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2010/02/12

ここでの過去のインタビューは全て入念な根回しと緻密な計画で……という事でもなくて、中には結構行き当たりばったりな部分もあるのですが、今回インタビューをさせてもらったアントニ・ワイチ(※1)も実はそんな感じでした。

アントニ・ワイチは新潟アルビレックスBBで2005年からの2シーズンをプレーした黒人選手で、現在はペンシルバニア州のリーハイ大学(※2)でアシスタントコーチを務めています。

「彼はもう現役を引退したらしい」なんて話をどこかで聞いたような気がするのですが、ある時ふと検索してみたんですね、彼の名前を。するとすぐに出てきました、「アントニ・ワイチがアシスタントコーチとしてチームに加わった」というリーハイ大学のリリースが(2009年6月11日付)。

そこで調べてみるとたまたま彼のメールアドレスも見つけてしまい、あまり深く考えずにインタビューを申し込んでみたら、なんと翌日には返事が来て、インタビューにも快諾してくれたのです。

まぁ日本人に比べれば外国人にはいろんな人がいるというか、他にもインタビューを快諾してくれて、「すぐに返事を送るよ!」というメールから数カ月も音沙汰のないままの人とかいるんですが(笑)、ワイチの場合はレスポンスが早いだけでなく、こちらの質問ひとつひとつにとても丁寧に答えてくれました。質問と回答をワードのファイルでちゃんとまとめて画像と一緒に添付してくれた外国人なんて、彼が初めてですよ(笑)。

実を言うとちょっと「変わり者」っぽい雰囲気もあったこのワイチですが、シーズン序盤は微妙ながら徐々に調子を上げて行き、そして気がつけば新潟にとって欠かせない貴重な存在になっていた事もあり、結構ファンも多かった記憶があるのですが、恐らく多くの人にとってはそれほど印象の強くない選手なのかもしれません。同じ時期にプレーしていたニックやマットの印象が強すぎるのかな(※3)。

なので、今回はインタビューに入る前に、アントニ・ワイチという選手が一体どんなプレイヤーだったのか、まずはこの部分を前振りとして読んで頂いて、次回から彼のインタビューを掲載したいと思います。

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で、新潟時代のワイチについて。

特に新潟に加わった2005~2006シーズンの序盤に関しては、正直に言うとネガティブなイメージが多かったんですが、シーズンが進むにつれて、間違いなくチームにとって大きな役割を果たす存在になっていた記憶があります。

シーズン序盤の不調の原因については次回からのインタビューを読んで頂ければと思いますが、当時の彼のプレーの印象についてはだいぶ記憶が曖昧になっている所もあるので、当時私が書いていたブログからワイチに関する部分を時系列でピックアップしてみました(269g時代のa.m.noteから抜粋、一部加筆修正)。

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※プレシーズンの埼玉戦@小出にて。まだヘッドバンドをしていない頃のワイチ。

「新外国人のワイチ、まだ様子見という感じで何とも言えない。」(プレシーズン埼玉ブロンコス戦@飯能)
「未だに判断に苦しむワイチ選手。体も少し引き締まり、コンディションも良くなってきたようです。彼はとりあえず保留ということに。」(プレシーズン埼玉戦@小出)

なんだか微妙な感じですね。シーズン開幕前のプレビューではこんな感じでまとめていました。

「マットはシュート。ニックはリバウンドとブロックショット。この選手達の間を埋めるべく選ばれたアルビ第3の外国人選手が“トム”ことアントニ。ノートルダム大学ではシューティングガードとして堅実な活躍。ずば抜けた面はありませんが、なんでもこなす器用さはあります。ただ、プレシーズンの様子ではまだ本調子ではないようです。何でも出来そうなだけに器用貧乏になってしまいそうで・・・。話によればマットが真面目なアントニを推薦したとか。他チームでは外国人3人は当たり前、チームによっては5人なんて所もありますから、アントニにも頑張って貰わないと困ります。シーズンには入れば本領発揮してくれるでしょう。」

(なお、文中で彼のニックネームを“トム”と書いていますが、当時のチームメイトが話していた発音からすると、“トン”が近かったみたいですね。Antoniの中の“ton”かな。)

……と、ここまでは正直判断しかねる部分が多かったようです。そして、実際にはシーズンが開幕してもこんな感じが続きます。なお新潟は開幕シリーズにおいて、チームの主力選手として活躍が期待されるガードの長谷川選手が負傷してしまい、長期欠場を余儀なくされた事から、ワイチがスタートメンバーしてある程度の出場時間をもらうのですが、しばらく調子の上がらない試合が続きます。

