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2010/01/22

今回お話を伺う事になったCさんなんですが、この方にはちょっと面白い経緯があります。Cさんは新潟にお住まいなので、以前は新潟アルビレックスBBの応援をしていたような記憶があります。新潟の試合会場で何度か見かけたので、たぶん、応援していたと思います……。

ところが、ある時ふと気がつくと、コートの反対側で応援しているのです。着ているウェアの色も違う。新潟のチームカラーのオレンジではなくてパープル。またある時、試合のTV中継を見ると、新潟と関係のない試合の応援をしている。それも、新潟から遠く離れた会場で。その上、コートサイドの最前列で(笑)。

話を聞いてみると、Cさんが熱心に応援しているのはニック・デービスという選手(※1)。先日のコラムでも紹介しましたが、bjリーグ(※2)の東京でプレーする前は新潟のユニフォームを着ていた人気選手です。しかし、Cさんのニックに対する入れ込みっぷりはかなり強烈です。例えば昨シーズンは、東京アパッチの公式戦を数試合除いて全て観戦したとか。bjリーグはレギュラーシーズンが52試合(ホーム26試合、アウェイ26試合)、プレイオフとプレシーズンを含めると約60試合にもなります。

私もかつて、新潟のシーズン全試合観戦というのをやったことがあるんですが、その頃はまだシーズン全部で40数試合しか無かったし、なによりニックの所属する東京アパッチは、当たり前ですが東京がホームなので(主に有明コロシアム)、新潟で開催される数試合を除けば、新潟在住のCさんにとっては残る全てがアウェイ状態になります。これってかなり凄い事ですよね?

Cさんがそれ程までにニックの応援を入れ込む理由は何なのか?今回はこの点についてぜひ聞いてみたいと思いました。

しかし今回のインタビューはある意味最悪のタイミングとなってしまいました。というのは、そのニックが所属する東京アパッチからカットされた直後だったからです(2011年1月8日、契約解雇のリリース)。日本人選手であればまだどこかで会えるかもしれないけど、外国人選手のニックは、もしかしたらもう2度と会えないかもしれない。しかもニックの場合、33歳という年齢を考えるともうプレーしないで引退してしまうという可能性も否定できない状態なのです。

そんな状況でCさんに話を伺うのはちょっと気が引ける部分もあったのですが、しかしそんなCさんにとっても、今回の件にはいろいろ思う所があったようです。

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荒木ユタカ(以下、):それでは、よろしくお願いします。
Cさん(以下、C):はい、お願いします。
荒:それではいきなりで大変申し訳ないんですが、今回、ニックがチームからカット(契約解除)されたという事について、どのような思いがありますか?
C:とりあえず精神的にかなりのショックですね。女房と2人でニックを何シーズンも応援してきたので、非常にショックを受けてますけど、チームが決定した事なので、仕方ないなというのはあります。ただ、あれだけブースターから愛されていて、彼もブースターを愛していて、そしてリバウンドランキングにも入っている選手を(1/17現在、リーグ4位)、どうしてこのタイミングでカットするのかな?それも、チームの成績がよくないのに(1/17現在、東京アパッチはbjリーグイーストの6位で最下位)、リバウンドのランキング入りしている選手を切るというのは、非常に不信に感じますよね。
荒:今回の件は、やはり東京のブースターにとっても影響は大きいんでしょうか?
C:大きいですね。今年1月13日の試合(京都ハンナリーズ戦@代々木第二)で、試合会場で「21 Davis」と書かれたポスターを配って、みんなで“We love Nick”というコールをしてニックに対するリスペクトの気持ちを表現させてもらったんですけど、そのポスターは700枚用意して、アウェイの京都ブースターの方にも掲げてもらったんですよね。

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※東京ブースターとCさん達が会場で700枚も配ったポスター。”We love Nick!”のコールをしている様子は、同日の試合動画でも御覧になることが出来ます(第3Q終了後)。

荒:それは東京のブースターの方が発案したんですか?
C:そうです。東京のブースターさんから提案いただいて、じゃあ私も一緒にお願いします、という感じで。
荒:その気持ちが、多少でもチームに伝わるといいのですが。ここでこんなことを聞くのもアレなんですが、過去数年に渡ってニックを応援してきて、この状況からすると新潟に戻ることも、また東京に戻ることもありえない状況だと思います。もしこれからニックが日本のどこか他のチームと契約するとしたら、やっぱりまた彼を応援したいという気持ちはありますか?
C:そうですね、そのつもりです。でもニックが新潟から東京に移籍した後も、日程的に見れる時は新潟の試合を見てましたし、東京の試合を見るようになってからは東京のブースターさん達に非常に良くして頂いて、暖かく迎え入れてもらったという経緯もありますので、ニックが何処に行っても、新潟や東京の試合も見ていこうかな、というのはありますね。

