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2010/02/05

ニック・デービスという、誰からも愛される人気選手を応援し続ける新潟のCさんの第3回。

Cさんがなぜニックの応援にここまで熱を上げるのか。そして、そのニックが日本を去ってしまった今、一体何を思うのか。この状況ではなかなか聞きづらい話ではありますが、思い切って聞いてみました。

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荒木ユタカ(以下、荒):それでは続いて今シーズンのニックについて伺いたいのですが、東京は今シーズンからチームの運営会社が変わるなど大きな体制の変化があり、チームでもヘッドコーチのジョー・ブライアントだけでなく、エースのジョン”ヘリコプター”ハンフリーがチームを去りました。新しく青木幹典ヘッドコーチが就任してチームの雰囲気も変わったと思うのですが、Cさんの目にはこの新しいチームは、そしてその中でのニックのプレーはどう映ったのでしょうか?
Cさん(以下、C):ん~~~。やはりニックにフラストレーションが溜まっているというか、自分の思うようなプレーが出来ていないフラストレーションと同時に、チームのシステム的なものが変わって、今までとかなり違うバスケットをしている事の不満もあったのかもしれませんね。
荒:ヘッドコーチが変われば、チームの全てが変わりますからね。
C:それはヘッドコーチだけが責められる事じゃないと思うんですよ。選手たちも新しいシステムにフィットしなきゃいけないし、お互いがやる必要があるんですよね。
荒:私も今シーズンの東京の試合をいくつか観戦したのですが、残念な事ですが、チームとしてあまりいい方向に進んでいるようには見えませんでした。
C:元仙台のシャペール(※1)が新たに加入して、外国人選手がローテーションで少しずつ休めるようになってきて、これからいい方向になっていくのかな?という所で、ニックがカットされてしまったんですよね。
荒:確かに、彼らは何のためにプレーしているかと言えば「勝つこと」が目的なので、そこで勝つために誰かが責任を持って決断しなければ、というのはあるとは思います。私も試合を見る立場として思いますが、例えば今チームにいるメンバーで優勝するのが応援する側からするのが理想かもしれませんが、それを達成出来るのはリーグの中で1チームしかない訳で。ただし、例えそれが仕方ない事とは言え、ニックのようにブースターの誰からも愛されていた選手がチームを去る事は、チームにとっても、ブースターにとっても、そしてリーグにとっても損失と言えるかもしれません。
C:だから1月13日の京都ハンナリーズ戦で、「僕たちはニックを愛しているんだ」という事だけでもニックに伝えたくて、東京のブースターさんの発案で「21 Davis」のポスターを700枚も配って、みんなで掲げさせてもらったんですよね。それは僕にとっても凄く嬉しかったし、感動しましたね。
荒:その思いが少しでも伝わるといいんですが……。
C:それを見たからといって、チームが考えを変えるとか、それはありえないと思うんです。ただ、チームにとって応援するブースターがいなくなってしまっては、何もならないですからね。bjリーグはアマチュアじゃなくてプロなんだから。ブースターが離れてしまうような事をするチームはどうかと思いますよ。
荒:確かにプロのチームというのは、競技のレベルはもちろん、そのファンがいなくては成り立たない部分がありますからね。特にここしばらくのbjリーグのチームについては、あちこちで理解に苦しむアクションがあるというか、その結論はやむを得ない部分があるのかもしれないけど、それに至る経緯について、もう少し説明があってもいいような気がしますね。今回のニックの契約解除の件についても、チームのHPにたったの1行ですからね。その経緯を全て明らかにする必要はないにせよ、チーム側なり、ニックからのコメントがあってもいいような気がしますね。
C:プロなんだから、勝ち負けがあるのは当然だと思うんです。コンペティションとしてやっていれば、どちらかが勝ってどちらかが負けるんだし、ひとつのチームが全部の試合に勝てるなんて誰も思っていないんです。例えあるチームが全部負けたとしても、それは実力がないんであれば、仕方ない事だと思うんですよね。