「オフェンス面が極めて不安定。アシストも出来るし、あとは思い切ってプレーするだけだと思うのですが・・・。もちろんターンオーバーは減らす必要があります。長谷川の離脱で、まずスポットライトが当たるのは彼です。未だにワイチのキャラクターってものが見えてこないのですが、出場時間が増えればそれなりにやってくれると思ってます。」(開幕の東京アパッチ戦@有明)

「いつまでも保留状態だったワイチですが、出場時間がふえるにつれて『結構いいプレーできるじゃん』なんて部分もありますが、悪い部分も見えてきました。 シュートの確率が低く、決定力がない所と、些細なところでミスしてしまう傾向にあるようです。」(埼玉戦@所沢)

「徐々に出場時間の増えているワイチ。元々のポジションはSGだけど、アルビではいろんな事をしなければならない。また、まだアルビの選手として数試合しかやってないから慣れてない部分もあるかも知れない。でも、23分でターンオーバー4、シュートが0/4はイカンよなぁ。タイミング的にはいい所で打っているから、あとはシュートタッチだけだと思うけど・・・。」(大阪エヴェッサ戦@なみはや)

しかし、徐々にいいプレーを見せるようになるワイチ。彼にとって初めてプレーした朱鷺メッセでの東京戦は、ひとつのきっかけだったのかもしれません。

「ここまで中途半端にネガティブな存在感だけだったワイチ、このシリーズでは(やっと)前評判通りの『オールラウンダー』ぶりを見せ始めました。元々のポジションはガードなのでボールハンドリングはいいですが、東京の小さいガード陣に対するディフェンスだけでなく、ペネトレイトからのアシスト、ポストプレー、そして3ポイントと徐々に活躍の場を増やしています。まだ『チームプレーに徹しなければ』という意識が見えますが、より積極性を出せばもっと結果を出せるタイプだと思うので、今後のキーマンとして期待してます。日曜日のMVPはワイチでよかったかも。練習を見学に行くと分かりますが、彼のバスケIQというかゲームの理解度は極めて高い。指示に対する動きは的確だし、所々で見せる小さなフェイクや細かい動き方のテクニックなどもかなりのものがあります。それまでイマイチだったワイチについて、中野社長(当時)から、『ワイチは朱鷺メッセの雰囲気を経験させれば良くなる』という話を聞いたことがありました。その真面目さをマットに紹介されてアルビに加入したワイチですが、今ひとつプレーが消極的な印象がありました。しかし今回のシリーズを見てのとおり、彼は得点やディフェンス、リバウンドだけでなく『チームメイトを生かす』という能力があります。もともとアルビにはポイントガードらしいポイントガードがいないのですが(長谷川、藤原はいずれも攻撃型とも言えるポイントガード)、ワイチがガード・フォワードというポジションからパスをさばけるようになると、それは間違いなくアルビの強みになるはずです。事実、この2試合で10astを記録していますからね。」(東京戦@朱鷺メッセ)

……と、それまであまりワイチに触れていなかったのに、この前後から彼に関する記述が多くなってきます。徐々にワイチの良さが見えてきた感じでしょうか。

「長谷川の欠場によってワイチがオールラウンドに活躍するようになりました。PGとしてのボールコントロールやディフェンス、そしてポストアップからのアシストなど、新しいオプションをチームに加えつつあります。このシリーズを見ていても『もって出来そうだな~』と思ったし、今日のように7astを記録するのは相手にとって守りにくくて嫌なはず。あとは外角シュートが安定すれば言うこと無しだけど、この点だけがちょっと不安。」(大分ヒートデビルズ戦@朱鷺メッセ)

「ワイチはこの日も7pts、9reb、6astと攻守に活躍。思うに、彼は『出汁(だし)』のような選手ですね。自分が目立つことはないけど、いろんな面で他の選手を引き立てる役割。それでいて、彼がいなくなるとチームとしては何か味気なくなってしまう。マットやニックのようににこやかな訳ではないですが、それは彼の真面目さからきているような気がします。チームにもだいぶ馴染んできたらしく、かなり積極的に発言するようになったみたい。」(埼玉戦@春日部)

そしてクリスマスの大分戦。この時点になってやっと、ワイチのプレーがチームに何を与えるのか?がハッキリした感じですね。チームメイトに負傷が相次いだからこそ(長谷川、ニックらの負傷)、彼の良さが引き出されてきたようです。

