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ジョン・セイルズ監督作
久しぶりに「ゆるい映画」です。ユーモラスでハートウォーミングな心地よいゆるさ。ニューヨークはエリス島(昔、移民局があったところ)に墜落したUFOに乗ってきた宇宙人ブラザー。いつの間にか彼はハーレムの酒場に辿り着き、この店に出入りする人々と交流を深めていきます。
ブラザーは一言も話せませんが、身振りでそれなりに意思の疎通をはかり、手をかざすだけで傷や病気を治し、故障したゲーム機まで直せるという特技を使って皆に喜ばれる存在になります。でも、宇宙からの使者が彼を追ってきて…。
あらすじはこんな感じですが、彼が行きあう人々の些細な描写がどれも楽しい作品です。
韓国系の果物店の店先でフルーツを食べて叱られるブラザー。よく見ると、「レジ」に入れるお金を渡せば怒られずにフルーツをもらえると理解した彼は、「レジ」に手をかざして開け、そこからお金を出してフルーツと交換してもらおうとします。
ブラザーは出ませんが、役所の福祉課で生活保護の申請をしたい女性が職員に文句を言う場面も楽しいです。
こんなに書類があるんだよ
出生証明
死亡証明
医者の証明
就業証明
賃貸証明
納税証明
領収書
請求書
こんなに書類があっても
いつも 1つ
書類が足りないって
分かってるわよ
規則が変わったなんて
ウソでしょ
あの男が
書類をなくしたのよ
あんなに書類があったら
電話機だってなくなるわ
今回は私が手続きします
あの男に
書類は渡さないでよ
あの机で私の生活が
行方不明になるわ
不潔な男だよ
あの男を
役人にしたのが間違いさ
風呂に入れて
ゲームセンターには、どんなハイレベルのゲームでも遅く感じて退屈だという凄腕の少女。ブラザーはゲーム機のスピードを上げ、彼女を喜ばせます。
宇宙からの追っ手の2人組は、ブラザーが最初に落ち着いた酒場でドラフトビールのオン・ザ・ロックを注文し、それを一気に飲み干し店主を驚かせます。
そしてタイムズ・スクエアから125丁目のハーレムまで行くため、ブラザーが地下鉄に乗るとトランプのトリックを見せてくれる若者に遭遇。彼はブラザーに「バーテンとジョーという客の話をカードで見せる」と言います。
ハートの3がバーテンでスペードの3がジョー。
“ジョー 客が来ない”
“客を4人連れてきたら”
“2ドルやる”
そこでスペードの3のジョーがカードの山に戻り、26分(枚)後にジョーが戻ります。その次に出るのがキング4枚。客です。次は「2ドル」に相当するスペードの2。そこでバーテンは言います。
“男ばかりで孤独そうだ”
“女を4人連れてきたら
もう2ドル払う”
ジョーは“任せとけ”と出ていく
ここでスペードの3のジョーがカードの山に戻り、今度は17分(枚)後にクイーン4枚とジョーが戻り、2ドル(ダイヤの2)が続きます。
このシーンは文字で説明するのは大変ですが、字幕ではもっと大変。要するに52枚のトランプのカード全部を使って、出すカード出すカードが話に沿った数になっているのが面白いのですが、映像をよく見ていると、さっきあったカードが次のカットでは他のものになっていたり、とにかくテンポの速い編集でごまかしています。そこで字幕も話として分かりやすいように訳しましたが、それにしても速いのでどうしても分かりにくい仕上がりになっています。2分ほどのシーンの間に52枚のカードが出たり消えたりしながら、最後に残る5枚がストレートフラッシュになる流れですが、2分だと目まぐるしいのは当然ではあります。
きっと、カードの彼は実際にストリートパフォーマンスをするプロなのでしょうし、その話術とカードさばきは、話を追えなくても楽しいです。
この若者は59丁目のコロンバス・サークルで地下鉄を降りますが、その時「マジックをもう1つ見せる」「白人を皆 消すよ」と言います。この列車は「Aエクスプレス上り」で「次は125丁目 ハーレム」。白人はここで降りるか各駅停車に乗り換えてしまうのでした。
そんな中、乗る電車を間違えた白人の若者2人が例の酒場を訪れます。イリノイ州から来た2人は道に迷い、物騒な雰囲気の街で困り果てます。さらに運悪く、酒場で隣り合わせたのはブラザー。「地下鉄はどこ?」と聞かれたブラザーは何も言わず親指を下に向け、「君はどこの出身?」と聞かれると親指を上に向け…。
こうした細かいエピソードの積み重ねが1つの作品になっています。過度な暴力もなく、ほんわかした逸品です。
そういえば、英語以外に韓国語、スペイン語、フランス語が少しずつ入ってきて、それらはスクリプトにも入っていなかったのですが調べて訳しました。「ブラザー本人が理解できず呆然とする」というシチュエーションなので、訳がない事にも意味があるわけですが、その中身が分からないという事は訳があっても分かるので、観客にまで分からない状態を作るより、「こう言っているのに通じてないわけね」と分かるようにした方がよいと判断しました。
「バグダッド・カフェ」にも通じる人の優しさに包まれた作品です。機会があったら見てみて下さい。
翻訳は2007年4月で字幕の枚数は905枚。
複数の会社が発売していますが、僕が訳したのは→DVD発売日: 2008/02/27