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荒:それではここから、Cさんがニックの応援に到るまでを順を追って伺いたいと思います。まず、Cさん自身はバスケをプレーしていた経験はあるのですか?
C:はい、ミニバスで少しと、中学の時、あと大学の時にクラブチームでやっていました。
荒:するとやはり、2000年に新潟アルビレックスという、日本で始めてのプロのバスケチームが地元に出来たという時には、興味を抱いたんでしょうか?
C:そうですね、サッカーのチームが先にあって、次にバスケのプロチームが出来ると聞いたときは嬉しく思いしましたし、応援したいな、という気持ちはありましたね。
荒:ちなみに、サッカーに関しては応援に行ったりしていたんですか?
C:サッカーは年に1~2試合行くくらいですね。
荒:するとバスケに関しては、アルビ設立時の初期から観戦していたんでしょうか?
C:はい、JBLの頃から見ていましたね。
荒:その頃で印象的な試合とかありますか?
C:ん~~~、あまり記憶がないかな(笑)。まったりとした雰囲気で、新潟の廣瀬ヘッドコーチが一生懸命頑張っているという感じはありましたね。スペシャルマッチで元NBAのマジック・ジョンソンが来たときには、凄いもの見せてもらったというのはありましたけどね(※3)。
荒:確かに当時の日本リーグの頃は、今のbjリーグの雰囲気とはだいぶ違うというか、一生懸命盛りあげようというのはありましたけど、やはり地味だった記憶はありますね。するとCさんにとって、なんとなく試合を観戦している感じから、熱心に応援するようになるきっかけのようなものがあったと思うのですが、それはどの部分だったと思いますか?それは試合そのものに限らず、特定の選手の応援だったり、人によって違うとは思うのですが?
C:そうですね……竹田謙が来た頃かな?
荒:ほう。竹田謙(※4)。それは、彼のどんなところに惹かれたんでしょうか?
C:彼のディフェンスですね。「外国人選手を止めることのできる日本人選手がいるんだな!」というのは、凄いインパクトありましたね。「ディフェンスで魅せる」というのを、凄く感じましたね。
荒:確かに彼の売りはクイックネスとスピードを生かしたディフェンスですからね。当時のOSGフェニックス戦で、エースのジョニー・ローズをピッタリとマークしていたのを覚えてますよ。折茂武彦(※5、現JBLレラカムイ北海道)なんかもシャットダウンしたりしてましたね。他に誰か印象的な選手はいますか?
C:元新潟で当時はOSGにいたホッティーこと、堀田剛司(※6、現JBL三菱ダイヤモンドドルフィンズ)ですね。彼も良かったですね。
荒:彼はどちらかと言うとシュート力のほうですね。
C:去年、東京と浜松東三河の試合があって、ホッティーに3ポイントを7本くらい決められた試合がありましたからね。
荒:それでは、新潟の外国人選手に関してはどうですか?
C:外国人選手ならグレッグ・ストルト(※7)、彼が好きでしたね。
荒:グレッグはどんなところが印象的でしたか?
C:彼のバスケットに打ち込む姿勢ですね。すごく一生懸命にやってる感じがしましたよね。
荒:そういった部分は確かに見ている側に伝わる部分がありますよね。選手たちが手を抜いているという事は無いんでしょうけど、やはり本当に頑張っているというのは、見る者に伝わってくる部分があると思います。
C:サッカーやラグビーなんかと違って、バスケットって選手と観客が凄く近いじゃないですか。コートは目の前だし。例えばベンチにいるときの態度や仕草だったり、コート上のプレーにしても、肌に感じる部分がありますからね。
荒:確かに、コートサイドだと選手の声とか聞こえるくらいですからね。彼らの表情も見えるし。その点はサッカー、野球とか他のスポーツに比べると、遥かに近いですね。コートサイドなら選手同士が話している様子とか、審判に話したりとか、結構聞こえますよね。
C:審判に文句を言う選手もいれば、泣きつく選手もいたり(笑)。いろんな選手がいますからね。
荒:すると、そのグレッグの次ぐらいがニック・デービスになるんでしょうか?
C:そうですね。
荒:ニックに対する最初の印象というのはどんな感じだったんでしょうか?
C:「細いのにセンターやってるんだ」という感じですね。彼のスピンムーブ(※8)が速くて綺麗に決まっていたんで、それが凄く印象に残ってますね。あとはリバウンドの取り方ですね。普通のセンターと全然違ってるんですよね。
荒:それは、やはりCさんがバスケをやっていた事があって、その観点から「彼のプレーは凄い!」というのがあったんでしょうか?
C:いや、私のバスケのレベルなんて全然ですから(笑)。でも、ゴール下で相手の選手と積極的にポジション争いをせずに、相手の思わぬところから手が伸びてくるというリバウンドの取り方というのは、1つの職人芸だと思いますね。
荒:ニックの場合は手足が長くて、相手の頭の上からリバウンドを奪う感じですよね。
C:聞いた話ですが、彼のリバウンドは1回目に取りに行かないんですね。最初に指先で弾いて、それから自分で取るんですね。
荒:ほ~。スラムダンクの桜木花道じゃないですけど、何度も跳んで取る感じですね。ところでニックが加入した2004~2005年というのは、新潟にとってJBL最後のシーズンだったのですが、チームの成績としてはかなり厳しいものがありました(リーグ7位)。そんな中でCさんのスタンスとしては、新潟というチームそのものを応援しているというよりは、選手を応援しているという感じがあったのでしょうか?
C:どっちかと言えば、私は選手個人なのかな、という気がしますね。
荒:これは人によっていろいろあると思うのですが、「チームが勝てばいい」という人や、「負ければ全部ダメ」という人もいると思うんですよね。また一方で、自分の応援している選手に活躍して欲しいという人もいると思いますし。
C:「チームが勝てばいい」という考えなら、サッカーとかのほうがいいような気がするんですよ。バスケットというのは例えチームが勝っても負けても、必ず選手によっていいプレーというのが幾つかあると思うんです。例えば30点差で負けたとしても、負けたチームの選手の中にはいいプレーというのがあるんですよね。そこがバスケットの大きな魅力の1つだと思うんですよ。
荒:確かに、バスケットは試合における個人プレーの占める割合が大きいと言うか、チームに与える影響が大きいですよね。ダンクシュートとか、いいプレー1つで試合の流れが変わったりするし。するとCさんにとっては、自分の興味のある選手、注目している選手を応援する、というスタンスがあったんですね。
C:そうですね。

