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2018/09/20

2018年1月12日発売

ジョージ・オーウェルの原作を1984年に映像化した作品です。体制維持のために過去の出来事を書き換え、辞書は版を重ねるごとに薄くなっていくディストピア。どこにスパイが潜んでいるか分からず、長いものに巻かれて生きるしかない人々。庶民のストレスのガス抜きタイムとしての熱狂的な集会…。この物語を語り始めたら延々と続いてしまいますが、この1984年製作の映画「1984」です。

 

本作は1984年末にイギリスなどで公開された後、日本では第一回東京国際映画祭(1985年5月末-6月上旬開催)のヤングシネマ部門で初公開され、その年の秋に一般公開されました。これは日本での大規模な「国際映画祭」の始まりで、1985年の前半は字幕翻訳業界がフル稼働の忙しさだったのではないかと思います。

 

という事で、字幕のチェックも追いつかなかったのでしょう。本作の劇場公開版の字幕に誤訳がありました。翻訳した人かチェックした人の誰かが原作を読んでいたら生まれなかったと思える誤訳です。

 

辞書が薄くなる世界では人々が表現力が奪われていくわけで、たとえば赤、赤緑、紫などの色が全て「赤」になっていったり、「美味しいね」、「コクがあるね」、「味わい深いね」、「美味いね」が「美味いね」しかなくなっている世界です。この「美味いね」しかない世界で「より美味いもの」を表現しようとすると「超美味い」とか「倍超美味い」とか、数量的に表現するようになっているという具合です。

 

この「倍超美味い」が劇場公開版の字幕では「陽性物質」と訳されています。この表現は原作でも「人々の表現力が落ちている」という事を伝える意味でも印象的な一節です。「陽性物質」という原作に出てこない言葉を作るよりも原作に沿う訳をつける方が簡単だったと思うのですが。第一回東京国際映画祭特需で大変だったのでしょう。劇場公開版の字幕ではエンディングの最後の字幕も逆の解釈をしやすい訳になっていました。

 

とはいえ、新訳と当時の字幕はかなり違うので、前の字幕で見た印象が残っている人が見ると「(映画自体が)何か、前に見たバージョンと違うのかな…」という気分になりかねない。ましてや原作のポイントの1つが「過去を書き換える」ですから、新訳と前の字幕でどう変わった分からないとモヤモヤしてしまう人もいると思います。ということで、この作品のブルーレイ版には新旧の日本語字幕両方が収録されています。

2018/09/20 10:39 | 翻訳作品(映画) | No Comments

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