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2010/11/25

Junk Stage 読者の皆さま、はじめまして。
本コラムで「平安時代文学」を担当するなおです。
『源氏物語』を中心に勉強中です。連載初回、ということで自己紹介を兼ねて、『源氏物語』研究者(見習い中)が、どのようなことをしているのか、少しばかり紹介させていただきたいと思います。

初めてお会いした人に自己紹介として、大学で『源氏物語』を勉強していること、プロの研究者を志していることをお話すると、(但し研究者として職を得られるのは、ごくわずかの極めて優秀な人々に限られるので、必ずしも目的を達成できるか定かではないことを、もごもごと言い訳することも忘れないのですが)、しばしば、「では、将来『源氏物語』の現代語訳をお出しになるのね」と言われます。
瀬戸内寂聴さんの現代語訳が、現在の『源氏物語』ブームの火付け役となったこともあって「『源氏物語』の勉強=現代語訳をすること」というイメージがあるのではないかと思います。
(ほぼ同時期に、歌人の尾崎左永子さん、その後古典エッセイストの大塚ひかりさん、「リンボウ先生」の愛称で親しまれている林望さんの新訳などが刊行されましたね。作家にとって一度は挑戦してみたい大仕事、なのかもしれません。)

さて、「研究者見習い」の身である私を励まして下さる方々のお気持ちはありがたく受け止めているのですが、結論的に言えば、『源氏物語』研究者が現代語訳を出版する、ということはほとんどありません。研究者が注釈作業を行う際に、物語本文の意味を正確に理解することを目指して、現代語に訳すことはありますが、あくまで原文の理解の助けとしてであって、それ自体が「文学」として試されている作家の方たちの現代語訳とは性質的に異なるのです。

ごくおおざっぱに分類すれば、

作家による現代語訳:現代語訳だけを読んでも、読みやすく美しい。
原文を多少、変更・省略・加筆することが許される。

研究者による現代語訳:原文をそのまま現代語におきかえることで、研究者自身の解釈を示し、読者の読解の助けとする。
正確さ第一!!(読みやすさは二の次・・・)

といったところでしょうか。
(作家の訳が正確ではないということではなくて、あくまで立場と優先順位の違いです。文学性と学術的な正確さの両立のための試みとしては、例えば『瀬戸内源氏』が研究者による語句の解説等を付したことがあげられます。高木和子さんという第一線で活躍する研究者が『瀬戸内源氏』に協力しています。)

では、『源氏物語』研究者(見習いも含む)は何をしているのか?

実は一言では言い表せないほど、近年の『源氏物語』研究は多様化しています。
物語の背景にある歴史的な事実や慣習の分析、物語と和歌の関係についての研究など、従来からあった方法に加え、ジェンダー論・身体論など欧米の理論を導入しての研究、また、物語だけでなく「源氏絵」(物語の場面を描いた絵)の研究など、実に多方面に渡って研究が行われるようになりました。
 
ちなみに、『源氏物語』研究者(見習い)であることを表明した際の、相手の方の反応として、「将来は現代語訳!」の次に多いのは、「『源氏物語』を読んでみたいのですが、どの現代語訳がおすすめですか」という質問ですが・・・・・・

率直な返答を申し上げると「分かりません!」
 
『源氏物語』研究者は、物語の原文を(つまり紫式部本人が書いた文章、に近いと信じられている文章を←説明すると長くなるので端折らせてください・・・)読むことを生業としています。54帖もある原文と、累積した先行研究、その他諸々の関係資料を読むだけで精一杯、新たに54帖×X回分の現代語訳を読む余裕はない、という研究者及び見習いがほとんどだと思います(私だけじゃないはず)。ですから、本屋で源氏物語現代語訳の新刊が出ていれば、気になって手には取ってみますが、なかなか買って熟読して、どれがおすすめかを判断する・・・というまでには至らないのです。

とはいえ、最近の研究の多様化の中で、現代語訳の研究に進出する研究者も出てきました。『源氏物語』だけでなく、現代語訳した作家についても通じていなければいけない大変な分野ですが、源氏研究・近現代文学研究双方の立場から研究が盛り上がれば良いと思います。
 
以上が極めておおざっぱな、『源氏物語』研究者(見習い中も含む)の「お仕事」の説明なのですが、ではお前は何をやっているのか??と問われますと・・・
 
まだまだ研究の方向性は模索中、なのですが・・・
多様化する『源氏物語』研究の意欲的な諸研究には敬意を払いながらも、私自身はもう少し愚直に物語本文を読んでいくことをしたいなぁ、と考えているところです。(物語のおもしろさは、まず原文の面白さにあるのですから!)その上で、物語を成り立たせている「仕組み」を追求していきたい、というのが当面の目標です。
それから、実際に平安時代に生きた人たちがどんな生活をしていたか、どんなことを考えていたか、気になりませんか?(私は気になります)文学研究・歴史学研究双方を覆う壮大なテーマですが、まだまだ分からない点が多いのです(資料的な限界もありますが)。
色々な資料を使って、細々としたことを明らかにしながら、『源氏物語』の理解の助けにしたいと思っています。このブログにも、『源氏物語』の紹介と併せて、平安文学を勉強し始めてから、私自身がびっくりしたこと、面白いと思ったことを綴っていければと思っています。読者の皆さまに、私と一緒になって驚いたり、興味を持ったりしていただけたら、この上なく嬉しいです。

それでは、次回はタモン(中世文学)、次々回は諒(上代文学)がそれぞれ初回のコラムを担当します。
そちらも是非、ご覧下さい!

2010/11/25 12:46 | なお(平安時代文学担当) | No Comments

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