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2009/08/22

前回のコラムの続きのような話ですが、セリフには1つ1つ意味があります。字幕翻訳で重要なのは(1)ポイントになる情報はどれか。(2)キャラクターの個性を出す言い回しはないか。キャラクター設定から考えて、日本語ではどのような口調がよいのか等々を考える事です。

前回書いた「監視カメラ」は(1)になります。

場面転換のためのキーワードがセリフに入っている場合、それを訳さないと、その作品の流れに乗りにくくなります。

(1)のような伏線を意識できないまま、(2)キャラクターの個性を出す訳をしていくと、一見スムーズに読める字幕になっても、結局は伏線が死んでしまうという事が多々あります。結果的に、字幕を頼る観客にとっては分かりにくい話になります。

多くの作品の字幕では(2)は重視されますが、(1)は案外見落とされます。これはなぜなのでしょう…。理由は色々考えられますが、1つ言えるのは、(2)は原語(英語に限らず何語でも)と日本語の対比によって吟味する必要がないという事です。役者の演技を映像で見て、そのキャラクターに合う言い回しかどうか、日本語だけで判断できてしまうのです。原語に造詣がない人でも「いい感じ」とか「合ってない」と感じる事ができますから。一方、(1)は、当初の字幕が、そのポイントを提示し損ねていると、それを見た人が「このポイントが抜けている」と気づく可能性は極めて低くなります。原語に造詣がある人であれば、それに気づく事もあるかもしれません。しかし、映画を見ながらそこまで分析的に字幕を吟味する事はあまりないでしょう。

映画を見終わった後に、(2)に関しては「字幕の言い回しがキャラに合っていた」とか「合っていなかった」と語り合う事もあるでしょうが、(1)に関して語られる事はほとんどありません。

通常の字幕は(2)ばかりが重視されがちです。先に書いたように、それは仕方ない面もありますが、実際には(1)も等しく重要な要素であり、それは「脚本を訳す」という「字幕翻訳」になります。

乱暴な言い方になりますが、機械翻訳でも字幕は作れます。それに雰囲気でキャラを出すように手を加えれば、それなりにセリフっぽい字幕にもなるでしょう。しかし、映像とリンクする情報を見つけ出す事は機械には不可能です。その意味で、(2)より(1)の方が重要な作業になるのですが、不幸な事にそれに気づく人は少ない…。

次に字幕を見る時、ぜひ皆さんも「脚本訳」というキーワードを頭に入れて見てみて下さい。

2009/08/22 01:07 | 字幕.com | No Comments