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C:僕がプロチームである彼らに求めているのは、代理戦争なんですよ。
荒:代理戦争?
C:自分がその場に行って戦いたいんだけれど、自分ではその実力がないから、自分の代わりにニックに戦って欲しいんです。
荒:それはつまり、コート上の選手に自分の姿を重ねているという事でしょうか?
C:そうですね。例えばそれはチームであったり、選手個人であったり、人によって違うと思うんですが。
荒:Cさんの場合はそれが選手であり、具体的にはニックだったという訳ですね。という事は、自分がコート上で戦うならニックのようにプレーしたい、という事ですか?
C:そうそう。
荒:あ~、なるほど。すると最初に出てきた竹田謙だったら、「俺もあんなディフェンスをしたい」だったりとか、グレッグ・ストルトのように一生懸命プレーしたいとか、自分の分身のように思って応援している訳ですね。確かに、そのように考えるならば、試合には勝ちもあれば負けもあるという事も理解しやすいですね。
C:だから、結果は仕方ないんですよ。ただ今は、その戦う場所さえも無くなってしまったんです。
荒:ニックがいなくなって、そんな自分の思いをぶつける選手がいなくなってしまったんですね。
C:それが凄く寂しいんですよね……。チームにとって、ニックが試合に出ないほうがいい選手なんであれば、カットされるのも仕方ないんです。じゃあニック・デービスという選手は、チームにとっていないほうがいい選手だったのかな?という事です。
荒:東京アパッチというチームにとって、ニックとはそんな評価の選手だったのか?と。
C:チームとしてだけでなく、リーグとしても、彼は必要ない選手だったのか?と思うんですよね。その1/13の試合では、少なくない数のブースターの人達が、その思いに共感してくれたと思うんです。
荒:それだけ応援していた選手がチームだけではなく、リーグからいなくなってしまうというのは、本当に寂しい事ですよね……。ちなみに東京の試合をメインに見るようになってからは、新潟の試合は見ていたのですか?
C:今シーズンはリーグの試合日程にズレがあるんで、先月の滋賀戦も見ましたね。城宝(※2、城宝匡史、元bj東京)が来ていたし、ワラ(※3、藤原隆充、元bj新潟)もいましたんで、まぁ観戦って感じですね。みんな頑張ってくれればいいな、と思って。
荒:でも、これからの東京の試合については、ニックはもういないし……。
C:これからどうしようかと、女房と毎晩のように話しあってますよ(笑)。

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荒:これまでは、実際どれくらいの頻度で東京の応援に行ったんですか?
C:アウェイはだいぶ行ってますよ。先シーズンは東京の公式戦で見なかったのは、2~3ゲームだけですね。
荒:あとは全部見たんですか?うわ~、凄い!
C:今シーズンは、島根であったプレシーズンを見てないのと(滋賀レイクスターズ戦)、平日の試合で行けなかった事が1回ありましたね。
荒:それだけ応援していたのに、その張本人たるニックがいなくなってしまったんじゃあ厳しいですね。
C:そうなんですよね……。
荒:本音を言うなら、どこかのチームにニックを拾ってもらいたい感じですか?
C:もうどこでもいいですよ(笑)。日本のチームなら一番いいですけど、彼が契約もらえるなら、世界中どこでもいいです(笑)。
荒:例えばアジアとかなら、まだ行ける範囲ですからね。
C:新潟から韓国まで飛行機で行くなら、新幹線で東京まで行くのと時間的には大差ないですからね(笑)。
荒:まぁニックの年齢的なことを考えると(今年で34歳)、いつまでもプレー出来る事はないにせよ、あと2~3年はプレー出来そうな感じはしますよね。
C:まだまだプレー出来るというか、あの経験とテクニックがあれば十分他のチームでもやっていけると思いますよ。
荒:確かに、今回の契約解除は本人の意思とは思えないですからね。ただ、もしニックがもうどこからも契約をもらえなかったり、現実的に応援に行くことが難しいチームと契約する可能性もあるわけです。すると、今それに対する答えを見つけるは少し難しいとは思うんですが、Cさん自身がバスケが好きというのはあると思うので、また試合を見ていくなかで、誰か応援したくなるような選手がいれば、という感じでしょうか?
C:そうですね。
荒:ちなみに、今、自分が感情移入できる選手がいるとしたら、それはどの選手ですか?チームやリーグは問いませんが。
C:一番心情的に応援したいのはテラですね(※4、寺下太基、現bj埼玉ブロンコス)。
荒:それはどういった理由で?
C:何というかな……。彼の攻撃的なスタイルというか、アグレッシブなところじゃないでしょうか。埼玉に移籍してから、より良くなりましたよね。埼玉のブースターからもすごく応援してもらっているし。テラはいいですよ。
荒:そこには、やはり彼がかつて新潟でプレーしていたのを見ていたから、といのがあるんでしょうか。
C:そうですね。それから、東京-埼玉戦でも彼のプレーを見ていますからね。
荒:まぁ私個人としては、ニックはまだ全然プレーできると思うし、可能であればbjリーグのどこかでプレーしているのを見たいですね。先程Cさんもお話されてましたが、リーグにとっても価値のある選手だと思いますからね。例えどのユニフォームを着るにしても、また彼のプレーを見たいと思いますよ。
C:私もそう思います。
荒:今日はどうもありがとうございました。

