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2009/12/16

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原題はUnknown Island(1948)です。ロストワールド物の古典であり世界初のカラー恐竜映画。という事でワクワク。日本初上陸です。特撮史的に見逃す事はできません!(ほとんどの恐竜が“着ぐるみ”ですが…。)ブロントサウルスが(あんまり動かないけど)出てきます!怪しいディメトロドンも出てきます!背筋がピンと伸びたティラノサウルスも出てきます。それから「毛深い奴」も出てきます。(この毛深い奴はパッケージの左側の写真の奴です。・・・名前、ないし。)

内容は…、ゆるいです。

ストーリーは導入が「ジュラシック・パークⅢ」の感じ。主人公テッドはパトロンのような婚約者キャロルとシンガポールの港町の酒場で船探し。テッドは「戦時中に南太平洋を飛んだ」「日本軍の基地の偵察だ」「でも台風でコースを外れ 何百もの無人島の上を飛んだ」「その時_小島の1つで 戦車の3倍の動物を見た」のです。

そして戦争が終わり、テッドはその島に実際に行って「科学的興味」から恐竜の写真を撮りたいという事で、シンガポールの酒場でタナウスキー船長(名前が長い・・・)に船のチャーター話を持ちかけます。

72分ほどの作品で、この酒場での話だけで15分近くかかります。字幕は900枚少しですが、この15分で250枚ほどまで進みます。恐竜を見せたい作品なので、どうしてもドラマが薄くなっちゃうし、せめて冒頭の港町の酒場では派手な殴り合いとかビールビンで頭をガツンとか、そういう見せ場を作ろうという演出でしょう。

そういえばテッドはタイロン・パワー似の役者さん。キャロルはローレン・バコール風。タナウスキー船長は…、がっしりした体格だけど怖そうというほどでもないヒゲのおじさんと思って下さい。

ここにもう1人登場するのが、実際に恐竜の島に漂着して生還したフェアバンクス(名前が長いって!)という男。彼は1年前に島を脱出し漂流中にタナウスキー船長に助けられたのですが、船長いわく「奴は異常ではないが 脳が日照りで煮えた」「1年前 海で助けた時  ずっとブツブツ言ってた」「家みたいに大きな動物の話を」という人物。フェアバンクスは恐竜の島で仲間達が非業の死を遂げるところを何度も見てきたのです。それでこの1年、悪夢を忘れようと酒に溺れ、廃人のようになっていました。(彼はロバート・レッドフォードのイメージで。)そのために彼もシニカルで不機嫌です。

ここから10分ほどの上映時間で船は「ジュラシック・アイランド」に着きます。そこからは恐竜が色々出てきて…という展開。ここでただ「あ!ブロントサウルス!」「おお!ディメトロドン!」「わ~おティラノサウルス!」と言ってるだけだと子供向けの映画になっちゃいますが、この作品はひねりがあります。普通ならタナウスキー船長は「怖そうだけど、じつは優しい力持ち」となるはずが、かなり酒癖が悪くて、性格も悪い。キャロルに強引に迫ること数回。イヤ~な悪役に早変わりです。(後半、皆に嫌われ深酒して1人で野宿状態になりそうになった時、フェアバンクスに「あんたと残る」と言われ、「フェアバンクス いい奴だな」なんてベタなセリフを言ったりもしますが。)一方のテッドは恐竜の撮影に夢中。キャロルが「もう帰りたい~」と懇願しても、「もうちょっと撮る」とか言い出します。

逆に島に戻ったフェアバンクスは正気を取り戻し、いい人になって…。という人間模様が意外にあってエンディングも、ものすごく意外な展開をあっさり見せてくれます。

まあ、とにかく「世界で初めてカラーで撮影された恐竜映画」(昭和23年のカラー作品ですから)というだけで見る価値満点ですから話はどうでもいいんですが、どうでもいい話が妙に生臭く人間味があって面白いのは確か(っていうか特撮だけでなく、この人間模様への突っ込みでも楽しめるって意味ですけど)です。

それこそ仲間を集めてワイワイガヤガヤ突っ込みを入れて楽しむのに、ちょうどいいペースのゆるい作品だと思います。(褒めてるのか、けなしてるのか、ムリに宣伝してるのか、オイッ!と言われそうですが、「ちょうどいいペースでゆるい」というのが本当に合っている気がします。

さて、ここで本題です。字幕。

16分過ぎあたりで船が出航した後、タナウスキー船長と一等航海士の船上での会話です。

最初に原稿を作った段階では:

一等航海士:盗み聞きされるぞ

船長:一等航海士なら自信を持て

乗組員は日劇ダンシングチームのような先住民役の人達で、彼らは「恐竜の島」の事をうっすら知っている様子。船長達は行き先を言わずに出航したため、行き先を知りたがる彼らがコソコソしているために出てくる会話です。

ところで、この作品は英語のスクリプト無しで翻訳しました。音声自体がクリアーではない部分もあり、僕の英語力では聞き取りが怪しい場合も多々あります。という事で怪しい部分は第一稿を作った後でネイティブに聞き起こしてもらい、改めて訳します。

上記の船長のセリフは聞き取りが怪しかった部分でした。そこでしっかり聞き取ってもらうと:

一等航海士:They sneak up on you before you know it.

船長:Put hobnailed boots on them. You’re the first mate, aren’t you?

だという事が判明しました。一等航海士のセリフはまあOK。船長のセリフは聞き取りが簡単だった後半だけを字幕にしていましたが、前半が面白い表現でした。

そこで最終的に出来たのが:

一等航海士:コソコソしやがって

船長:下駄を履(は)けと命令するか

hobnailed bootsはスパイク付きの長靴みたいなものです。これを履くと足音が大きいのでコソコソ盗み聞きできないというわけです。最初の原稿でも会話や映像の雰囲気にはマッチするので引っかかりなく見られますが、しっかり聞き取りをやると細かいユーモアも出せる例です。(もっとも、爆笑もののジョークというほどではありませんが。)

恐竜映画で他に僕が訳した作品には「原始怪獣ドラゴドン」なんていう、ゆるい映画もあるのですが、恐竜が出る西部劇というレベルまでしか思い出せないので、いつか見直して何か書きたいなぁ。

それから「前世紀探検」(リンク先のallcinemaのデータベースではANIMEになっていますが、実写です。)こちらはドラゴドンより覚えていますが、カレル・ゼマン作品は全く違う意味での「ゆるい映画」です。別の機会に書きたいと思っています。

DVD発売日: 2009/12/29

2009/12/16 10:51 | ゆるい映画劇場 | No Comments

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