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2009/12/13

ごめんなさいm(_ _)m

これは、先日、レイ・チャールズと共演した作品を紹介するためにamazonのサイトにリンクを貼っていて見つけたレビューへの答えです。この作品はテレビ・スペシャル・コレクションに収録されています。

バーブラ・ストライサンドが1965年から73年の間に出演したテレビ・スペシャル5作を収録したBOX。ここにレビューが2つあって、どちらも訳の間違いについて触れています。『どうしても和訳が難しいですね』といった表現で、とても優しい書き方をしてくれているレビューです。しかし、『完全に和訳間違いの箇所もありました』とあり…。汗ダラダラ。翻訳作業は4年少し前に行なったもので、このレビューを読むだけでは前後関係を思い出せず…。さらにこれは5枚組のBOXなので「どの回の間違いなの?それとも間違いがいっぱいあったの?」とやきもき。

もちろん気になって調べました。もう1つのレビューには『「The river was frozen.」は「川が冷たかった」じゃなくて「川が凍っていた」でしょう。そうでないと話のつじつまが合いません。』とありました。とにかくデータを全部見てみました。

するとありました。ユダヤ訛りの英語遊びとか、凍った川が出てきました。「ライヴ・イン・セントラル・パーク」の中にある字幕です。

バーブラが「昔の民謡を歌うわね」と言って紹介する話のところです。話の舞台はラトヴィア。主人公はカンボジア出身の少女です。彼女は妹に恋人を奪われて失意のうちに自殺しようとします。川での入水自殺ですが、川が凍っていて出来なかった…。というオチのある話という感じです。

この作品は英語のスクリプトもありました。レビューにあるように、問題はThe river was frozenです。僕の頭には川が凍るという発想が全くなかったのです。冬のモントリオールで暮らした経験もありますが、凍ったセントローレンス川は見た事がありませんでした。(ひとまず言い訳させて!)

さらに舞台はラトヴィア(寒そう)とはいえ、主人公の少女はカンボジア人です。そこで「川の水が冷たかった」でも、僕の頭の中では勝手につじつまが合ってしまって…。(言い訳です!)

とにかく頭の中ではThe river was frozenが勝手にThe river was frozen coldになってしまっていたわけです…。凍った川には入りようもなく、すんなり笑えたのに…。とにかく川が凍らず冷たかったせいで続く訳もちぐはぐで、最後もユーモアが伝わらない…。というか、訳している張本人(僕です)が、そのユーモアを分からず訳し抜いてしまったのです。(あ~)

字幕演出家を名乗っていますが、勝手にcoldを付けた訳にしたのは、もちろん悪い演出です。(無意識や思い込みは翻訳の大敵です。)

というか、字幕演出家と名乗る理由は最初に書きましたが、従来の「演出家」のやる事には、そもそも正解も間違いも存在しません。「私がこう思ったから、こうなんだ」「これは演出です」で良いわけです。面白くても退屈でも言い訳は必要ありません。その意味で字幕演出家とは、オリジナルの演出を最も適切に伝える演出をする仕事で、とても厳しい仕事だなと思ってしまいます。

さて、本筋に話を戻し、この話の後に出てくるユダヤ訛りの英語遊びの部分。ここに関しては訳に苦労した事は思い出しました。

字幕を全部書き出すと長くなるので、ここでは日本の農具に話を置き換えて説明します。まず「次もフォークソングを歌うわね」みたいにバーブラが言います。次に「そうそう、1つだけ言葉を覚えておいてね」と言う。「鋤(すき)っていう農具。これだけは覚えておいて」「そういえば、この鋤(すき)は犂(すき)とは別もの」「鍬(くわ)とも字が似てるけど、覚えるのは鋤(すき)ね」「踏み鋤とか鎌とも違うから間違えないで」といった具合に1つの言葉を覚えておけと言いながら、いくつもの言葉を覚えさせるような展開でした。シュルーンとかガンパートとかクロームとか色々出てきました。でも、その言葉1つ1つについて、どんな物か調べずカタカナにしたのが僕の字幕でした。

我ながら残念です。川を凍らせて、単語をもっと突っ込んで調べていれば…。DVDといったソフトはディスクが読み取れないといった不具合なら回収し交換する事になりますが、字幕の訂正は現状では実質的に不可能です。車や電車や飛行機や船といった乗り物ならリコールのないように何度も試運転してから市場に出るのに…。とにかく『完全に和訳間違いのところもありました』は、その通りで、直せるものなら直したいです。

僕にとっての救いは、同じレビューの中に『ブックレットの完全和訳は良かった。』とあった事です。このブックレットは60ページほどあって、かなりの作業量だったのですが、問題なくてよかったです。

とにかく、仕事には全力で臨んでいるという気持ちはあるものの、気の緩みも時としてあるし、発想の限界も知識の限界もある。いくら言い訳しても始まりませんが、せめて「間違えちゃって済みません」という気持ちはあると表明しておきたいです。その意味では、こうしたコラムでそれを書ける僕は幸せだと思っています。僕の字幕のせいで楽しみを削がれてしまった人に、重ね重ねお詫びします。それからバーブラ・ストライサンドには素敵なファンがいる事が実感できました。

他の作品やアーティストのファンの人も、下手な字幕や誤訳にはどんどん(優しい言葉で)文句を言って下さい!気づいても黙っていては変わらないし。訳している側は指摘を受けてすぐ直せるものではありませんし、胃が痛くなりますが真摯に聞きます。そうした環境があってこそ、よりよい字幕が増えるはずです。さらに、本の重版のように再プレスする時が来れば、その時に字幕も直そうという動きが出てくる場合もありますから。(字幕版を見ようキャンペーンっぽい…。)

最後にこのボックスの5作品の単品での紹介ページと、もう1本、こちらで訳した1986年の彼女のコンサートの紹介ページをリンクしておきます。

マイ・ネーム・イズ・バーブラ 1965年4月28日 CBSにてOA

カラー・ミー・バーブラ 1966年3月30日 CBSにてOA

ベル・オブ・14th・ストリート 1967年10月11日 CBSにてOA
ここではシェイクスピアの「テンペスト」の一部を彼女が演じます。これの訳はピーター・フォンダの「テンペスト」や原作本を参考にしています…。

ライヴ・イン・セントラル・パーク 1968年9月15日 CBSにてOA
1967年6月17日にニューヨークのセントラルパークで行なわれたコンサートを収録。これが問題の回です…。

バーブラ&アザー・ミュージカル・インストゥルメント 1973年11月2日 CBSにてOA
レイ・チャールズがゲスト出演した回。

ワン・ヴォイス 1986年9月6日にバーブラのマリブの自宅で収録されたコンサート。

2009/12/13 08:37 | 字幕.com, 翻訳作品(音楽) | No Comments

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