「ワイチの獲得はアルビにとって大きな意味があると改めて思います。長谷川が負傷すればポイントガードとしてボールを運び、ニックが負傷すればインサイドで攻守に活躍。今日の数字(5pts、3ast、4reb)も、シーズンのアベレージもなんら目立つ所はないけれど、ワイチみたいな選手がいなかったら今季のアルビはヤバかったですよ。」(大分戦@東総合)

ちなみに年明けの試合では、こんな事も書いてありました。

「以前にも書いたとおり、ワイチはアルビにとってかなり大きな存在です。目立たないですが、チームにとって欠かせない戦力です。彼のようなタイプは『いなくなってからその重要さに気づく選手』だと思います。あと少し、ほんの少しシュートの決定率が上がれば言うこと無しなんですが・・・。」

……という訳で、その後もスタメンだったりベンチスタートだったりしながらもワイチは着実にチームの戦力として活躍を続けたのですが、3月の大阪戦@上越で寺下選手(現bj埼玉ブロンコス)がやらかしてしまった事をきっかけに(※4)、翌週からスタートメンバーとして固定されました。

シーズン中盤以降の活躍はハッキリと覚えています。タイトでタフなディフェンス。ガードを守る時はそのクイックハンドを生かして、インサイドの選手を守るときはそのフィジカルな体で。ゴール下で相手選手の持つボールを叩き落とすのは見事としか言いようがない。リバウンドを奪えば巧みなドリブルで一気にゴールまで攻め込む。スピードはそんなにないけれど、クロスオーバーとロールターンを駆使して突き進む。ゴールまで切れ込めば右手でも左手でもシュートを押し込む事ができる。でも、それ以上に印象的なのは視野の広いビジョンから繰り出される見事なアシストパス。時にはディフェンスの裏から、また時にはコートを縦断するロングパスが見事に決まる。イチローのレーザービームじゃないけれど、まさにあんな感じのロングパスが決まった時は、会場全体がどよめいてましたね。

もちろんネガティブな面もあります。見事なアシストパスと引き換えに、「え?」というような単純なミスをする。速攻でディフェンスに突っ込んで自爆する。3ポイントはあまり期待できないし、フリースローも安定しない。難しいパスを出してミスに繋がっても、知らん顔している。タイムアウトの時、選手の誰もがコーチの話を聞いているのに、1人そっぽを向いている。でも、よく見ると聞き耳を立ててちゃんと聞いてたりするのですが(笑)。

しかしシーズンの最後には、チームがワイチを獲得した事が正しい判断だったと証明されます。

プレイオフファイナルで対戦するのは大阪、サイズもシュート力も上のこのチームとはシーズン中から激闘を繰り返してきたけれど、一発勝負となるファイナルで新潟の動きは明らかに固い。ニックが得意とするゴール下のプレーは大阪の固いディフェンスに阻まれ、マットはマッチアップするリン・ワシントンを止められない。得意のアウトサイドシュートが決まらない新潟はリードを許し、徐々にその点差は広がっていくが、そこで唯一、大阪の勢いに立ち向かうことが出来たのが彼、ワイチでした。

決して得意でない3ポイントを沈め、ゴール下に切れ込んで見事なアシストパスを決めたかと思えば、強引なドライブからバスケットカウントを決める。そしてなにより印象的だったのが、そのプレーよりも彼の気迫でした。両チームのブースターによる強烈な応援合戦となったこの試合。ワイチは大阪ブースターの目の前で難しいバスケットカウントを決めると、「どうだ?」と言わんばかりに大阪ブースターに埋め尽くされた観客席を睨みつけていました。ここで変に煽ったりしないのがまたワイチらしい。

スマートで常に冷静なワイチですが、その内に秘める闘志ともいうべきものは、実はチームの誰よりも強かったのかもしれません。

結果、残念ながら優勝にはあと一歩及ばず、期待された2年目のシーズンでもチームとして結果を出せないまま、彼はこの新潟の地を離れる事になりました。

今になって思えば、人気者だったニックやマットと同じように、彼からもいろんな話をきいておけば良かったと思うのですが、幸いにして今回、彼とコンタクトを取ることができました。

簡単なインタビューですが、アントニ・ワイチという人物が何を考えていたのか、そして今になって彼がどう思っているのかを、皆さんに読んでいただければと思います。

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※当時のワイチで個人的な好きな彼のポーズ。なぜか膝をベンチに立てるこの格好を、何度も見かけたのを覚えています。

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なお、ワイチが新潟に在籍した2年間の成績及びメンバーは下記の通りです。参考までにどうぞ。

2005~2006シーズン レギュラーシーズン29勝11敗(2位)
プレイオフセミファイナル 新潟79-68東京、ファイナル 新潟64-74大阪(最終順位2位)