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※1 ・・・ マイケル・シャペール、1978年1月21日生まれ。ミシガン州出身。NCAAミシガン州立大学時代には全米優勝を経験したシューター。身長203センチ。

※2 ・・・ 城宝匡史、1982年4月24日生まれ、北海道出身。大阪商業大学を卒業後、大阪エヴェッサにドラフト指名され、その後2007年から2年間、東京アパッチでプレーした。今シーズン開幕に、滋賀レイクスターズに移籍。身長183センチ。

※3 ・・・ 藤原隆充、1978年7月16日生まれ、福岡県出身。九州産業大学卒業後、新潟アルビレックスのトライアウトを経て入団。7シーズンに渡って新潟でプレーした後、エクスパンションドラフトで滋賀レイクスターズに移籍した。身長182センチ。

※4 ・・・ 寺下太基、1980年2月25日生まれ。和歌山県出身。JBL松下電器で1年のプレーの後、トライアウトを経て新潟アルビレックスに入団。当初は下部組織A2でプレーしたが、2005年からはチームの主力選手として活躍。2008年からは埼玉ブロンコスに移籍。身長190センチ。寺下太基選手については、こちらのインタビュー記事をどうぞ。

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新潟の試合に限らず、会場で応援している人というのは誰かしら特定の選手、それは憧れであれ、様々な形の感情移入であれ、どんな形にしろ誰かに対する思いというものがあると思います。

「私は~~選手のファンです、応援しています!」というのは誰もが思う事だと思いますが、今回のCさんのレベルまで徹底して一人の選手に入れ込むという話は、さすがになかなか聞くことがありません。

これまで「ニックがプレーする」という理由で100を優に超える試合を観戦してきたというCさんは、おそらく過去数年でかなりの労力をニックの為に費やしてきたと思いますが、なによりその根本となる熱い気持ちが一番重要だったのではないでしょうか。

オフェンスリバウンドを奪い取るのと同様に、フィジカル面よりも、メンタル面のほうが何より負担が大きいですからね。

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実は私自身、今回のインタビューがどのような形になるのか全く想像がつきませんでした。

Cさんがニックの熱狂的なファンだというのは知っていましたし、しかしこの企画としてお話を伺う方としては、もしかしたらちょっと偏りすぎているのかも?という懸念を僅かながら抱いていたのは事実です。

しかしその私の予想は、全く想像を超えた形で裏切られる事になりました。もちろん、いい意味でです。

まずニック・デービスという選手への思い。そのロイヤリティ(忠誠心)とも言うべき強い気持ちは、ニック・デービスという稀有なキャラクターと相まって、どんどん強くなっていったと言えるでしょう。恐らく、ニックも同じ気持ちだったのではないでしょうか?

また、Cさん自身がニックという選手だけでなく、所属するチームやリーグの状況を、極めて冷静に見つめている様子も伺うことが出来ました。

そして私自身も、Cさんと話して行く中で、ニック・デービスという選手への思いを改めて確認できたような気がします。

というのは、今回の記事にあたって過去のニックの画像を探してみたのですが、思ったよりその数が少なかったのです。今になって思えば、私にとってニックは「新潟にいて当たり前」とも言える存在であり、彼が新潟というチームの中心にいる事が、私にとっては当然の事だったのかもしれません。

そんなニックに、彼が新潟を去る時、そして日本を去る時に、一言でも声をかけてあげられなかった事を残念に思います。

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今回で3人目となるシリーズ「コートの外」ですが、過去2回のゲストに引き続き、今回もまた濃い話を聞くことができました。いずれの話にも、それがチームであれ選手であれ、バスケを通じた熱い思いという共通のものがあるような気がします。

そしてまた、これからも同じように、もしかしたらもっと強い思いを持つ人達へのインタビューが出来ることを、私自身楽しみにしています。

今回インタビューにご協力いただいたCさん、ありがとうございました。

2010/02/05 11:19 | コートの外 | No Comments

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