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※ニックの新潟1年目のシーズン、さいたまブロンコス(当時)とのプレシーズンマッチにて。左はチームメイトのマット・ギャリソン、右は現在bjリーグ富山グラウジーズのカービー・レモンズ。

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※1 ・・・ ニック・デービス、1976年9月27日生まれ、NY出身。NCAAの名門アーカンソー大学を卒業後、海外で点々とプレーした後、2004年から新潟アルビレックス入り。3年のプレー後、同じbjリーグの東京アパッチでプレーしていたが、2010年1月8日にチームから契約解除された。細身の体つきだがリバウンドには天才的な才能を見せ、またその屈託のない笑顔と人柄にファンも多い。身長203センチ。

※2 ・・・ bjリーグ、2005年に開幕したプロバスケットボールリーグ。設立当初は6チームが所属し、現在(2009~2010シーズン)は13チームで優勝を争っている。東京アパッチはbjリーグ設立と同時に生まれた東京を本拠地とするチーム。チームカラーはパープル。新潟アルビレックスは2000年に設立された日本初のプロバスケチーム。2005年からbjリーグでプレー。本拠地は新潟。

※3 ・・・ かつて新潟アルビレックスがシーズン終了後に開催していたスペシャルマッチがスーパーBBで、その第1回(2001年)には往年のNBAスター、マジック・ジョンソン率いるオールスターチームが来日し、新潟の観客を大いに湧かせた。

※4 ・・・ 竹田謙、1978年10月5日生まれ。神奈川県出身。青山学院大を卒業後、JBL2部の日本リーグ東京海上でプレーしていたが、退社して新潟アルビレックスのトライアウトに挑戦し合格。3年のプレー後に退団し、現在はJBLのリンク栃木ブレックスに所属する。素晴らしいクイックネスとスピードを誇り、そのディフェンスには高い評価がある。全日本代表選手としてのキャリアもあるサウスポー。新潟時代の竹田謙は、トヨタ時代の折茂、アイシンの小宮邦夫など、相手チームのエース選手をタイトに守りぬいて観客を湧かせた。身長189センチ。

※5 ・・・ 折茂武彦、1970年5月14日生まれ、埼玉県出身。学生時代から日本を代表するシューターとして活躍し、40歳を迎える今シーズンもレラカムイ北海道でプレーを続けている。身長190センチ。

※6 ・・・ 堀田剛司、1978年2月13日生まれ、神奈川県出身。日本体育大学卒業後に新潟アルビレックスで5年のプレー後退団し、現在はJBL三菱に所属。196センチの長身ながらアウトサイドからのシュートを得意とする。

※7 ・・・ グレッグ・ストルト、1976年11月30日生まれ、テキサス出身。新潟には2003年シーズンの1年をプレーしたが、長身からのアウトサイドシュートと、献身的なリバウンドでチームに貢献。練習に試合にと常にベストを尽くすそのハードワーカーなスタイルにファンも多かった。現在はNYのNBAオフィスに勤務。身長203センチ。グレッグのキャリアについては、こちらのインタビュー記事をどうぞ。

※8 ・・・ ニックのようなセンタープレイヤーは、オフェンスでもディフェンスでもゴール近辺でのポジション取りが鍵となる。多くのインサイドプレイヤーは身長だけでなく体の幅があり、そのフィジカル面を生かしてポジションを奪いあうが、体の幅のないニックはゴール近辺での機敏な動きで優位に立つタイプの選手だった。特に、長いリーチとジャンプ力を生かし、ディフェンスの選手の裏をつくプレーは、ニックを生かす有効なセットプレーだった。

2010/01/22 11:58 | コートの外 | No Comments

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