メンバー
#3浦伸嘉、#4長谷川誠、#5アントニ・ワイチ、#9小菅直人、#11藤原隆充(現bj滋賀レイクスターズ)、#15寺下太基(現bj埼玉)、#21ニック・デービス、#23佐藤公威(現bj大分ヒートデビルズ)、#31小川忠晴(現bjライジング福岡HC)、#33マット・ギャリソン、#55橋本伸広

アントニ・ワイチのスタッツ:25.0min、7.9pts、3pt20.0%、2pt57.7%、FT54.4%、5.0reb、3.1ast、1.2stl、TO2.3

2006~2007シーズン レギュラーシーズン25勝15敗(2位)
プレイオフセミファイナル 新潟69-79高松ファイブアローズ、3位決定戦 新潟70-92大分(最終順位4位)

メンバー
上記より#3浦伸嘉、#31小川忠晴、#55橋本伸広が退団、新加入が#32池田雄一、#41ハン・チェギュ、#44ジャック・ハートマン、#67原口真英の4人。

アントニ・ワイチのスタッツ:27.6min、6.7pts、3pt20.3%、2pt50.6%、FT58.7%、3.5reb、4.5ast、1.2stl、TO2.6

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※1 ・・・ アントニ・ワイチ、1977年9月20日、NY出身。身長193センチのガード・フォワード。ノートルダム・ビショップギボンズ高校からノートルダム大学へ進む。卒業後はアメリカマイナーリーグの他、マケドニア、メキシコ、フィンランドなどでプレーし、2005年より新潟入り。2年のプレー後に退団し、その後は中東各国でプレーした。その後現役を引退し、2009年からリーハイ大学でアシスタントコーチを務める。

※2 ・・・ リーハイ大学マウンテンホークスの所在地はペンシルベニア州の東端にある人口7万人の小さな街、ベツレヘム。かつては鉄鋼で栄えたこの街も現在は衰退しているが、そんな中でもリーハイ大学は全米ランキングでも上位に入る(スポーツではなく学業の)名門校として知られており、特に工学系に強い。学費が高い私立大学であり、つまり裕福で優秀な学生が集まる大学という事ですが、バスケの強豪校ではなくこんな大学を選ぶあたりが、自身もノートルダム大系の私立高校、そして同大を卒業したワイチらしいところです。

なお、リーハイ大学の所属するパトリオットリーグはアメリカ北東部を中心とするNCAAディビジョンⅠのカンファレンス。バックネル大、コルゲート大あたりが時々NCAAトーナメントを騒がせる程度で、他にはかのボビー・ナイトが史上最年少でヘッドコーチとなった陸軍士官学校(その時のキャプテンが現在デューク大でヘッドコーチを務めるマイク・シャシェフスキー)、デビッド・ロビンソンがNCAAトーナメントで大活躍した海軍士官学校、黎明期のNBAで大活躍したスター選手、ボブ・クージーの出身校であるホリークロス大ら全8校が所属しています。つまり、いわゆる「強豪カンファレンス」ではなく、全米のカンファレンスランキングでも下位グループ(31カンファレンス中、概ね20位台)になります。一応、ホリークロスは全米優勝2回の実績がありますけどね。

しかし、これはこれでシンプルな戦い方となり、シーズンの成績によりカンファレンストーナメントを開催し、そこで優勝したチームがNCAAトーナメントの出場権を得るという形となります。シーズン前の予想をあちこちチェックしてみるとリーハイ大はカンファレンスの2位~3位といった感じでしたが(強豪カンファレンスのように各大学のタレントのレベルにそれほど差がないので、予想はかなりバラバラでした)、2月初旬の時点でカンファレンス1位の座を守っており、2004年以来のNCAAトーナメント出場も夢ではありません。こちらのカンファレンスレースにも是非ご注目ください。

※3 ・・・ ニック・デービスとマット・ギャリソン、2004年からそれぞれ3年、4年ずつ新潟でプレーした外国人選手。いずれもチームにとって戦力的に重要な選手というだけでなく、そのフレンドリーな性格とファンサービスを惜しまない人柄で、新潟に限らず多くのブースター(ファン)に愛された選手。

※4 ・・・ それまでシーズン開幕からスモールフォワードのスタートポジションを守り続けてきた寺下選手ですが、この試合では好プレーを見せながらも試合の勝敗に直結するミスもあり、またこのシリーズで新潟が外国人選手がスタートから3人並ぶ大阪に致命的な連敗を喫した事から、この後はスタートの座をワイチに明け渡す事になった。この詳細については寺下選手のインタビュー記事を御覧ください。


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