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2010/03/12

atomicsub.jpg  @allcinema
The Atomic Submarine(1959)

潜水艦は(ストックフッテージ以外)自前の映像は全てミニチュアです。最大級の原子力潜水艦も、もちろんミニチュアですがスクリューが回っていたり、それなりにディテールに凝っていて微笑ましい。

当時、子供だったアメリカ人のこうした作品への評価は決まっています。「50年代のB級SFは面白かった。」「子供心に怖かった。当時を思い出して、テレビで放送されるのに気づくと今も必ず見てしまう。」「最近のCGだらけの特撮よりはるかに想像力を掻き立てられる。」などです。

でも、ここまでの評価だと最近の日本人からすると「あぁ、例のB級SFね。吹替えならまだいいけど、字幕を追ってまで見ると疲れるし退屈だよ~」になるわけです。

いけません。見所は他にも色々あるものです。この作品の場合、スタッフ&キャストがテレビ畑の人が多いらしく、セットが安っぽい(ほ、褒めてない…)。いや、安っぽいのではなく、「こなれている」のです。そのため緊張感は高まりません。リアルな空気がない。極寒の北極海の海中を進む重苦しさがない。潜水艦の中なのに「ルーシー・ショー」のような食器棚にコーヒーメーカーがある。さらに「時間ですよ」とか「寺内貫太郎一家」のような画面上の人物配置が楽しかったりします。(テーブルの向こう側だけに人物を置いて、画面の下側はお茶の間の視聴者席のパターン)「潜水艦に空いてるロッカーなんてない」なんてセリフがある割に船室に洋服ダンスがあったり…。とってもテレビ的で~す。

やっぱり褒めてない?いいの。

とにかくストーリーから。冒頭のナレーションを借りて紹介すると、「冒険家ロバート・ピアリーは 20年もの苦難の末――」「1909年に北極点に到達した」「1950年代から60年代の 世界の変貌には彼も驚くだろう」「彼が必死に開拓した 氷の世界が――」「旅行や物流の要衝となっている」「それは空だけでなく 氷の下も同じだ」「広大な北極海の底」「乗客や貨物を運ぶ 原子力潜水艦が――」「何十隻も頻繁に行き交っている」「しかし 謎の惨事が多発し」「北極海航路は ついに閉鎖された」

この謎の惨事の原因になっているのが、なんと…。(ネタバレ自粛)

という話です。ホメロスの叙事詩オデュッセイアに出てくる怪物のような…。

ちなみに本作の1年前の1958年に作られたのがレイ・ハリーハウゼンの「シンドバッド七回目の航海」で、そこに出てくる半獣巨人が…。

たぶん、予算にかなりの差があったんでしょう。このあたりは突っ込むと穴が開きます。

で、そこらへんを補うかのように本作に織り込まれたのが「お熱いのがお好き」や「アパートの鍵貸します」風のロマコメ。そして50年代特有のビートニックカルチャーの若者です。

前者は冒頭の一部だけですが、長い航海の後、久しぶりの休暇をとっている将校がガーフルレンドとイチャイチャしようとしているとノックの音。「休暇は取り消し。帰艦せよ」という命令を受ける。そして帰艦すると「戦争反対。原子力反対。何でも反対」の若い博士が乗り込んでくる。という具合です。他愛ない宇宙人による地球侵略ものではありますが、こうした要素を見ると、時代の空気はしっかり感じます。

そうした空気を感じながら見るのが、こうしたゆるい映画の愉しみなのではないかと…。え?そうした要素を入れているのは、見せ場が少ないから、時間を延ばすための苦肉の策だろ?(そ、そうかも…)

でも、ロマコメ部分は少し洒落てます。以下、ちょっと長いですが、リーフ(原潜の将校=左側)とジュリー(ガールフレンド=右側)がソファでイチャイチャしている時の会話です。

リーフ:
何か感じる?
Do you feel anything?
                         ジュリー:
                         本気なの?
                         Are you kidding?
何かが始まる気がする
This is just the beginning of something.

これは偶然じゃない
We didn’t just meet accidentally.
                         よく言うわ
                         Oh, that’s original.

                         その次のセリフは
                         Doesn’t the next chorus go something like…

                         “至福の時を大切にしよう”
                         ”Let’s not waste one precious golden moment”.

                         “邪魔が入らないうちに”
                         ”Any second there could be a knock on the door and-”
テレビの主人公は
いつも邪魔される
Well,it happens all the time to the heroes on TV

芝居でも 映画でも
Plays, motion pictures.

休暇が取り消されて
The hero gets his leave canceled and he’s-

女性は後悔して…
And she spends the rest of her life whishing…
                         黙って
                         Oh,honey.

                         至福の時を大切にしましょ
                         Let’s not waste one precious moment then.

             ★★★★★★★ノックの音★★★★★★★

                         何の音?
                         What’s that pounding?
この音さ (リーフの鼓動)
Need I say more?
                         リーフ 見て (ドアの下からメモ)
                         Reef, look.
まさか (メモを読み)
Oh,no
                         何なの?
                         What’s wrong?

                         見せて (一緒にメモを読む)
                         What is it?
信じられない (休暇終了のメモ)
Oh, no.

こういった具合です。50年代のB級SFの愉しみはロマコメにありというわけではないですが、(はい、実際にないです。大げさです。)でも愉しみ方が色々あるというのは確かです。

翻訳のポイントとしてはジュリーの「よく言うわ」(Oh, that’s original.)でしょう。ここを「独創的ね」とか「オリジナルね」と直訳すると、会話があさっての方向に行きます。この場合は独創的の正反対で、「よく聞くセリフね」を皮肉で言っているだけです。(こういう所があるからこそ機械翻訳はムリなのですが、あってくれてよかった~。)

あと、これが大変だったのですが、登場人物の上下関係の使い分けです。艦長と副官の上下は簡単です。でも航海長(=副官=少佐)と砲撃長(=大尉)が同郷なのか、長い付き合いなのか、階級差はあるけれど対等に話します。これもまだOK。次は原潜に乗り込む“博士”たち。イギリス人で海洋学でノーベル賞を受けたというイアン卿と原潜の設計者ケント博士。この2人は60歳代で、皆が彼らに丁寧語で話し、彼らも皆に丁寧語で話す。最後に若い博士カール。彼は先に書いた50年代特有のビートニックカルチャー(ヒッピーカルチャーの兄貴分)の若者です。このカールの父親と副長は親しかったようで、その親不孝息子であるカールが副長に話す時の口調が常にしっくりこない…。さらにカールは博士でもあるので、艦長も命令口調ではなく何となく丁寧語で話すべきで…。こうした条件を全部気にしながら原稿を作っていくのですが、これは翻訳がどうこうというレベルではなく頭が混乱してきます。文字数を集約しながらセリフを作っていくと、何回見ても直しが残っていて大変なんです。

「あ!艦長がケント博士に偉そうに話した!」とか、「副長が艦長に『帰れ!』って言った」とか、いくら用心深く見直しても残っていたりします(職業柄、これはすごく恐ろしい事です)。

こうして「ゆるい映画」はまた訳されていくのでありました…。(ふ~)

あぁ、そういえば、この作品はブルースクリーンを使って合成が行なわれた最初期の作品でもあるらしいので、そのあたりも要チェックです。

それと冒頭のナレーションに出てくる冒険家ロバート・ピアリーは実在の人物で、音とスペルからするとピアリーよりペアリーに近いのですが、冒険家の歴史などを調べていくとピアリーで定着しているのでピアリーにしました。

DVD発売日: 2010/03/29

2010/03/12 10:12 | ゆるい映画劇場 | No Comments

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