り、ちゃんとみんなを確認してから乾杯となったのです。実はとても気の回る、優しいキャラクターだったんですね。

実際、当時はそんなエピソードがいくつかあったようです。チームメイトに怪我が相次いだとき、試合前の足のテーピングに怪我をした選手達の背番号を書き込んでいたり、またある時は、「ニックとマットに言いにくい事があったら、俺に言ってくれ」と日本人選手達を食事に誘ってくれた事もあったとか。

実際はかなりのおしゃべりだったようですが、NYネイティブの彼との会話は、あまり出来なかった事を今になって残念に思います。

私を含めた新潟の人がまたワイチに会う事は恐らくないだろうけど、彼が2006年のファイナルで見せた活躍、特に後半開始直後のわずか2分の間に、ほぼ1人で10点を稼ぎ出し(3ポイント2本、速攻から左手のシュート、そして速攻からニックへのノールックパス)、ハーフで10点ビハインドだったゲームを1人で大接戦にして新潟のブースターを熱狂させた姿は、今でも鮮明に覚えているし、きっと忘れることはないと思います。

2年という短い期間でしたが、ワイチならではのプレーで新潟の人々を熱狂させてくれたことに、改めて感謝したいと思います。

ありがとう、ワイチ。これからの活躍に期待しています。

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追記

ワイチがアシスタントコーチを務めるリーハイ大学は、今シーズン、パトリオットリーグで単独1位となる10勝4敗を記録。全体でも19勝10敗という好成績を収めました。今年のエースはフレッシュマン(1年生)のCJマッカラム。Twitterでも何度か書いていますが、シーズン終盤になるほど活躍し、大舞台でもしっかり結果を残すという素晴らしいパフォーマンスを見せています。彼は191センチのガードですが、今シーズンのほとんどの試合に先発出場し、平均18.8得点、3ポイント確率42.6%を誇るシューターです。彼は1年生としては全米No.1のスコアラーであり、もちろんパトリオットリーグの新人王に選ばれ、そしてリーグの週間最優秀フレッシュマンにリーグ記録タイの9回も選ばれています。これは、リーハイ大と同じパトリオットリーグで大活躍したアドナル・フォイル(NBAキャリア12年)の記録を超えているのです(全米屈指の高校生ながら、バスケットの強豪校ではないコルゲート大に進んだフォイルのキャリアも非常に面白いので、是非彼のHPもご覧になってください)。フォイルと同じように、マッカラムも高校時代から成績優秀な生徒です。フォイルは例外とも言える存在ですが(208センチ120キロ、大学3年間でティム・ダンカンのブロックショット大学通算記録を抜くような選手です)、パトリオットリーグで活躍してプロ選手として大成するか?と言えば、その確率はほとんど無いと思います。ですが、マッカラムがバスケット以外のキャリアで将来成功する確率は、恐らくかなり高いでしょう。

そんなマッカラムの活躍もあり、リーハイ大(第1シード)はカンファレンストーナメント1回戦で、第8シードのアーミー(陸軍士官学校)を64-45で下しています。次の対戦はアメリカン大(第4シード)ですが、第5シードのネイビー(海軍士官学校)と62-60の接戦で勝ち上がってきました。アメリカン大には今シーズン2回とも勝っていますが、勢いのある相手だけにこの準決勝には注目しなければいけません。トーナメントブラケットの反対側では、第2シードのバックネル大が第7シードのホリークロス大に64-67で敗れるというアップセットがあり、これでリーハイ大にとって非常に有利な状況になったと言えます。決勝で対戦するのは第3シードのラファイエット大が濃厚ですが、こことはシーズン1勝1敗。しかし、ホームコートの学生がチームを後押ししてくれるでしょう。

パトリオットリーグのカンファレンストーナメント準決勝は現地3月7日、そして決勝は同じく3月12日となります。リーハイ大は第1シードなので最後までホームコートで戦う事ができますが、もしここで勝てばパトリオットリーグ優勝となり、同大にとっては2004年以来、通算4回目となるNCAAトーナメントに出場する事になります。ここまでNCAAトーナメントでは0勝3敗なので、派手な一発に期待したいですね(パトリオットのようなマイナーカンファレンスは、NCAAトーナメントではどうしても下位にランクされる為、1回戦から第1、第2シードといった強豪校との対戦が避けられないのです……)。

いずれにせよ、リーハイ大マウンテンホークスの活躍にもご注目ください。

で、ワイチ。彼はアシスタントコーチだし、今年チームに加わったばかりだから、日々の記事に彼の名前が出ることはまずありません。スタッフでコメントするのはヘッドコーチだけだし、他の記事でワイチの文字を見かけることもありません。

ですが、コーチになるのが夢だったというワイチの事ですから、早ければ数年でどこかのアシスタントコーチ、つまりヘッドコーチの右腕となり、そしていずれはヘッドコーチの座を掴むかもしれません。それは早ければ5~10年くらい、遅ければ……あまりチャンスはありませんが(選手と同じく、コーチも早くから成功して出世魚のようにこの険しい世界を進むしかありません)、彼のことですから、きっと成功してくれると思います。

ちなみに、NCAAの名だたる優秀なヘッドコーチのサラリーは、1億円前後。トップクラスのリック・ピティーノ、ジョン・カリパリ、タビー・スミスあたりでは2億、3億といった数字になります。もちろん1年で、です。実際にワイチがそんなレベルにまで駆け上るとは思いませんが、きっと、大事な家族を養うには十分なサラリーを得るレベルにはなると思いますよ。


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