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2008/11/22

とても短い恋をした。
これはその時の、ちょっとした小話。

地方の拠点から東京本社に異動した時、
社内で最も過酷な営業部隊に配属された。
営業ノルマはそれまでの3倍に跳ね上がり
プロジェクトの規模も自分にはあまりにも大きすぎた。

営業プロセスの甘さを指摘されては
「なんで出来へんねん。死ね」と怒鳴られる日々。

そんな日々の中である日、
営業先に同行してもらった人が、それはそれは優しくて、
2回ご飯を食べに行っただけで好きになった。

「上司に死ね!なんて言われるの?俺が文句言ってやろうか」

このセリフだけ。
この一言を、大衆居酒屋で言われただけで、ガクンっと恋に落っこちた。

「アンタも仕事が辛いのねーっ。
そんな時に現れた、王子様的に守ってくれる男子に逃げ込むわけねー。
だけどその人、所詮は弊社関連の人間でしょ?仕事できんの?」
私の、熱を帯びた報告をひととおり聞いた太郎は、
鼻で笑ってそう言った。

太郎は、会社の同期であり、大親友であり、性別不明だ。

「仕事がデキルとかデキナイとか、そんなのそもそも関係ないからっ。
いっとくけどコレ、恋だから!」
「へー。そんな思いやりのある優しい男が
あんたみたいな働き方してる女に本気なワケないと思うけどー。」

なぜかひたすら、全否定をくらうのだった。
太郎は、女子の恋バナに厳しい。

「この百戦錬磨の営業マンが蠢く現場でギリギリ生き残ってる自分の姿を見て、
そして見染めてもらったのだとしたら、この上ない幸せじゃんっ。」
「見染めてもらうって・・・アンタは一体いつの時代の女なの!?」

こうして馬鹿にされながらも、ひたすら恋に落っこち続けた。

仕事への想いや理想も、日々罵倒される悲しみも
相手と共有し、理解された気になって嬉しくて、
それでまで以上に仕事をした。
恋する人と目指す理想が近いというのは
ものすごい営業力を女子にもたらす!

「アンタ、その人と付き合って所帯染みるのとか止めて、
そのまま恋だけしてれば効率いいんじゃない?
全社の利益のためにも、是非そうしてちょうだい。
そうしてアタシの営業ノルマを軽くして」
何度目かの電話で太郎は言った。

でも。

相手より残業は長かった。売上目標も重かった。
まともな時間にメールも電話も返せなかった。
同業ゆえに、仕事の話が多過ぎた。

そして最後の終わりの言葉。
「お前の仕事は、女の仕事じゃない。」

結論を報告すると、太郎は笑った。

「残念ねー!!でも結局、仕事だけが理由じゃないでしょー。
ほら、あれ、企業が採用活動時によく使うセリフ」
「・・・総合的な判断の結果、今回はご縁がなかった事に・・・って、ヤツでしょうか。」
「そうそれ!つまりはご縁がなかったのよ。
そして、総合的な判断の結果、なの。仕方ないじゃない。」

もちろんイロイロ仕方なかった。
でも結局、仕事を理由にされて悲しかった。
もう、ギュウギュウと悲しかった。
その後も淡々と続く業務メールを、切ない気分で眺めたりした。

「ちょっとアンタ、いつまでジメジメしてるのよ。めんどくさいわね。
どうせもともと、仕事が辛いから現実逃避したかっただけでしょー。
恋する事で酔ってただけでしょ。人を愛するという事は、
自分のしんどさだけでいっぱいいっぱいのコドモにはまだ無理よ~♪」

・・・恐るべし太郎。

「だけど太郎も、自称・真実の愛を求めてさまよう子羊(コヒツジ)でしょ?」
「そうよー。共に彷徨いましょう。同期ですもの」

こうして彷徨いだしてから、もう1年以上たっている。
『子羊脱出プロジェクト』
数々の検証を重ねながら、
少しずつ、進む。

2008/11/09

月に一度は名古屋へ行く。

朝、ベッドだけで部屋の8割が占められているような
ビジネスホテルで目覚めると
一瞬、自分がどこに居るのかわからなくなる。
でも、ブラインドで覆われた窓からぼんやりと差し込む光の感じや
ひたすら真っ白なベッドのシーツが目に入ってくるにつけ
「出張の朝だーーー」という実感がわいてくる。
そして少し、安堵する。
東京にいないというだけで
ジャッジされる連続からしばし開放された気分になるのだ。

本当は朝一アポのために前日から名古屋入りしているわけだから
いつもよりも緊張するべき朝なのに。
 
前日、新幹線の終電で辿り着いた名古屋は
全体的に閉店ムードで、繁華街の栄に来ても
すっかり落ち着いた風情であった。

名古屋という街は、なんというかマイルドな雰囲気で、個人的に大好きだ。
また、経営力がずば抜けている個性派企業も名古屋に多い。
街も、企業も、他者と比べてあれこれ言うよりも、
自分たちのこだわりを追求しきっているような気がする。
名古屋支社の同期は「大いなる田舎ですが何かっ」と誇らしげに語り、
そんな名古屋を愛して止まない。

ところで私は、新卒で会社に入社した年に大阪に配属され、
この後、東京に異動した。
だから、日本の3大都市の中で、
名古屋だけは「ヒトの街」という感覚がある。
実際にはアポやイベントで毎月のように来ていて、
多いときには週末のほとんどを名古屋で過ごす程なのに
(そして今やテレ東よりもメーテレの番組に親近感を抱くのに)
未だに、その感覚は薄れない。

そのせいか、名古屋で迎える朝はいつも
アジアの安宿で迎えた朝に似ていると思う。
学生時代、ゲストハウスのドミトリーで寝起きしていた頃、
マレーシアの片田舎で、上海のど真ん中で、朝、無駄に早く起きては
会社に向かう地元の人たちを眺めていた。
長い間、特に目的のない旅に出ていると、
地元の人々の日常が無性に羨ましくなる事があった。
その親密な人間関係や、自分が勝負すべき場所にいるという様な事が。

名古屋出張の朝、
日本有数の製造業密集地域を走る東海道線岡崎行きに、
営業カバン片手に自分も乗り込む。
イヤホンで耳を、日経新聞で視界を塞ぐ通勤客の波に呑まれるのは
いつもと同じ感覚なのに、なんとなく自分だけ浮遊しているような気分。

顧客企業の工場の最寄駅はガランとしていた。
穏やかに朝の光が溢れる駅で、
いつもより、正常に時間が流れている気がした。
少しだけ、心が緩んで、考える余裕が生まれる。

ヒトの街の朝は気楽だ。
でも今日も結局、既にちょっと戻りたくなっていた。
勝負すべき街へ。